世界的メディア王 "ルパート・マードック"をモデルにしたと言われる華麗なる一族による骨肉の後継者争いを辛辣に、かつシニカルに描いた『メディア王~華麗なる一族~』。その最新シーズンとなるシーズン3がU-NEXTにて独占配信中だ。本作でロイ家に情けないほどの媚びを売り、なんとも憎めないトムを演じるマシュー・マクファディンに話を伺った。
――グレッグとの関係性が非常にダークで見ていて愉快です。演じるうえで、どのようにこの関係性にアプローチしているのでしょうか?
脚本家が本当に素晴らしいキャラクターとセリフを書いてくれているので、そのおかげだね。実はそこまで入念に準備をするわけではなくて、僕たちが心がけることは、まずはちゃんと笑いをこらえておくこと。つい吹き出してしまうことが多いから。でも、本当に演じていて楽しい。これだけ素晴らしい脚本を書いてくれる人たちがいると、こちらとしてはそんなに難しいことではないんだよね。あまり楽しみすぎないように、抑えを利かせなければいけないという難しさはあるけれど。
――自分自身の要素を役に取り入れていますか? その度合いは?
役者としてやることは、本当にセリフを覚えて想像力を働かせてということ。自分自身の素がどれだけ入っているかっていうのは、数値化はできないね。
――個人的に大好きな『ハウエルズ家のちょっとおかしなお葬式』でもシリアスだけど笑えるキャラクターを演じられていました。トムの意地悪な行動にも、どうも共感してしまうのですがご自身で印象に残っているシーンはありますか?
本当にそうだね。その通りで、トムを演じるのはすごく楽しいんだ。今思い浮かんだのは、グレッグがトムの元を離れようとするっていうシーンがあったよね。部署を変えたいって申し出るんだけど。あのシーンはとてもよく書かれていた。シヴもお互い自由恋愛しましょうみたいなことを言うわけだけど、それとは状況が重なるんだ。グレッグにも実質同じようなことをされている状況なわけだ。本当はメンターになってあげたいと思っている相手からそうやって突きはねられる。そこで彼はブレイクダウンを起こしてしまう。こういうシーンは本当に演じていて楽しいよ。すごくおかしいんだけど、でもそのおかしさはそれなりに伝えたい意味がその根底に流れているからで、そうでないとただのコントになってしまうから、そういうところから信憑性が来るのだと思う。
――アウトサイダーのトムですが、なんとかロイ家の一員になろうとしています。トムが仲間入りを果たすにはどういった代償を払わなければならないと思いますか?
もし仲間入りを果たしたいのであれば、自分の感情のどこかを押し殺さないといけないんじゃないかなと思う。グレッグとトムの違いにも、関わってくると思うけど。トムとグレッグは、ロイ家とは本質的に違うと思う。それは育ちが、彼らよりひょっとしたら幸福だったんじゃないかと思うんだ。そこに違いがあるんじゃないかな。だからそういう意味では、トムは正真正銘のロイ家の一員になるということは多分ないと思うけれども、この先何があるかわからないね。
――トムは対峙する相手によって態度を変えるところが面白いです。そういうところがすごく人間くさいと思いますが、それをどうアプローチして演じているのでしょうか?
誰も認めたくはないかもしれないけれど、人間というものは人によって態度を変えるものだよね。違う一面を見せる。「自分自身はこういう人間である」という「核」があるように人は思いたいけど、実際はそうではない。いつも仮面をかぶっている。そして人によって、仮面の色が変わってくるわけだ。態度であったり、ステータスであったりが変わる。トムにはかなりそういう傾向がある方で、そういう意味ではシェイプシフター(いろいろな姿に変身する妖怪)だと思うんだ。話す相手によって、別の色に変わってしまう。だから俳優としては、これほど演じていて楽しい役はないんだよ。
――今、私たちは非常に民主的な時代を生きていますが、こういう時代にありながら、ある種の王族主義、君主制をカムバックさせているような感じがあります。トムにとって予想しない形で、ある種の王子様にさせられるわけですけれども、それについてどう思いますか?
非常にいい質問だね。トムは多分、いつもひょいひょい球をよけながら、ロイ家に認められようと一生懸命になっていると思うんだ。他のロイ家の兄弟たちと同じように、要は義理の父から注目を浴びたい、認められたいという欲求があるんだと思う。トムはそんなにバカではない。野心はあるし、能力もある。テレビの会社の中で手腕を発揮しているわけだけど、トムにとってはここから這い上がるのは、決してたやすい道ではないというのは確かにあるよね。
――シーズン1~2でも聞かれたかもしれませんが、シヴとトムはなぜまだ一緒にいるのだと思いますか?
シーズン1~2とシーズン3の間のタイムギャップって実はそんなにないんだ。トムとシヴが一緒なのは、まずトムが脅威ではないからっていうのもあり、それが一つの理由だと思う。その後、お互い自由恋愛しようと彼女は持ちかけるわけだけど、シヴにとっては安心できる相手、安全な相手だと思っているんじゃないかな。それが理由だと思う。それなりに仲の良い夫婦なんだよ。でも面白いよね。確かに考えたくなる。そういうところからこの作品の面白さは出てくるんだと思うよ。
――今後トムとグレッグ、シーズン3ではどういう展開が待ち受けているのでしょうか? どのようにしてこの階段を上っていくのでしょうか?
そうだね、あんまりネタバレになることは言えないので、内容の多くは刑に服すかどうかっていうことに関わってくると思うんだけれど。いわゆるクルーズ船のスキャンダルが、彼らにのしかかってきているので。なので、差し迫る危機をどうにかかわそうというか、処理しようとしているわけだけど、色々とトムとグレッグに関しては面白い展開が待っていると思うよ。
『メディア王~華麗なる一族~』シーズン1~3はU-NEXTにて見放題で独占配信中。ケンダル・ロイ役のジェレミー・ストロングへのインタビュー記事はこちらより。
(文・取材/編集部AKN)
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『メディア王~華麗なる一族~』シーズン3© 2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.