クロエ・グレース・モレッツ主演のSFスリラードラマ『ペリフェラル~接続(コネクト)された未来~』は、いま現在、われわれが生きている2022年から然程遠くない2032年が舞台。わずか10年後の未来のお話なのである。だからこそ、決して他人事ではない未来の姿が描写されており、観る者に言いようのない説得力をもたらしていると言えるのだ。【ドラマレビュー】
原作者はサイバーパンクの巨匠
『ペリフェラル~接続(コネクト)された未来~』を語る上で、まず触れておきたいのは、同名のベストセラー小説の作家について。原作者ウィリアム・ギブソンは、1984年に発表したSF小説「ニューロマンサー」で一躍脚光を浴び、“サイバーパンク”と呼ばれる一つのジャンルを確立した。その後もいくつかの小説を発表する傍ら、TVドラマ『X-ファイル』のエピソードで脚本を執筆するなど、“サイバーパンクSF”の第一人者として多岐にわたる活躍を続けてきた。
過去には大ヒットSF映画『エイリアン』シリーズ3作目の脚本に抜擢されたこともあったのだが、製作側との意見の相違により頓挫。のちに『ウィリアム・ギブスン エイリアン3』としてアメコミや小説が刊行される運びとなった。そんなギブスンによる“サイバーパンク感”溢れる原作小説の世界観を忠実に再現したのが本作である。
『ペリフェラル』で描かれる未来とは
静かな田舎町でうだつの上がらない生活を送る主人公フリン(クロエ・グレース・モレッツ)は、ゲームが得意だった。ある日、兄のバートン(ジャック・レイナー)がそんな妹に託したのは、新作シミュレーションゲームのテストプレイでお金を稼ぐ仕事。フリンは兄に言われるがままゲームの世界へと飛び込むが、そこに広がる世界は現実と大差ないものであり、感覚までもが驚くほどリアルだった。しかし、このシミュレーションゲームへの“接続(コネクト)”が、フリンの人生を大きく変えることになり、様々な思惑が交錯する陰謀に巻き込まれていくことになる…。
物語はシミュレーションゲームが発端となる。現代で言うところのVRゲームのような感覚のものだが、驚くほどにゲームのクオリティが上がっているように感じさせる。フリンが最初に趣味でプレイしているゲームは、まるで現実世界の人間を操っているかのようなリアリティ! この先10年後にここまで進化を遂げるかどうかはわからないが、なかなか楽しみなのは間違いない。
その後、フリンは物語の舞台である2032年よりもさらに70年も先の未来とシミュレーションゲームという形で“接続(コネクト)”することが可能になるのだが、その70年後の未来には、原作者ギブソンらしい世界が広がっている。AIを搭載したアンドロイドが街を闊歩し、近未来的な車が走行する道路には行き先を示す矢印が自動で表示されたり、他人の意識をデータ移動できる“ペリフェラル”と呼ばれる人形が存在していたりと、まさにギブソンのサイバーパンク感を具現化したようなのである。
こういったSFファン必見の世界観はもちろん素晴らしいのだが、特筆すべき点は他にもある。本作で描かれる未来というのは、われわれが今まさに暮らしている現実世界を踏襲したものになっているところにも注目したい。
それは2032年から70年後の世界のこと。ジャックポットと呼ばれる幾つかの災いにより人類の大半が死滅したと語られる。その原因の一つにウイルスによるパンデミックも組み込まれている。まるで、歴史に刻まれるような過酷なパンデミックの下で生きる我々の行く末を案じているかのよう。
劇中でコレラの発生源を突き止めた医師ジョン・スノウ(『ゲーム・オブ・スローンズ』ではない)を偉人として讃えている部分にも感染症がもたらす災いがいかに人類史に多大な影響をもたらしてきたかということを謳っているように思う。だからこそ序盤にも述べたが、決して他人事ではない未来が映し出されていると、視聴者は感じ取ることができるのではなかろうか。
2032年…およそ10年後から始まる本作は、パンデミックを経験した2022年の時間軸に生きる我々だからこそ、非常に突き刺さる。そして、目を離してはいけない作品と言えるだろう。
『ペリフェラル~接続(コネクト)された未来~』は、Amazon Prime Videoにて配信中。
(海外ドラマNAVI)
Photo:『ペリフェラル~接続(コネクト)された未来~』©Amazon Studios