あのヒーローは顔が見えないはずだった!?『The Boys/ザ・ボーイズ』コスチュームの制作秘話

先頃シーズン2が全話配信されたAmazon Prime Videoのオリジナルドラマ『The Boys/ザ・ボーイズ』は、Amazonで最も人気のあるドラマの一つへと成長した。決して正義の味方とは言えない、"セブン"と呼ばれる堕落したスーパーヒーローたちのコスチュームがいかにして出来上がったのかを、米Vultureが伝えている。

同作のコスチュームを製作しているローラ・ジーン・シャノンは、そもそものアイディアについて、「(クリエイターのエリック・)クリプキは、『ザ・ボーイズ』を正統なスーパーヒーロー・ユニバースとして製作することが重要だと考えていたわ」と語っている。「他にいくつも長年にわたって製作されてきたスーパーヒーローものがあるけど、彼は、大人になった少年のための、独自のスーツを着用した私たちのシネマティック・ユニバースを創造したいと考えていた。それは正統的なものじゃないといけない。ジョークではなくね」

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シャノンがこれまでに製作したコスチュームは、『レクイエム・フォー・ドリーム』『エルフ ~サンタの国からやってきた~』『アイアンマン』など、様々な要素を取り入れたごった煮的デザインが多かった。近年は特にTVでのスーパーヒーローのコスチュームに注力しており、『ザ・ボーイズ』同様にアンチスーパーヒーローたちの活躍を描く米DC Universe/HBO MAXの『Doom Patrol(原題)』、米CWの『ブラックライトニング』、DC Universeの『Titans/タイタンズ』といったDCのスーパーヒーロースーツの衣装デザインを担当している。

シャノンは、「コミックブック由来のスーパーヒーローが着用するスーツは、だいたい誇張されてドラマティックになり過ぎている」と考えていた。ちなみにコミックブックにおける『ザ・ボーイズ』のホームランダーのスーツは、青地で右肩に巨大な鷲の飾りがあって、光が胸を横切り、赤白ストライプのケープという派手なものだ。

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シャノンはまず、大き過ぎる鷲の飾りを二つの小さいがよりお洒落な肩章とし、光のラインを取り払った。さらに目を凝らすと、その肩章の模様がスーツに織り込まれている。その結果、スーツは、以前ホームランダー役のアントニー・スターがインタビューで語っていたように、「人間工学に基づいた、実に機能的でありながらもヒーローらしいスーツ」となった。アントニーは、「このスーツは作品を反映しているんだ。現実世界が冷徹であるようにこの作品も厳しい現実を描いている。だからスーパーヒーローが出てくるドラマとはいえ、スーツもあまり現実離れしていない、リアリティのあるものでなければならないんだ」と話している。

ジェシー・T・アッシャー扮する超俊足のAトレインのスーツを製作する時は、ほかのスピードが売りのスーパースターの衣装を参考にするだけでなく、エアロダイナミクスを研究。ゴルフボールは数多くのディンプル(細かいへこみ)があることで速さと安定性を増していることを参考に、新しい素材を開発した。このウレタン素材は、摩擦抵抗を小さくすることでAトレインの身体を保護しているのだ。

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しかし、チェイス・クロフォード演じるディープには問題があった。というのも、水棲型スーパーヒーローのディープは、オリジナルコミックでは常に頭部に深海用ヘルメットを装着しているからだ。シャノンは色々と知恵を絞って考えたが、最終的にヘルメット込みのスーツ作製は断念した。「第一、チェイスの魅力的な顔をいつも隠しているわけにもいかないし」 さらにディープのスーツは、身体に密着してボディラインを強調しており、後ろからディープを見た場合、お尻の形がはっきりと分かる。「かつて女性の衣装をデザインする時、スタジオのエグゼクティブからもっと女優の胸を大きく見せられないかと言われたものだけど、男優を必要以上にセクシーにできないかと打診されるのはなかなか楽しいわね」

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一方で、最初は家庭的な柔らかな印象のあったエリン・モリアーティ演じるスターライトのスーツを、もっと露出度の高いスーツに作り直させられたという。こうやってできた新しいスーツを、意外にもエリンは喜んで着用した。エリンはシャノンに、「最初は気になったけど、これが意外にいいの。着心地良くて最高よ。一日中、水着を着ているみたい」と告白したそうだ。

シーズン2ではさらなる難問が待っていた。新しくセブンに参入したストームフロントは、オリジナルコミックでは男性だが、ドラマではアヤ・キャッシュ演じる女性だ。さらにナチス・ドイツに生まれた(100歳ということになっている)差別主義者のストームフロントを、かつてナチス・ドイツに迫害されたユダヤ人のアヤが演じる。こういうジェンダー、年齢、人種の問題をどうやってデザインするかに頭を悩ませた。最終的に出来上がったストームフロントのスーツは、同じ女性のスターライトやクイーン・メイヴの派手で露出の多いスーツとは異なり、ダークな色調で、その下に何かが隠されているのではと思わせるものになっている。

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現在、HBOの『ウォッチメン』、Netflixの『アンブレラ・アカデミー』、そして『ザ・ボーイズ』などの、従来の枠からはみ出した、必ずしも正義の味方とは言えない新しいスーパーヒーローものが認知され始めている。それらは「私たちに独自の物語に挑戦するプラットフォームを与えてくれた。それはスーパーヒーローのファンだけじゃなく、本当にすべてのあらゆる人々に届くことができるのよ」とシャノンは答えている。どうやら彼女はこの挑戦をとても楽しんでいるようだ。(海外ドラマNAVI)

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Amazonオリジナルドラマ『The Boys/ザ・ボーイズ』