英国のドラマは、かつての輝きを失ってしまったのだろうか――? こんな議論が英メディアを賑わせている。2月19日のTelegraph紙が「なぜイギリスのドラマは危機にあるのか?」とする記事を掲載すると、批判の矛先を向けられたBBCは翌20日、「我々は英国産ドラマの黄金時代を生きている」と反論した。昨今は海外市場をターゲットに入れなければならないというマーケティング上の都合があり、これが大型タイトルの平凡化を引き起こしているという論調があるようだ。
◆大型ドラマはやや低調、国内軽視が原因?
このところイギリスでは、鳴り物入りで登場した新シリーズの不振が続いており、視聴者は不満を募らせている。Telegraph紙はBBCで2月17日からスタートした『トロイ伝説:ある都市の陥落』を挙げ、会話や演技が大げさだとして失望を滲ませる。『ゲーム・オブ・スローンズ』に匹敵するとの前評判だっただけに、落胆が大きかったのだろうか。
視聴者離れの原因として指摘されているのが、制作側の国際マーケットへの傾倒だ。数年前からアメリカ方式のドラマを追う傾向が色濃くなっているが、文化的に異なるイギリスの視聴者には必ずしもマッチしない。数年前から英TV業界には、海外への売り込みを意図し、米国産『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』や『THE WIRE/ザ・ワイヤー』の後追い番組を製作する傾向がある。「もちろんこれは馬鹿げている。我々はアメリカとは文化的に大きく異なる」と同紙は語気を強める。これに対しBBCでは、現代のイギリスが舞台の『McMafia - マクマフィア』や『SHERLOCK/シャーロック』の存在を挙げ、番組からイギリスらしさが失われているという記事に反論している。
◆人々をつなぐはずが...ストリーミングで暗雲
英ドラマ界を取り巻くもう一つの問題が、Netflixなどストリーミング形式の視聴スタイルの増加だ。BBCは自社番組のストリーミングサービス「iPlayer」を展開しているが、この配信形式に力を入れた結果、イッキ見するタイプの大型ドラマの放送枠が増え、一話ごとに楽しめる良質な番組の居場所がなくなっているとTelegraph紙は指摘する。ストリーミング形式ではノートPCなどで個人で楽しむスタイルが主流となるため、家族や友人とTVを囲む「共同体験」が失われている点も問題視されている。BBCはそうした意見に対し、iPlayerは視聴スタイルの幅を広げることを意図したものだ、と釈明している。
◆好感の持てる血の通ったキャラクターを!
英国ドラマがかつての勢いを取り戻すには、どのような変化が必要だろうか? Guardian紙はこの論争を第三者の視点から捉えた上で、国際市場へのアピールよりも興味を引くキャラクター作りに力点を置くべきではないかと提案している。最近の作品では、世界中で受け入れられる物語を模索するあまり、観ていて楽しくなるような人物作りがおろそかになるなど、人物に魅力的な肉づけがされておらず、説明役に成り下がっているケースが散見されるという声もある。
Telegraph紙は、ユーモアや社会問題をもっと取り込むべきというアイデアを披露しつつ、意外な展開を追いすぎて視聴者を置き去りにしないようにとも釘を刺す。どんでん返しが連続するアメリカ式ストーリーテリングの過剰な導入を警戒してのことだろう。日常の小さな題材を語れる点こそTVコメディの長所であり、2016年からBBCで放送されると、素朴なシチュエーションコメディながらロマンスと感動を振りまいて話題となった『Mum(原題)』は好例だ。夫を亡くした主婦とその家族・友人の交流を描いた同作は、シーズン2放送前にシーズン3の製作が決まっている。英国ドラマ復権の鍵は、国内の日常風景にあるのかもしれない。(海外ドラマNAVI)
Photo:『トロイ伝説:ある都市の陥落』
(C)Troy: Fall Of A City - BBC