ルーク・エヴァンス主演の英犯罪ドラマ『ペンブルックシャー・マーダー 21年目の真実』 風光明媚な場所が事件の異常さをより際立たせる

ルーク・エヴァンス主演、1980年代にウェールズ南西部ペンブルックシャーで実際に起きた事件を描いた犯罪ドラマ『ペンブルックシャー・マーダー 21年目の真実』(『The Pembrokeshire Murders(原題)』)。本国イギリスで高い評価を受けたこのドラマの見どころを紹介しよう。

英民放ITVでは、『DES/デス』『クイズ~100万ポンドを夢見た男~』などイギリスで実際に起こった出来事や犯罪事件を基にしたドラマをシリーズで放送しているが、『ペンブルックシャー・マーダー 21年目の真実』は2020年の『DES』に続く最新作にあたる。

 

『ペンブルックシャー・マーダー 21年目の真実』はウェールズの犯罪史上最悪といわれた連続殺人事件に焦点をあて、2006年から2011年にかけて行われた再捜査を再現したもので、政治サスペンスドラマ『ボディガード -守るべきもの-』や犯罪ドラマ『ライン・オブ・デューティ』で知られるWorld Productionsが手がけ、イギリスでは今年1月に3夜連続で放送された。初回の視聴者数が630万人、そして最終回(第3話)の視聴者数は700万人を超え、同局が放送した新作ドラマとしては、2014年放送の『The Durrells(原題)』以来の最高記録を達成したという。

連続殺人犯を追うスティーヴ・ウィルキンス警視を演じるのは、ウェールズ出身の人気俳優ルーク・エヴァンス(『美女と野獣』)。几帳面にひとつずつ手がかりを検証し、犯人を追い込んでいく正義感あふれる警視を好演する。冷血でサイコパス気質の連続殺人犯ジョン・クーパー役はキース・アレン(『キングスマン:ゴールデン・サークル』)。また、この犯罪シリーズでは毎回勅撰弁護士役で大物俳優が出演するが、今回はウェールズ出身のオーウェン・ティール(『ゲーム・オブ・スローンズ』)が登場する。

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2006年、ロンドン警視庁勤務を経てウェールズのダベッド・ポーイス署に戻ってきたウィルキンス警視(ルーク・エヴァンス)は、20年前に起きた未解決事件をメディアの報道で知る。地元ではペンブルックシャー殺人事件として知られるこの事件は、1989年に休暇旅行に来ていたディクソン夫妻が浜辺の散歩道を散策中に殺され、財布と結婚指輪が盗まれたというもの。当時の捜査で地元在住のジョン・クーパー(キース・アレン)が容疑者として挙がったが、証拠不十分で起訴されることはなかった。捜査の経過に不審な点があることに気づいたウィルキンスは、自らの手で事件を解決できると確信して再捜査を開始する。

捜査を進めるなかで、1985年に別の殺人事件、さらには1996年に10代の若者が暴行される事件があったことも判明。この二つの未解決事件は近辺で発生し、同じような手口だったことから、捜査チームは同一人物の犯行であると断定。この20年間で科学捜査の技術が進歩したことで、当時押収された3000点に及ぶ証拠品の中から犯人のDNAが検出されることを捜査チームは期待する。しかし、警察上層部は予算の関係で再捜査の打ち切りを示唆し、別の窃盗事件で服役中だったクーパー容疑者の仮釈放の日も迫る。チームは時間と闘いながら必死の捜査を続ける。

このドラマは"犯人は誰か?"を追っていくのではなく、すでに特定された容疑者を警察がどのように立件していくかが焦点になる。捜査チームはメディア報道をうまく利用して、容疑者にプレッシャーを与えていくが、ITVで実際に放送しているゲーム番組『Bullseye(原題)』が犯人逮捕に意外な役割を果たすという驚きの展開もある。実はクーパー容疑者はディクソン夫妻が殺害された事件の1カ月前にこのゲーム番組にゲスト出演しており、そのアーカイブ映像から重要な手がかりが明らかになるのだ。第3話では法廷で検察と弁護人・被告人の攻防が繰り広げられ、緊張が続いた後で判決が下るシーンではこちらも胸に迫るものがある。

また、捜査に並行して、ウィルキンス警視とクーパー容疑者のそれぞれの息子との関係も描かれている。ウィルキンスは妻との離婚後、仕事が多忙なこともあって息子ジャックとの関係がギクシャクしている。クーパーの息子アンドリュー(エイドリアンから改名)は身体に障害を持ち、トラウマを抱えて心を閉ざしたまま。この2組の親子関係がどのように変化していくかも注目だ。

なお、実在のウィルキンス警視は、2011年にジョン・クーパーに有罪判決が出た直後に退職し、事件をテーマにした共著本「The Pembrokeshire Murders: Catching the Bullseye Killer」を出版した。本作はこの本を基にしたものになっている。また、クーパーの実在の息子アンドリューさんもドラマの製作に協力したという。

ドラマの撮影はペンブルックシャーの犯行現場に近い場所で行われた。ペンブルックシャーといえば、美しい海岸線が有名で、イギリス人の国内旅行先として人気がある場所だ。この自然豊かな風光明媚な地が連続殺人事件の舞台になったことが事件の異常さをより際立たせている。

警察の丹念な作業と執念の科学捜査の結果、事件から実に20年という歳月を経て犯人逮捕に至った事件を再現した良質のドラマ『ペンブルックシャー・マーダー 21年目の真実』。日本で放送された際にはぜひ満喫していただきたい。

(文/Yoshie Natori)

 

Photo:『The Pembrokeshire Murders』ルーク・エヴァンス、ITVの公式Instagramより