リチャード・マッデン特集|~次期007最有力候補の青い瞳~

世界的大ヒットを記録した海外ドラマで印象的な演技を魅せた俳優たちは、その後、ハリウッドにおいて引く手数多の存在となり、人気俳優の地位を欲しいままにしていく。近年、そういった現象が顕著だったのは、間違いなく『ゲーム・オブ・スローンズ』だ。「空前のメガヒット海外ドラマ」と銘打たれた同作からは、エミリア・クラーク、ピーター・ディンクレイジ、キット・ハリントンといった数多くの人気俳優が輩出された。

2019年に同作が放送終了してからも、その波は静まるどころかさらに勢いを増しており、4年が経過した2023年も出演俳優たちの快進撃は続いている。2023年4月よりAmazon Prime Videoにて配信がスタートしたスパイ・アクション『シタデル』にて、物語の主人公となるメイソン・ケイン役を演じるリチャード・マッデンもまた『ゲーム・オブ・スローンズ』でブレイクを果たした俳優である。今回は、次期ジェームズ・ボンド=007役の筆頭候補でもある彼のキャリアを振り返ってみよう。

リチャード・マッデン特集

プロフィール

リチャード・マッデンは、1986年6月18日スコットランド・レンフルーシャイア(国籍はイギリス)で生を受けた。幼いころから演劇に興味を抱き、11歳からアートセンターにて演劇を学び始めた。1999年にイギリスのTVシリーズ『Barmy Aunt Boomerang(原題)』で俳優デビュー。2007年にはロイヤル・スコティッシュ・アカデミーを卒業し、プロの俳優として本格的に道を歩み出した。二十代前半の頃はもっぱらTVシリーズや映画の端役が多く、着実に一歩一歩成長を遂げる若手俳優というイメージが強かったリチャードだが、2011年にジョージ・R・R・マーティン原作、HBO製作による超大作ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』にて、メインキャストの一人に抜擢されたことから人生が大きく変わることになる。

キャリアの転機

架空の王国を舞台に、熾烈な覇権争いの様子を壮大なスケールで描く『ゲーム・オブ・スローンズ』でリチャードが演じたのは、北の大地の領主であるスターク家の長男、ロブ・スターク。物語が進むにつれてキーパーソンとなっていき、“北の王”の地位を継承する存在として、存在感をアピールすることに成功。後に「血の婚儀」と謳われる場面での突然のフェードアウトは視聴者に大きな衝撃を与えた。同作で卓越した演技力と強いカリスマ性を発揮したリチャードはキャリアの転機を迎え、同作を降板後には続々と大作映画の仕事が舞い込むようになっていく。

『ゲーム・オブ・スローンズ』より

王子役を好演

中でも、2015年公開のディズニー映画『シンデレラ』における演技には目を見張るものがあった。誰もが知っている往年の名作ディズニー・アニメーションを実写化した同作で、リチャードは、貧しい家庭で使用人のような毎日を過ごすシンデレラと恋に落ちる王子役を好演。かの有名なガラスの靴の持ち主を求めて奔走する姿が印象的な役どころであるが、全世界の観客に最も強烈なインパクトを残したのは、やはりリチャードの宝石のようなブルーの瞳であろう。


劇中で馬に跨り颯爽と登場するリチャードの瞳に釘付けになったというファンも多く、吸い込まれそうな瞳と確かな演技で観客を魅力した。続く2016年には同じくイギリスのTVドラマで人気を博した実力派俳優イドリス・エルバと共演した映画『フレンチ・ラン』、2017年にはフィリップ・K・ディック原作によるアンソロジー・シリーズ『フィリップ・K・ディックのエレクリック・ドリームズ』に出演するなど、話題作への出演が顕著となっていく。

人気スターの仲間入り

『ロケットマン』より

さらに2018年にはNetflixにて配信されたTVシリーズ『ボディガード -守るべきもの-』で主演を務め、第76回ゴールデングローブ賞ドラマシリーズ部門の主演男優賞を獲得。名実ともに人気スターの仲間入りを果たしたのである。そして、2019年、リチャードの人気を決定づけた作品が公開となる。『ロケットマン』だ。歴史上もっとも偉大なシンガーの一人にも数えられるエルトン・ジョンの半生を描く同作で、リチャードはエルトンのマネージャーであるジョン・リード役を好演した。エルトンと関係を持ち、次第にモラハラ気味になっていくキャラクターであったが、リチャードは感情を抑えた演技で体現。悪役的立ち位置をキープする役どころではあるものの、その演技は高く評価された。

7代目ジェームズ・ボンドの有力候補

話題作で印象的な演技を魅せたリチャードは、『1917 命をかけた伝令』(2019)、キット・ハリントンと再共演したマーベル映画『エターナルズ』(2021)などでも安定したパフォーマンスを披露し、TVだけでなく映画でもカリスマ性を発揮できることを証明。いつしか、ダニエル・クレイグの後任となる7代目ジェームズ・ボンド=007の有力候補として名前が挙がるようになっていく。

『エターナルズ』より

そんな007役に向けてのカメラテストと言わんばかりの作品が、Amazon Prime Videoにて配信中のスパイ・アクション『シタデル』だ。同作は、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)や『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)などで知られるアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟が製作総指揮に名を連ねる超大作だ。全人類の安心と安全を守るグローバルスパイ機関“シタデル”のエージェントだったメイソン・ケイン(リチャード・マッデン)が、ある任務中に記憶を失ってしまったことから物語の幕が開き、彼が自身の記憶を探りながら、世界を陰から操る巨大シンジケート“マンティコア”の陰謀を阻止しようとする。

『シタデル』より

セクシーな魅力とイタズラな笑顔

まるで、1970年代から80年代にかけて製作された「007」映画のようなプロットのもと進行していく作品であるが、主演を務めるリチャードもまた、ジェームズ・ボンド役の予行練習とでも言うかのような存在感を放つ。冒頭における決死のアクションは『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)を彷彿させ、セクシーな魅力とイタズラな笑顔を兼ね備えた演技の数々は、自らが次期007に相応しいことをアピールしているようにさえ見える。第1話後半からは記憶を失った元エージェントとして硬派な演技を魅せるようになっていき、演技幅の広さも魅せつける。まさに本作はリチャード・マッデンの、リチャード・マッデンによる、リチャード・マッデンのための作品と言っても過言ではないのだ。ファン垂涎という言葉だけでは収まりきらないほどに、リチャードの魅力で溢れかえった海外ドラマである。

『シタデル』より

ジェームズ・ボンド=007役を演じる条件として、イギリス人であること、178cm以上の身長であること、40歳未満という項目が巷では噂されているが、リチャードは身長が少し足りないだけである。しかしながら、ほんの2cmほどの差であるため、ほとんど条件クリアと言えよう。『シタデル』でのリチャード・マッデンのカリスマ性と演技を観れば、彼が7代目ジェームズ・ボンド=007にピッタリであることが判明するであろう。そういった意味でも『シタデル』という作品は、リチャードのファンならずとも視聴必須の海外ドラマなのである。

(文/Zash)

Photo:リチャード・マッデン©James Warren/Famous/『シタデル』©Amazon Studios/『ロケットマン』©2018 Paramount Pictures. All rights reserved./