美しい富豪の娘はなぜ義父に死を迫るのか... 愛と復讐の『Death and Nightingales』

英BBC Twoで11月から放送中の『Death and Nightingales(原題)』は、自然豊かなアイルランド北部を舞台に紡がれる愛と裏切りの物語。不幸な運命の下に生まれたベスが富豪である義父の庇護を捨て、恋と自由を勝ち取ろうと決意する。アイルランドの自然に象徴される、美しくも荒涼としたストーリーが胸を打つ。

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■義父の鳥かごから逃れたくて...

1885年、アイルランド北部ファーマナ州。美しく聡明な女性ベス(アン・スケリー)は、怒りと復讐心に燃えていた。この世を去った母キャサリンと、他の男との間に生まれた彼女は、義理の父ビリー(マシュー・リス)に実の子のように可愛がられて育ったが、富と権力を振りかざし、酔えば義理の娘にもかかわらず言い寄ってくる彼に辟易している。

23歳の誕生日を迎えた彼女は、まるで所有物のように自分を束縛する義父ビリーの元を去ろうと決意。ビリーに土地を借りている男性リアム(ジェイミー・ドーナン)を頼って自由を手に入れようと算段を付ける。眉目秀麗なリアムを目にしたベスは一瞬で恋に落ち、逢い引きする関係になっていた。ベスにとってロマンスは順調に思えたが、多くの女性を惹きつけるリアムには「悪魔か、それに近い男」との噂が...。自由を手にしたはずのベスは、檻からまた別の檻へと移ったに過ぎないのだろうか?

■アイルランドの大地が象徴する陰鬱なストーリー

アイルランドのファーマナ州の特徴的な風景は、まるで一つのキャラクターのようだ、と英Metroは語る。絵葉書のように広がる光景は美麗であると同時に、どこか陰鬱な空気を放つ。作中ではベスが美しい通りを歩くシーンもあれば、不潔な動物臭に吐き気を催すシーンも。義父ビリーの所有する広大な土地のあちこちには、命の尽きた家畜が埋まっている。富豪の彼が隠し持つ陰惨な一面が、アイルランドの大地にまるで投影されているかのようだと伝えている。

英Telegraphは、荘厳だがどこか寒々とした自然風景は、ストーリーを満たす侘しさの象徴でもあると述べ、暗い出来事の波が押し寄せるようなドラマを愛する人々に向けて推薦する。もちろん暗い感情を運ぶだけには終わらず、燃えるようなロマンスや暗い過去、そして背徳感と相反する感情がさざ波のように押し寄せるシリーズだと本作の魅力を語っている。

■ダークなストーリー運びはお手の物

製作&脚本は、影のあるキャラクターの造形に定評のあるアーラン・キュービット。心に闇を抱えた主人公が連続殺人犯を追う『THE FALL 警視ステラ・ギブソン』では、BBC Twoの視聴者数の最高記録を更新した実績を持つ。『Death and Nightingales』も同作に似たトーンで、常に不安感が忍び寄る作品だ、とMetroは評価。嗚咽するビリーに毒を服用するようベスが迫るシーンなど、冒頭から緊張感がたまらない。繊細なトーンで言葉を発する彼女は、一見するとアイルランドに咲いた一輪の薔薇のようだが、何の躊躇もなく公然と義父を見下すことのできる図太い芯を持っている、とMetroは述べている。不幸な運命に一方的に呑まれるだけでは終わらないベスが、サスペンス性を一層高めている。

キュービットの実力はTelegraphも認めている。『THE FALL』を手掛け、最もダークで恐ろしい連続殺人鬼のドラマを届けてくれた、と評価している。同作も同じ北部アイルランドを舞台にした作品。ユージーン・マケイブによる同名小説を原作とする本作は、大英帝国による支配を受けていた135年前の同地が舞台。ベスが義父ビリーに服毒を迫るシーンをドラマ冒頭に置き、時間軸を前後しながらそこに至った経緯を解き明かすという凝った構成を採用している。この構成は原作小説の流れを受け継いだものであり、閉塞感に満ちた空気とともに、ドラマ作品のフォーマットに驚くほどよくマッチしている、とTelegraphは述べている。

愛と復讐の物語『Death and Nightingales』は、BBC Twoで放送中。(海外ドラマNAVI)

Photo:ジェイミー・ドーナン
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