2011年、ドラマ界は女性脚本家が大健闘! 脚本家から考えるパイロットの傾向とは?

パイロットシーズンが到来し、各局新作シリーズが出そろった。今年、製作されたパイロットは計81本。昨年の66本に比べて本数も増えているが、それ以上に目立つのは女性脚本家またはクリエーターの存在だという。番組の企画を考え、脚本を各局に売り込むというパイロット製作の現場において、"脚本"はまさに製作決定の決め手となる。そして女性脚本家が増えた背景には、どうやらドラマをピックアップする局側の"求めるもの"が変わったことにありそうだ。

■昨年のパイロット不調が、女性脚本家の大躍進につながった!?

米Deadline.comが発表したレポートによると、昨年は女性脚本家にとって 最悪の年だったが、今年は一転して大躍進の年になったそうだ。
まず発表された数字によると、昨年の米4大ネットワーク局(CBS、NBC、ABC、FOX)のパイロットのうち、「女性単独ないし女性のみのチーム」、または「男女混合チーム」が執筆した作品は、パイロット総数(66本)の20%に過ぎなかったという。その内訳はドラマでは24%、コメディでは16%。さらに「女性単独ないし女性のみのチーム」が手がけたパイロットに絞ると、さらにぐっと数字が下がってわずか11%という結果になった。本数にすると約5本程度になり、ほとんど女性脚本家の出番がなかったということになる。つまり各局で1本あるか、ないかの数字だ。ただ例外だったのは、ティーン層向けの作品を得意とするCWで、6作品しかパイロットを製作しなかったとはいえ、その半数に女性脚本家の作品を選んでいた。
では、今年のデータを見てみよう。ここでは各局を2つのカテゴリーに分けた割合を示した。「おおむね女性脚本家」(女性単独ないし女性のみのチーム、または男女混合チームが執筆した作品)と「女性脚本家のみ」(女性単独ないし女性のみのチームが執筆した作品)だ。

「おおむね女性脚本家」    「女性脚本家のみ」
■ABC  28% (36%)↓     28% (16%)↑
■FOX  36% (0%)↑      20% (0%)↑
■NBC  41% (19%)↑     36% (14%)↑
■CBS  36% (21%)↑     14% (11%)↑
■CW  50% (50%)→             -
※カッコ内は前年の割合

やはりどうしても男性優位であることは間違いないのだが、それでもNBCは全体の半分にまで迫る勢いだ。ちなみにABCは全体的に女性の割合が減少しているものの、「女性脚本家のみ」が大幅にアップしている。これは女性脚本家の進出が難しいと言われているコメディで、採用したパイロットの半数が「女性脚本家のみ」という結果だ。ABCは、性別を問わず作品を起用する局としてリーダー的な役割を担っており、幅広い作品をピックアップするという。今年、最も多くパイロットを採用したのもABCだ。
ただし各局とも女性の脚本家だからピックアップしたわけではない。それは"視聴者が女性の脚本家だから"テレビシリーズを見るわけではないと同じ理由だ。
女性脚本家の作品が増えた要因に、"価値観の多様化"というキーワードが浮かぶ。"はずれ年"と言われた昨年の失敗に学び、今年は異なる価値観や視点を取り入れようと、より前向きなマインドで作品の選択に取り組んだようだ。その結果、男性だけでなく女性の視点を取り入れたストーリーやキャラクターが登場。こうした価値観の幅が女性脚本家の活躍の場を増やしたようだ。そのため2011年は性別による考え方や個々の信条、民族意識の違いを反映した多様な作品が豊富に登場している。

■凄腕プロデューサーほど異性と組む!

J・J・エイブラムスの右腕と言えば女性脚本家モニカ・ブリーンとアリソン・シャプカーというように、製作総指揮やドラマの内容に関して全権を握るショウランナーが、あえて作品に自分とは違う視点を入れるために、脚本家に異性を選ぶ場合が増えていていることも、女性脚本家の躍進につながっているだろう。また監督の方がより男性社会であり、男性の監督が圧倒的に多いため、あえて脚本家は女性にしてバランスをとることも考えられる。
例えば、今年のパイロットで話題となっているスティーヴン・スピルバーグ製作ドラマは2シリーズあるが、SFアクション大作である『Terra Nova』は、家族の物語というソフトな部分も重要になってくるため、女性の脚本家もチームに採用されている(男性2人、女性1人)。そして若き女優がブロードウェイ・スターへと成長していく姿を描いたミュージカル・ドラマ『Smash』は、『LAW & ORDER』の女性脚本家テレサ・レベックが担当。実は、映画界ではスピルバーグ作品に登場する女性は基本的に魅力がない...という"常識"があったのだが、このドラマはいい意味で期待を裏切り、少女マンガのようなメロドラマ感を出している。
J・J・エイブラムスの『Alcatraz』でも『LOST』で組んだエリザベス・サーノフが脚本チームに入っている。また反対に女性プロデューサーやショウランナーの場合は、男性の脚本家を起用しているケースが目立つ。例えば、『恋するアンカーマン』のクリエーター、グレッチェン・J・バーグがショウランナーを務める『GCB』は、映画『マグノリアの花たち』や映画『ファースト・ワイフ・クラブ』など女性群像劇を得意とする男性脚本家ロバート・ハーリングを起用。高校のアイドルだったヒロインに恨みを持つ郊外のセレブ妻たちが、復讐しようとあれこれ画策するという極めて女性的なテーマを非常に楽しく仕上げている。
やはりテレビで成功しているプロデューサーたちも、内容のバランスを重要視しているということだろう。

■第2のティナ・フェイになれるか!?
女性クリエーターが苦戦するコメディ界で新星登場!

"笑いは男のもの"と言わんばかりにシットコム界では、特に男性クリエーター、脚本家が圧倒的に多い。そんな中でヒットを飛ばし、主演と脚本、製作までこなすティナ・フェイはすごい存在なのだが、"次なるティナ"として注目したいのがコメディアンヌのウィットニー・カミングスだ。
映画『近距離恋愛』などに出演する彼女が脚本、製作、主演を務めるコメディ『Whitney』はNBCで放送決定。さらにCBSでは『セックス・アンド・ザ・シティ』のマイケル・パトリック・キングとタッグを組み、脚本を手がけた『2 Broke Girls』の放送も決まっている。
特にCBSでは、今年も昨年同様9本のコメディがピックアップされたが、「おおむね女性脚本家」の作品が1本、つまりこの『2 Broke Girls』のみで、「女性脚本家のみ」の作品は皆無という結果に終わっている。これは、チャック・ロリー(『ハーパー★ボーイズ』、『ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則』などを手がけるクリエーター)がCBSをがっちりサポートしているため、それほど必死でコメディ作品を開拓する必要がないということも一因にあるようだ。またCBSのコメディは、これまでもたいてい男性の実績ある脚本家が手がけているという特徴がある。そこに切り込んだのが、このウィットニーというわけだ。
実際、コアな笑いを追求する傾向にある男性クリエーターのシットコムよりも、女性脚本家が手がけたガールズものの方が"笑い"がわかりやすい。この『2 Broke Girls』のほかに、『Apartment23』(ABCにて放送)や映画『(500)日のサマー』のゾーイ・デシャネル主演の『The New Girl』(FOXにて放送)も女性脚本家による作品で、ラブコメ&ガールズトークの要素が盛り込まれた作品に仕上がっている。

脚本重視と言われているアメリカのドラマ界だが、意外に日本では知られていない脚本家の影響。
シリーズが続けば、自然と男女混合チームになっていくのだが、パイロットだけを見ていくと男性、女性、男女混合の色合いと特徴がよく出てくる。男性で固めたロバート・デ・ニーロの警官ドラマ『The 2-2』は非常に硬派であるし、ションダ・ライムズの新作は女性ならではの感情的なドロつきが描かれている。さて、今年、躍進した女性脚本家たちのドラマはどのように展開していくのか。脚本家という視点からドラマを追うのもまた楽しいかもしれない。