この筆者は、自分がオテンバなくせに、ふと「男が男らしく、女が女らしかった」と言われる遠い時代に思いを馳せることがある。裏を返せば男尊女卑のとんでもない時代だったのだが、現代にいたっては未知のものとして美化され、今日ご紹介する『ザ・ラスト・キングダム（The Last Kingdom）』のようなカッコいいドラマとして登場する。
このドラマは、9世紀後半のバイキングとアングロサクソンの戦いを描いた、かなり泥まみれで男くさいイメージのあるエピックものだ。でも主人公の未熟さにハラハラし時には大笑いしながら彼と共に冒険を重ねていくうち、時代や性別を超えた共感を覚え始めて、気がつくとすっかりドラマのファンになってしまう。
主人公のウートレッドは有力な領主の息子だったが、10歳の時にデイン人（デンマークからやってきたバイキングたち）に父を殺され、自分は奴隷として捕らえられてしまう。だがやがてバイキングの長ラグナーから目をかけられてバイキングとして育てられ、ついにはラグナー族の養子となる。
立派なバイキングの青年となったウートレッドはある日、外出から戻ると、ラグナーを逆恨みした仲間のバイキングたちが家に奇襲をかけ、一家を皆殺しにしている地獄絵を目撃することとなる。復讐に燃えるウートレッドは、態勢を整えるべく自分が正当な領主である生まれ故郷に戻る。だが、そこに待ち構えていたのは死んだ兄の土地でまんまと勢力を伸ばし、正当な継承者にあたる甥ウートレッドを亡き者にしようとする叔父だった。ウートレッドは領地を取り戻すため地域を司る王の元を訪ねるが、長きをデーンとして過ごしイングランドのマナーには無知な彼は冷たくあしらわれる。継承者として土地を取り戻し、愛するラグナー族の仇を討つには、王からの助力が不可欠であることを悟ったウートレッドは、王の信頼を勝ち取るための苦難に飛び込んでいく。
あらすじは以上の通りだが、このドラマは楽しんでいるうちに英国史に明るくなるという特典付きの番組である。大英帝国というネーミングがあったように「強い」というイメージのあるイギリスだが、大昔、統一される前は7つの王国に分裂しており個々の地域としては脆弱なため、デンマークからやってきたデーン人の侵略を受けて散々な目に遭っていたのだ。これは興味深い...！ ちょっと『ゲーム・オブ・スローンズ』チックである。
バイキングというとノルウェーやスウェーデンといった国が連想され、アンデルセン童話のイメージが強いデンマークがバイキングの国だというのも知らなかった。それも、英国を翻弄した強者たちの国だったという事実には恐れ入った。おまけにこの「デンマークの侵略者たち」（＝デーン人）は、今日あるイングランドという国の形成に多大な影響をもたらしていたのである。学校の歴史の時間では全然興味のわかなかった史実をさりげなく教えてくれる歴史ドラマというのは本当に魅力的である。
魅力的といえば、『ザ・ラスト・キングダム』の魅力の要であるウートレッドを演じる新星アレクサンダー・ドレイマンは要注目！ ドイツ出身だがイギリスで演技を学んだ彼のパフォーマンスは筋金入りだ。勇敢で正義感が強いものの周囲を顧みない短気なところが玉にきず、でもその向こう見ずなところが母性本能をくすぐる主人公ウートレッドを好演している。（ト書きが長い！笑） 彼の自信過剰さと危なっかしさがあいまった性格は、女子にとって目の離せない可愛さがあり、放っておけない存在である。毎週ウートレッドが何をやらかすかワクワクひやひやしながら、気がつくとすっかりこのドラマにハマっている。
ちなみにアレクサンダーは、2013年にヨーロッパではなくアメリカのお茶の間ですでにお目見えしているという事実が判明。それも、人気ドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー：魔女団』に魔女団のナン（ジェイミー・ブルーワー）が想いを寄せる隣人の青年ルーク役で出演していたのである。そういえば、結局は狂信者である自分の母親に殺されてしまう薄幸のイケメン青年のことは記憶に残っているものの、それが"ウートレッド"だったとは驚きだ。当時の写真を見てみたら、彼だと言われてもピンと来ないほど雰囲気が違っていて目が点になった。だがこのように役柄によって七変化できる俳優は将来大物になる可能性があるのでアレクサンダーはこれからがますます楽しみ。
米国では『ザ・ラスト・キングダム』のシーズン1が終了したばかり。秋にデビューした新番組が年末になってバサバサと切られ始め、すでにキャンセルとなった番組のニュースをよく聞くが、本作の続行が決定するよう願っている今日この頃である。
（文： 明美・トスト / Akemi Tosto）
Photo：アレクサンダー・ドレイマン
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