個人差ももちろんあるだろうが、女性同士の友人関係は概して複雑だ。例えば大ヒットドラマ『ゴシップガール』のセリーナとブレアも親友同士ながら密かに相手に嫉妬していたり裏切り行為を隠していたりと微妙な関係にあったが、そのセリーナ役で知られるブレイク・ライヴリーが主演する最新映画『シンプル・フェイバー』も、シンプルとはほど遠い女たちの関係を描いている。
子供同士が同じ学校に通っている二人の女性、夫を亡くしたシングルマザーのステファニーとファッション業界で働くエミリー。ママ友として知り合った二人は急速に親しくなり、「これまでに体験した最もワイルドなこと」も打ち明け合うほどの仲になる。そんな時、ステファニーはエミリーから電話で、仕事が忙しいので息子を学校へ迎えに行き夜まで預かってほしいと頼まれる。快く引き受けるステファニーだが、その電話を最後にエミリーは姿を消してしまい...。
上記のストーリーからはミステリーの印象を受けるだろうが、本作が描く大きなテーマは二人の女性のビミョーな関係。夫を交通事故で亡くし、その保険金を切り崩して生活しているステファニーはうまく周囲のママ友に溶け込めない中、美人で仕事も家も夫も素敵なエミリーと親しくなれて大喜び。そんなエミリーが失踪してしまうと、当初は心配するが、徐々に彼女の夫ショーンのことが気になり始め、このままエミリーが帰ってこなければいいのに...と考えるようになる。
原作はダーシー・ベルの処女作「ささやかな頼み」。ベルはかつて幼稚園で働いていた時にこのアイデアを思いついたそうで、ママ友たちの微妙な距離感がリアリティたっぷりに表現されている。原作はステファニーほか3人のキャラクターの視点に交代しながら描かれるが、『アメリカン・ホラー・ストーリー』シリーズや『NERVE/ナーヴ 世界で一番危険なゲーム』の脚本を手掛けたジェシカ・シャーザーが脚色した映画は視点をステファニーに絞り、エンディングも変え、焦点を絞ったシンプルな話に仕上げている。
監督は、『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』や『ゴーストバスターズ』(2016年)といった女性が主人公のコメディ作品で知られるポール・フェイグ。彼は本作を「21世紀のサバーバン・ノワール(郊外が舞台のノワール)」として作っており、1960年代のフレンチポップに合わせて、ブレイクとステファニー役のアナ・ケンドリック(『ピッチ・パーフェクト』)が50着にも及ぶ華やかな衣装という"鎧"の下に秘密を隠して行動する。ただし、ノワール作品ならば付き物のはずの「影」は排除され、登場人物たちは光降り注ぐ中でブラックユーモアの利いたストーリーを紡いでゆく。
ブレイクは三つ揃いのスーツにボウタイ、ポケットチーフ、カフスボタンといったマニッシュなスタイル(モデルはフェイグ監督)で、『ゴシップガール』のセリーナと服装は大きく異なる。しかしゴージャスなキャラクターであることには変わりなく、『アデライン、100年目の恋』の時よりもミステリアスなキャラクターが彼女をさらに魅力的に見せている。また、二転三転するストーリーでは姿を消したエミリーにはステファニーの知らなかった過去や秘密がいくつもあることが次第に明らかとなる。優しいお嬢様のセリーナとは正反対とも言える、ブレイクが見せる新たな顔に、観客もステファニー同様に驚くはずだ。
「スーツを着た猫」とブレイクが表現するエミリーの外見だけでなく内面も必見の映画『シンプル・フェイバー』。Amazon Prime Videoなどにて配信中。(海外ドラマNAVI)
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『シンプル・フェイバー』©2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.