スピードと発想の勝負!  ドラマや映画を支えるメイクの技を競う、 Syfyチャンネルの『Face Off』が凄い!!

今年の前半、お先見ドラマ日記で、WGN Americaチャンネルの魔女狩りドラマ『Salem』(セイラム)の中のメイクアップについて、「特殊メイクがえげつないほどに見事で恐ろしい。村人達が恐れる幻想や幻覚の中に登場する怪奇な姿(魔女伝説の中の動物がモチーフとして頻繁に使われている)の造形には、眼が釘付けになる...」と書き、またSyfyチャンネルで、真田広之さんがレギュラー出演して話題になった『Helix』(ヘリックス)の劇中のメイクについても「感染の段階/変貌を描写するメイクの凄まじさ...」と書いた。

今日は、それらSFやホラー、いや犯罪モノや医療モノなどあらゆるジャンルの映画やドラマ作品のビジュアルの信憑性を支えている《メイク》の分野で、その技を競い合う好番組を発見したので、「特別編:お先見"ドラマ関連"日記」として皆さまに、このリアリティー番組をご紹介したい。

その名も、

『Face Off』("対決"の意)

スターダムや実力者の座を志し、歌手やダンサー、ファッション・デザイナーや料理人たちが毎週異なるテーマの課題を乗り越え競い合い、ライバルが週毎に一人、また一人、と脱落していき、最終週のフィナーレで全米チャンピオンが決定する! という番組のフォーマットは『アメリカン・アイドル』や『プロジェクト・ランウェイ/NYデザイナーズ・バトル』などの大人気のショーで、もうすっかりおなじみだろう。

このフォーマットで、「特殊メイク」の技術と発想を競う番組があるなど、僕は今年になるまでまったく知らなかった。というか、マニアック過ぎるなぁ...、そんなの視聴者を引き込めるのかなぁ...、という半信半疑な思いで、この番組(なんと7シーズン目だという!)を見始めた。

驚いた。これが実に面白い!!

もちろん、編集の妙などもあって巧に盛り上げられてはいるのだが、それは他の分野のリアリティー番組でも同じこと。

目を見張るのは、競技参加者たちの力量だ。メイクアップ・アーティストを目指す若者や、多少業界ですでに経験のある者など男女十数人が、1シーズンに亘ってしのぎを削る。

技を競うレースは1チャレンジ(1週)につき、3日間。

1日目:自分がメイクで創り上げるキャラクターのコンセプト・デザインと、その造形(粘土の彫像)を仕上げる。制限時間は5時間。

2日目:その彫像の型をとり、それを液体状のラテックス(ゴム)で顔から肩、胸までを覆うマスクを造る。また、コスチュームやキャラクターが手にする小道具なども造っていくという相当な仕事量をこなす。すべての造形フォームを2日目にして完成させる必要がある。制限時間は10時間。

3日目:工房にモデルとなる人物を招き入れ、競技者たちは、マスクと衣装を着せ、顔、胸、腕など全身を、自分のコンセプト・デザインに添ってモデルさんに付着や装着させていき、彩色を施し、無色だったマスクや身体の表面をおどろおどろしく、または鮮やかに見せ、命を吹き込む。制限時間は4時間。そして、番組の司会者と審査員たちの待つスタジオに移動し、最後にメイクを "タッチアップ(仕上げの微調整)" する。ここでの制限時間は1時間。

以上、20時間しか持ち時間がないが、おそらくテレビに出場するまでにすでに篩(ふるい)にかけられているであろう競技者たちは、かなりハイレベルの特殊メイク・キャラクターを作りだす。

ジャッジ(審査員)の顔ぶれも、半端ではない。通常3人のジャッジが作品の出来を判断するのだが、その内の1人、女性メイクアップ・アーティストで貫禄溢れるヴェ・ニールさんは『シザーハンズ』『エド・ウッド』『ビートルジュース』『ミセス・ダウト』等の著名作品のメイクを手がけ、アカデミー賞を3度受賞している逸材である。

出場するアーティストたちにとっても、もしこれら最高の審査員らに力を認められて勝つことができれば、どれほど大きな意味を持つか? その真剣勝負の度合いもわかるというものだ。

毎回与えられるテーマも観る者を飽きさせない。「動物」「樹木」「宇宙人」「スーパーヒーロー」「狼男」などの課題が提示される。さらに、それらの課題には常に「一捻り」が加えられる。ただの「樹木」ではなく、木の表面が腐っている、虫がわいている、など。それらを、自分に与えられたモデルの人物に合わせて、擬人化するのだ。

厳しいタイムリミットや、捻りを入れたテーマは、競争のための意地悪で課されているのではなく、しっかりと意味がある。

映画やドラマの撮影現場は、常に時間と予算繰りの闘いである。そして、監督やプロデューサーらの斬新なアイデアによって、急遽、撮影直前に演出の方向性が変わることもある。その、突然の変更や、時間に押されるプレッシャーに屈せず、求められているものを絞り出し、コンセプトを形にしていく、強いハートと独創性もまた、"技(能力)" の一つなのだ。

この勝負の行方を見つめるのは、番組の放送が1時間枠で編集されているとはいえ、なかなか見応えがある。出場者たちは、まだまだ埋もれた存在。彼ら、彼女らが、果敢にテーマに挑み、素晴らしい作品に昇華したり、失敗に愕然としたりする展開には自然と感情移入してしまう。こういうハイレベルの競争のリアリティー・ショーは、日本でも玄人受けするのではないだろうか。いや、一般的にも充分楽しめるはずだ。

1シーズン前(S6)の第8話では、出場者たちはなんと日本へ飛んでいる。この時のテーマは、「アニメのキャラ」。捻りはアーティストらが「もし、"自分"がアニメになったら?」というものだった。そしてこの回のエピソードには、2年連続でアカデミー賞にノミネートされた経歴を誇る、日本人メイクアップ・アーティストの辻一弘さんが特別審査員として参加した。彼は2013年に大ヒット映画『LOOPER/ルーパー』での物語のキーとなるメイクも担当しているので、その優れた手腕については、現在も業界の誰もが認めるところだとわかる。アメリカ人の出場アーティストたちが、辻さんの実績について憧れの眼差しで語っていた場面は、日本人が見ていて非常に誇らしい瞬間だった。

さて、上記の昨シーズンのことでさえ、全く知らなかった僕が、ではなぜこの番組を見始めたのか?

それは、ある一人の業界を代表するアーティストを見たいがためだ。

現在放送中のシーズン7は、審査員ヴェ・ニールさんが映画『ハンガー・ゲーム』の続編に取りかかっているため、何回かを欠席する。そこで白羽の矢が立ったのが、

ロイス・バーウェルさん、という女性メイクアップ・アーティスト。知的で、素晴らしい人格者だ。

実は、この方はある作品の撮影時の、僕の「恩人」。

恩人の姿を是非見たい!とチャンネルを合わせて見ると、『Face Off』が、かなり面白いぞっ!!と、なったわけである。

それでは...
この続きは、僕のコラムで!

このロイス・バーウェルさんがどんな才能の持ち主であるかを語り、そして彼女の仕事ぶりを覗いてみることで、「ハリウッドのメイクの世界の凄み」について、探ってみたいと思う。

〈このドラマ日記は、最新コラムにつづきます〉


Photo:『Face Off』(c)amanaimages