ぽっちゃり女子が新しい生き方に目覚める海外ドラマ『Shrill』

米Huluオリジナルのコメディ『Shrill(原題)』は、豊満ボディの主人公が夢に向かって邁進する物語。「明るいぽっちゃりさん」として人気のエイディ・ブライアントが、そのキャラクターを存分に活かして主役を張る。USA Today紙が選出する上半期ベスト作品でTOP10入りし、シーズン2の更新が早くも決定した人気作品だ。

仕事も恋もダメダメなのは、わがままボディのせい?

オレゴン州の小さな会社で、駆け出しのライターとして働くアニー(『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』のエイディ・ブライアント)。雑用ばかりの仕事で落ち込んでいる上、ボーイフレンドのライアン(『her/世界でひとつの彼女』のルカ・ジョーンズ)にはまともに女性扱いされていない。イケてない自分の人生は、すべてプラスサイズのボディのせいだと落ち込む日々。「痩せて本当の自分を取り戻すべき」とジムのトレーナーに励まされても、どこか慰めるような態度に慣れきってしまったアニーは、そのアドバイスすらうわの空。

しかし、ルームメイトのフラン(『ローデッド:4人の幼稚なミリオネア』のロリー・アディフォープ)の助言とちょっとしたきっかけにより、ついにアニーはこれまでの生き方と決別する。とはいってもダイエットに励むのではない。体型へのコメントや他人の意見に翻弄されることから卒業し、自分らしさを貫こうと決めたのだ。厳しい上司のゲイブ(『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェル)をもうならせるような署名記事をいつか書くのだと、キャリアへの意気込みを新たにする。

持つべきプライドと捨てるべきプライド

本作は、英Guardian紙など著名紙にも寄稿しているフリーライターのリンディ・ウェストによる自叙伝のドラマ化。体型にまつわるコンプレックスを、コメディタッチで明るく笑い飛ばす。そもそも自尊心は女性にとって最も危険な存在、と米New York Times紙の女性ライターはコメント。あれこれと物欲にまみれるのは、より美しくありたいという自尊心のせいだと指摘する。しかし同時に、取るに足らない外聞を捨てて研ぎ澄ました自尊心は、新たな可能性への扉にもなり得る。アニーがライターとしての成功を目指す本作は、プライドが良い方向に作用しているドラマだ。美しい作品と評価する同紙は、作品のメッセージにも共感。望んだ通りの世界ではないかもしれないけれど、自分を嫌いになるよりはポジティブに生きた方が確かにいいよね、と読者にも問いかける。

初めこそふくよかな体に悩んでいたアニーも、ストーリーが展開するにつれて徐々に自信を獲得。シーズン中盤であるイベントに参加した彼女は、自分と似た境遇の女性が楽しそうに生きている様子を見て開眼する。不要な羞恥心にとらわれていたと、それまでの生き方に後悔を覚えるまでに成長するアニー。ユーモアの中にも強いメッセージ性がこもった作品だ。

主演女優、さすがの演技力

主演のエイディは、アメリカの女優・コメディアン。『サタデー・ナイト・ライブ』にレギュラー出演しているほか、『アメイジング・スパイダーマン2』では自由の女神像(のコスプレをした女性)という珍しい役をこなしている。本作『Shrill』の成功の多くはエイディの気取らない演技によるものだ、とNew York Times紙。ボロボロに傷つきながらも、殻を脱ぎ捨て人生の新たな章へと踏み出そうとしているアニーを丁寧に表現している。体型のコンプレックスがテーマだが、惨めな空気は少しも感じさせず、愉快なトーンに包まれたシーンが豊富。そのポジティブな空気感をもたらしているのは彼女だろう。

本作でのエイディは素晴らしい、と米Los Angeles Times紙も賞賛。イベントへの参加を通じて自分らしさを身につけたアニーは、「努力不足の太っちょだって、イヤというほど言われてきた」「雑誌を見れば脂肪を落とせという広告だらけ」「痩せる努力なんて小学4年生の時からやってきたのよ!」と泣きじゃくりながら怒りを爆発。ただ周囲の声に流されるだけだった存在からの見事な成長を、エイディは力強く演じている。

愛されキャラのエイディが魅力を振りまく『Shrill』は、米Huluで配信中。(海外ドラマNAVI)

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『Shrill』のキャストたち(中央がエイディ・ブライアント)
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