【日本未上陸】15年前の殺人犯に制裁? 法廷に立つ被害者の母に疑惑がかかる英国スリラー『The Victim』

幼い息子の命を奪われ、悲しみに暮れる母親。しかし、そんな彼女が傷害事件の容疑者に仕立て上げられてしまう。不条理な状況に挫けず、母は真犯人を追うが―。映画『ノーカントリー』やディズニーアニメーション『メリダとおそろしの森』で主人公メリダの声を務めるケリー・マクドナルドが母親を演じる。全4話となるミニシリーズ『The Victim』が、4月英BBC Oneで放送された。

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■喪失感と怒りの間で

アンナ(ケリー)が幼い息子の命を殺人鬼に奪われてから、早くも15年が過ぎた。実行犯のエディーは刑務所から釈放され、名前を変えて別人としての新しい人生をスタートしている。

ある年のハロウィンの夜、バス運転手のクレイグ(ジェームス・ハークネス『マクベス』)が何者かによる酷い襲撃を受け、重傷を負う。だがこの事件の直前に何者かがSNSで、クレイグこそが15年前に殺人を犯したエディーだと明かし、現在の住所まで暴露していた。書き込みによると当時14歳だったエディーは、当時9歳のリアム(ザック・レイニ)を殺害した後、7年間服役。釈放後は司法制度を利用し、クレイグとしての名前と生活を手に入れたのだという。

クレイグの傷害事件を担当するグローバー警部補(ジョン・ハナー『エージェント・オブ・シールド』)は、SNSの書き込みの主が当時の事件と関係者と見て追跡。そして、殺人事件の被害者である母アンナが何者かから情報を入手し掲示板に書き込んだのではないかとの嫌疑を掛け、法廷での証言を迫る。

■安定の演技に惹き込まれる

息子を失った傷も癒えぬまま、被告として法廷に引きずり出されたアンナ。その難しい役どころをこなす主演のケリーに英Guardianは注目している。『メリダとおそろしの森』などこれまでは普段は優しげでシンプルな役をこなすことが多いケリーだが、本作では息子を亡くした悲しみと裁判に呼び出された怒りの間で揺れる複雑な心情を表現し、とても巧妙に演じられていると、同紙は賞賛している。

英Independentは並外れて強力なメインキャストが揃ったと述べ、悲しみのなかにも沸き上がるような怒りを感じさせるケリーは最も安心して観ていられる役者の一人と表現。他にも襲撃されたクレイグ役のジェームス、そしてグローバー警部補役のジョンと優秀な俳優が顔を揃える。グローバー警部補には、ミステリアスな過去が隠されている模様で、本筋のストーリーと並んでそちらの謎にも注目したいと伝えている。

■謎とスリルの全4話

Guardianは、スリラーに期待するものをすべて満たしたドラマと評価する。相反する情報が視聴者を混乱に陥れ、ヒントと仮説があちこちに渦を巻き、視聴者を謎という濁流のなかに引きずり込む。手掛りを得ようと見るほどにますます多くの謎が募る、と同紙は表現。さらにスリラー要素だけでなく、道徳的価値観を問い掛ける一面もあり、殺人事件の犯人が別の事件の被害者となるストーリーが、因果応報として許容すべきかなど、一筋縄には答えの出ない問いを投げかけている。

『The Victim』というタイトル通り、被害者という立場が一つのテーマになっている、とIndependentは解説。ネットの書き込みを発端に事件が展開する点は非常に説得力がある。元殺人犯と思しきクレイグは氏名と住所を晒されたことで襲撃を受けるが、これは現代では実際に起こり得る悲劇だ。悪意を持って個人情報を晒すことはすでに「ドクシング(doxing)」という単語もあるほど知られてきており、ブログやFacebookなどを使った私的制裁には現実感を感じると、同紙は評価している。(海外ドラマNAVI)

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『The Victim』主演のケリー・マクドナルド
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