デヴィッド・テナント、ビリー・パイパー…『ドクター・フー』でブレイクした面々が活躍する最新注目ドラマ5選

英BBCの長寿SFドラマ『ドクター・フー』といえば、イギリス人なら誰もが知っている国民的人気番組で、日本を含む世界中にコアなファンがいることで知られている。1963年にファミリー向け娯楽番組として放送がスタート、1989年に一度は最終回を迎えたものの、16年後の2005年に復活。キャストやスタッフが入れ替わりながら、放送開始から60年経った現在も続いている世界最長のSFドラマシリーズだ。イギリスでは子どもの時に同作を見て育ったファンが大人になり、自分の子どもと一緒にドラマを楽しむというように、世代を超えて愛されている。また、これまで獲得した受賞数も桁違いで、英国アカデミー賞の作品賞にも輝くなど批評家筋からの評価も高い。さらに英ポップカルチャーに与えた影響も多大だ。同作からは多くのスターが生まれてきたが、特に2005年から放送されている新シリーズでブレイクした俳優たちの活躍が目覚ましい。そこで、今回は同作で人気を集めた3人の俳優に焦点を当て、彼らが出演する話題のドラマを紹介したい。

ローズ・タイラー役ビリー・パイパーの『超サイテーなスージーの日常』

2005年に復活した『ドクター・フー』の新シリーズで9代目と10代目ドクターのコンパニオン、ローズ・タイラー役で出演したのがビリー・パイパーだ。15歳で出したデビュー・シングルが全英チャート1位を獲得と、アイドル歌手とした人気を集めた後、俳優に転身。ローズ役が当たり役となって、TVドラマや映画、舞台で活躍。実力派女優としての地位を確立し、クリエイターとしても評価されている。『ドクター・フー』では、2006年の降板後もスペシャル版に出演するなど、ローズのキャラクターは歴代コンパニオンの中でも人気が高い。

超サイテーなスージーの日常

『超サイテーなスージーの日常』のビリー・パイパー

 

そんなビリーの新作が、ダークコメディ『超サイテーなスージーの日常』。ルーシー・プレブル(『キング・オブ・メディア』)とともに原案・製作総指揮も手掛ける。スマホからの写真流出により不倫が発覚してキャリアも家庭も失い、人生最大のピンチに直面した元国民的スターのスージー・ピクルスの日々を、過激な描写を交えて描いている。日本国内でもシーズン1(全8話)に続き、先月にはシーズン2(全3話)が配信開始・放送された。元国民的スター、波乱万丈の私生活など、ビリーとスージーには共通点が多く、自身の半生を彷彿とさせるスージーをビリーが熱演している点が見どころの一つだ。

マーサ・ジョーンズ役フリーマ・アジェマンの『ドリームランド 渚の四姉妹』

ビリーと入れ替わる形で2007年から2008年にかけて10代目ドクターのコンパニオンを務めたのが、ロンドン出身の女優フリーマ・アジェマンだ。フリーマが演じたのは医学生のマーサ・ジョーンズ。『ドクター・フー』の長い歴史の中で初のアフリカ系コンパニオンであり、ドクターに恋をするものの、ローズのことを想い続けるドクターに気持ちは届かずという切ない役どころを見事に演じた。

フリーマはそれまで劇場の案内係として働いていたが、初の大役を手にしたことで一夜にしてイギリスのお茶の間で知られる存在に。「マスコミ対策のトレーニングは受けていたし、人生が変わる準備をしておけと言われていた。撮影中は小さなバブルの中にいるように感じた。“私は撮影セットにいる! ターディスの中にいる!”と自分に言い続けていた」と本人はインタビューで当時を振り返っている。

2008年にスピンオフ『秘密情報部 トーチウッド』で再びマーサ・ジョーンズを演じた後は、米ドラマ『LAW & ORDER』のイギリス版リメイク『LAW & ORDER:UK』をはじめ、『マンハッタンに恋をして 〜キャリーの日記〜』や『ニュー・アムステルダム 医師たちのカルテ』などのドラマにも出演した。

ドリームランド 渚の四姉妹

『ドリームランド 渚の四姉妹』のフリーマ・アジェマン(右はリリー・アレン)

 

フリーマがメインキャストとして出演した最新作は、シャロン・ホーガン(『バッド・シスターズ』)による短編をもとにしたコメディドラマ『ドリームランド 渚の四姉妹』(全6話)。イギリスの海辺の街マーゲイトを舞台に、四姉妹一家の日常生活、恋愛、夢、嘘、秘密、悩みをカラフルでポップな映像とともに描いたもので、フリーマはコントロールフリークで夫を尻に敷きっぱなしの長女トリッシュを演じる。次女のメル役は今作がドラマ初出演にして初主演となるポップ歌手のリリー・アレン。女性中心のキャスト&スタッフにより、自分らしく生きる女性たちにエールを送る作品になっている。一話が30分足らずなので、サクサク見られる気楽さも良い。ちなみに、四姉妹の母親シェリルを演じる女優、フランシス・バーバーも『ドクター・フー』のシリーズ6にゲスト出演している。

ドリームランド 渚の四姉妹

『ドリームランド 渚の四姉妹』のフランシス・バーバー

10代目ドクター役デヴィッド・テナントの『80日間世界一周』『ステージド』

『ドクター・フー』の新シリーズが生んだ最大のスターといえば、スコットランド出身の俳優、デヴィッド・テナントだろう。子どもの時から同作の大ファンだった彼は夢を叶え、2005年から2010年にかけて10代目ドクターを務めた。2010年1月1日に11代目ドクターと交替する形で惜しまれながら番組を去るまで、チャーミングな魅力で楽しませてくれた。ファンからは「歴代最高のドクター」として根強い人気を誇る。

ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーでシェイクスピア 劇に出演するなど、舞台俳優として定評あるデヴィッドは、ドラマにも積極的に挑戦。最近では『80日間世界一周』や『リトビネンコ暗殺』といった意欲作に主演し、高い評価を受けている。

80日間世界一周

『80日間世界一周』のデヴィッド・テナント

 

ジュール・ヴェルヌの原作を映像化したアドベンチャードラマ『80日間世界一周』(全8話)は、ヴィクトリア時代のイギリスを舞台に、紳士社交クラブでの賭けをきっかけに80日間で世界を一周することになった資産家フィリアス・フォッグと仲間たちの冒険を描いたもの。世間知らずで上から目線ながらも、実は秘められた情熱と過去を持ち、時にはずば抜けた行動力と勇気を示すフォッグは、デヴィッドに打ってつけの役柄。お茶目でどこか憎めず、シリアスとユーモアを絶妙なバランスで演じるのは、彼が一番お得意とするところ。その魅力が十二分に発揮された作品だ。

リトビネンコ暗殺

『リトビネンコ暗殺』のデヴィッド・テナント

 

また、ノンフィクションドラマ『リトビネンコ暗殺』(全4話)では、2006年にロンドンで毒殺されたロシアの元スパイ、アレクサンドル・リトビネンコに扮している。猛毒の放射性物質“ポロニウム210”を盛られ、死の床で警官に「暗殺を指示したのはウラジーミル・プーチンだ」と訴える渾身の演技を見せたデヴィッドは、ロシア語訛りの英語のアクセントに挑戦しているのも話題になった。

80日間世界一周

『80日間世界一周』で初の親子共演を果たしたデヴィッドとタイ

 

ちなみに、デヴィッドの妻で女優のジョージア・テナントは、5代目ドクターを演じたピーター・デイヴィソンの娘で、デヴィッドが主演していた『ドクター・フー』のシーズン4にドクターの娘ジェニー役として出演。その共演がきっかけで二人は2011年に結婚し、5人の子どもがいる。長男タイ・テナント(ジョージアの連れ子で、デヴィッドが養子として迎えた)は『80日間世界一周』に出演しており、これが親子初共演だった。

ステージド 俺たちの舞台

『ステージド』のデヴィッド・テナントとマイケル・シーン

 

また、フェイクドキュメンタリーのコメディドラマ『ステージド』では、デヴィッドが『グッド・オーメンズ』の共演仲間マイケル・シーンとともに本人役で出演。コロナ禍でウエストエンドの芝居が延期になった二人がオンラインでリハーサルを行うという設定で、抱腹絶倒の掛け合いを披露、本国イギリスではロックダウンを題材にした最高のエンタメとして大絶賛された。同作にはジョージアも本人役で出演しており、一家の自宅や夫婦の仲睦まじい様子も垣間見ることができる。

クリエイターや以後のキャストも次々と花開く

『ドクター・フー』復活の立役者といえば、2005年以降のシーズン1~4で製作総指揮・ショーランナーを担ったラッセル・T・デイヴィスだ。子どもの頃から同作の大ファンだった彼は、過去の存在になっていた作品を蘇らせ、オリジナルの面白さはそのままに独自のスタイルを確立。従来のファンに加えて新世代のファンも獲得し、21世紀のファミリー向けドラマとして再生させたのだ。彼なしに現在の『ドクター・フー』の成功はなかったと言えるだろう。

2034 今そこにある未来

『2034 今そこにある未来』

 

IT’S A SIN 哀しみの天使たち

『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』

 

そんなデイヴィスは現在も『ドクター・フー』に関わっているが、そのほかにも精力的に活動。2019年から2034年までの15年間の社会情勢をブラックユーモアたっぷりに風刺した家族ドラマ『2034 今そこにある未来』、そして1980年代のロンドンを舞台にHIV/エイズの大流行に見舞われるゲイ・コミュニティを描いたドラマ『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』はいずれも、デイヴィスが製作総指揮・脚本を手掛けた。

ほかにも、マット・スミス(『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』)、カレン・ギラン(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズ)、ジェナ・コールマン(『女王ヴィクトリア 愛に生きる』)などが、『ドクター・フー』でブレイクした後、スターへの階段を昇っている。

放送開始から60年を迎えて

11月25日よりイギリスで始まる『ドクター・フー』60周年記念番組には、10代目ドクターのデヴィッド・テナントが14代目ドクターとしてカムバック。すでに彼は、2022年10月に本国で放送されたシーズン13の特別エピソードのラストで再登場を果たしている。また、ラッセル・T・デイヴィスもショーランナーとして復帰する。

60年間にわたり、世代を超えて愛されている『ドクター・フー』。このドラマから羽ばたいていった俳優たちが出演する良作揃いのドラマも、併せて楽しんでみてはいかがだろうか。

『超サイテーなスージーの日常』『ドリームランド 渚の四姉妹』『ステージド』『80日間世界一周』『リトビネンコ暗殺』は、Amazon Prime Video チャンネル上の「スターチャンネルEX」にて独占配信中。

(名取由恵 / Yoshie Natori)

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Photo:『ステージド 俺たちの舞台“裏”!』(スターチャンネルでは『ステージド2 俺たちの舞台、アメリカ上陸!? #9』)© Staged Films Limited MMXXII/『超サイテーなスージーの日常 シーズン2』© Bad Wolf (IHS2) Ltd. 2022./『ドリームランド 渚の四姉妹』© Sky Studios Limited (2022)/『80日間世界一周』© Slim 80 Days / Federation Entertainment / Peu Communications / ZDF / Be-FILMS / RTBF (Television belge)- 2021/『リトビネンコ暗殺』© ITV Studios Limited All rights reserved./『ステージド』© Staged Films Limited MMXX/『2034 今そこにある未来』© Years and Years Limited 2019/『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』© RED Production Company & all3media international