シアトルの病院を舞台に、恋に仕事に忙しいドクターたちの日々を描く大ヒットドラマ『グレイズ・アナトミー』。すでにシーズン20の制作も決まっている同作から、昨秋より本国アメリカで放送されたシーズン19が、WOWOWにて6月7日(水)より放送・配信となる。それに合わせて、メレディス・グレイの吹き替えを担当する三石琴乃を直撃! このシーズン19をもってメレディスがレギュラーから降板となることや、作品、キャラクターに寄せる思いを語ってもらった。
――いよいよこのシーズン19をもってメレディスがレギュラーではなくなりますが、そのことを三石さんご自身はいつお知りになりましたか? また、その時の第一印象を教えてください。
本国のTwitterをフォローしているので、去年そちらで知りました。いよいよかぁ…という感じでしたね。(ここ数年は)シーズン更新の話になる度に毎回メレディス役のエレン・ポンピオが「やり尽くした」という類のメッセージを発言していたので、終わっちゃうのかな…と。
私としてはどうやって去るのかが気になっていて、最近ようやく(レギュラー降板回となる第7話の)日本語版の台本を読んだんですけど、私としてはもう大納得というか…共感できる感じでしたね。
今作は冒頭とラストにメレディスのナレーションが入るんです。病や医療のことを人間の心情や行動に置き換えたりして、時に皮肉り時に慈愛を持って。第7話のナレーションも、いつものように俯瞰して見ているんですけど、さらに二重三重の視点があって、自分が救った患者さんが児童作家だったのでその絵本の話かと思わせつつ、メレディス自身の人生のことも語っているようでもあるんです。最後は自分が去ることでお話が終わりというわけじゃない、人生が続く限り明日はやってくる、という上手な言葉で締めくくっているので、グッときましたし素晴らしいなと感心しりきでしたね。
このナレーションって毎回秀逸で、ナレーションだけの本を出してほしいって、本当に強く希望します。(クリエイターの)ションダ(・ライムズ)に届けって(笑)
――降板に対するアフレコ仲間からの反響は?
今はまだ新型コロナの影響で分散収録をしているので、なかなかそういう会話ができていないんです。コロナ前は(毎回の収録が)終わったらランチに行ったり、シーズンの始まりや終わりにはスタッフも集まって打ち上げとかをやっていたんですよ。それがまったくないままなので、普段通りこのまま一人で静かに去ることになるのかな…と。でも、それもメレディスっぽいかなと思いますね。
――現在も残っている数少ないオリジナルキャラクターの一人であるメレディスがレギュラーでなくなることは、『グレイズ・アナトミー』にどんな影響を与えると思われますか?
言葉が適切かどうかは分からないんですが、かなりの痛手だと思います。ちょうどこの前収録した回のナレーションで言っていたんです。人間の身体の中にはプラスとマイナスの電気が走っていて、その電気のおかげで自由に動くことができる。プラスとマイナスは人生に似ていて、創造と破壊だ、と。破壊することは痛みを伴うけれど、それによってまた新たなものが生まれる。壊さない限り、そこから先には進めないのかもしれないし、壊すことによって、痛いけれど、何かが生まれる…と。ドラマ自体もそういうモーションなのかなと思います。
――シーズンが進むにつれてメレディスと同期のインターンたちが一人ずついなくなっても、新たな顔ぶれも適宜加わって、素敵な作品であり続けているのですが、やはりメレディスがいなくなるというのは違いますよね…。
タイトルが『グレイズ・アナトミー』ですからね(笑)
――先月出版された著書「ことのは」の中で、メレディスというキャラクターを掴むのが大変だった(掴んだと思ってもすぐ指の間から逃げてしまう)とおっしゃっていましたが、そういう複雑なキャラクターであるメレディスをようやく掴めたと思ったのはどのあたりでしたか?
掴めたと思っても、次の回では“あれ?違う、分からない”ということもありまして…。お話だからちょっと強引に展開させる部分もあるんですけど、やっと掴めたと思ったのはシーズン3とか4あたりですかね。複雑なキャラクターなので、なかなか自信が持てないでいました。
毎回この作品、緊張するんですよ、今日も(笑) なんか、ほんと油断できなくて。テンポのいい作品で、みんな普通にしゃべっているようで、実はこの作品の日本語セリフの分量ってすごく多いんです。専門用語も多く、それをいつもの日常のようにお芝居をしていかないといけない。おそらく私たちが吹き替えている完成映像は編集され、「間」や「ブレス」をカットして繋いでいると思うんです。それに日本語を当てていくのですから、日本の声優ってすごいのかもしれない(笑)
――『グレイズ・アナトミー』ではこれまでも何人ものレギュラーが降板してきましたが、三石さんにとってメレディス以外で降板したことが最も印象的だったキャラクターは誰ですか?
たくさんいるんですけど、一番ガクッと来たのはデレクですね、私がね(笑) メレディスもそうだと思うんですけど。ジョージの時もかなりきつかったです。あとは、アレックスの時は、“お前もか~”って思いましたけど、イジーと幸せなら頑張ってという気持ちになりました。クリスティーナは向こうでしっかりキャリアを生かして戦っていると思うと、まだどこか一緒にいるような気持ちにはなるんです。慣れ親しんだ役や身内の役が亡くなってしまうと…キツいですね。登場人物が抗えない「死」を受け入れた瞬間がとてつもなく悲しくて、本番ではよく泣きながらアフレコしていました。
――デレクといえば、彼が亡くなった後のシーズン17でメレディスと夢の中で再会しましたよね。そのように『グレイズ・アナトミー』では死んでしまったキャラクターでも再登場することがありますが、これまで番組を去った人の中で三石さんが特にもう一度会いたい人は誰でしょうか?
最初のインターン仲間ですかね。みんなでつるんで、ジョーの店でもなんでもいいので、一緒に会話している姿が見たいです。
――『グレイズ・アナトミー』のドクターたちは仕事だけでなく恋にも一生懸命で、メレディスもこれまでデレクをはじめとした何人かのキャラクターと恋をしたり好かれたりしてきましたが、三石さんが考えるメレディスにぴったりな相手は誰ですか?
誰だろう…。旦那さんとしてはやっぱりデレクが一番ですね。彼って受け答えが柔らかいじゃないですか。だから角が立たない。まあ、しょっちゅう喧嘩してたし考え方の違いでぶつかったりはしているんですけど。
私自身もやっぱりデレクが好きで。(演じている)パトリック・デンプシーじゃないですよ。デレクが好きで、自分の夢の中にもデレクが出てくる時期があったんです。デレクなんですけど、声は根本(泰彦)さんなんです。根本さんの声でしゃべるデレクと私、三石琴乃がすごく仲がいいっていう夢なんです。私たちはすごく親しくてお互いを理解し合っているんですけど、声が根本さんだったことに後から気づいておかしくて、職業病だなって思ったりして(笑) でも、おかげで自分は日本語版のキャストが好きなんだ、仕事としてやっていますけど、『グレイズ・アナトミー』は見るのも日本語版が好きなんだなって気づきましたね。
――根本さんにその夢のことはお伝えされたんですか?
言ったような気がしますね。デレクがレギュラーでいた時は(アフレコ収録で)隣に座っていらしたので、お話しする機会も多かったです。伝えた時には、シャイな方なので、“あ、そうですか。お恥ずかしい”というような反応だったと思いますね。最近は夢に出てきてくれないんですけど。
――三石さんはアニメも多数担当されていますが、アニメのキャラクターが概して年を取らないのに対して、メレディスは作品の中でもちゃんと年齢を重ねており、当初は独身のインターンでしたが、そこから仕事でも出世し、私生活では妻や母になったりと、立場や環境が大きく変わってゆきました。そういうキャラクターを演じる上で、アニメの場合とは取り組み方や意識を変えたりされていますか?
実写映像ありきの作品なので、画に忠実に、というところで少しアニメーションとはアプローチが違いますね。外画は呼吸や息遣いとか、微妙な雰囲気を汲み取ってしゃべっています。もちろん長いことやっていると、演じている女優さんも年齢をリアルに重ねるわけですし、そこは私もともに人生を歩んできたのかな、と。
アニメーションでは、例えばそのキャラクターがずっと小学生とか中学生の設定でも、声優は時間とともに肉体が年齢を重ねていきます。そりゃ昔の音声を持ってくれば声は違うんですよ。でも演じている人間の心は変わっていないので、そこは信用していいし、だからこそ、作品が続いても違和感なく見られるのだと思いますね。同じように外画も日本語版のファンの方にはその人の声が染みついているから、大事に演じるようにしています。
――メレディス役のエレン・ポンピオは、シーズン19序盤でレギュラーから降りた後も毎エピソード冒頭のナレーションを担当しています。三石さんも同じようにそのナレーションを務めることで、以後も作品に関わり続けるとファンは期待していいでしょうか?
はい、期待してよいと思います。…っていうか、(メレディス以外の)誰に任せるの?と思いますね(笑)
――『グレイズ・アナトミー』の制作側が発言していたのですが、メレディスはシーズン19のフィナーレに戻ってくることが決まっているほか、シーズン20にも出演すると言われています。レギュラーから降板することで今後は三石さんも収録に参加される頻度が下がるかと思いますが、長らくレギュラーだった作品にたまに出演するようになるというのは、それまでと何か取り組み方が変わるのでしょうか?
久しぶりに出ても、自分や周りに久しぶりという感覚は湧くかもしれませんが、今まで染みついてきた作品なので感覚を取り戻すのは早いでしょうし、演者さんが演じているお芝居に遜色なく日本語でセリフを当てるよう、最善を尽くすと思います。
――『グレイズ・アナトミー』は先月シーズン20制作が決まり、これはアメリカのプライムタイム(19~23時)の医療ドラマとして史上最長記録となります。もともとこの作品はシーズン1のみで終わるはずでしたが、当初から参加されている三石さんは、例えばシーズン2製作が決まったと知った時などに、これだけ長く続くシリーズになるという予感はありましたか?
いえ、まったく。こっちがコントロールできることでもないですし。向こう(本国)で調子良くても、何かあると途端に終わってしまったりするじゃないですか。ですので、そこは冷静に一歩引いて待っていますね。
――クリエイターのションダ・ライムズは「ファンが求めてくれる限り続けたい」と先日発言していました。三石さんご自身は何シーズンまで続くと思われますか?
ションダが作ってくれる限り(笑)、こっちも頑張ります。
――月野うさぎを演じる『美少女戦士セーラームーン』シリーズをはじめ、『新世紀エヴァンゲリオン』や『ドラえもん』など様々な大人気アニメに参加され、来年には大河ドラマにも出演される三石さんにとって、メレディス、『グレイズ・アナトミー』はどういう存在ですか?
シアトルにあるもう一つの人生であり、一緒に歩いている同志という感じですね。日本の中では私が誰よりも一番、メレディスの顔をたくさん見てきたと自負しております。何回も巻き戻したりして。そこは自信が持てます。
――そんな特別な存在とも言えるメレディスへ、最後に三石さんからメッセージをお願いします。
私はメレディスの選択は正解だと思っています。娘ゾラを仕事や恋人よりも優先したんです。自分が母エリスにしてもらえなかったことを。じゃなきゃ後悔しただろうし、どの答えも迷いがあるということをセリフでも言っていたんですけど、ベストで勇気ある選択だと思います。新天地でも彼女らしく、今までよりもっと自由に生きてほしいです。
『グレイズ・アナトミー』シーズン19はWOWOWプライム、WOWOWオンデマンドにて6月7日(水)スタート(※第1話無料放送)。
【二か国語版】毎週水曜日23:00~
【字幕版】毎週木曜日22:00~
【WOWOWオンデマンド】
https://wod.wowow.co.jp/program/185070
(海外ドラマNAVI)
Photo:三石琴乃/『グレイズ・アナトミー』シーズン19 ©2022 American Broadcasting Companies, Inc. All rights reserved.