北米に住む女性の間で今、英国貴族のドラマが熱い。今年に入ってから 筆者の周囲だけでも、何人もの女性が「今ハマってるドラマ」として『ダウントン・アビー』を挙げている。北米では今年の1月から2月にかけて、本作のシーズン2が放映されたが、シーズン2の視聴者世帯数はシーズン1から25%アップし、中でも18~34歳の女性視聴者は251%も増加しているというから凄まじい。
この視聴者の急激な増加には、エミー賞6部門受賞やゴールデン・グローブ賞作品賞受賞などによる、知名度の向上も貢献しているのだろう。とにかく一度チャンネルを合わせてしまえば、筆者のようなオッサンですら、次のエピソードを観ずにはいられない強い中毒性が『ダウントン・アビー』にはある。その面白さは批評家たちの折紙付きで、同ドラマはその評価の高さでギネス・ブック入りしているほど。日本でもシーズン1がスター・チャンネルで放映中なので、既に頭のテッペンまでずっぽりハマっている方も多いのではないだろうか。
舞台は20世紀初頭のイギリス。大筋を一言でいうと、「ダウントン・アビー」と呼ばれる大邸宅に住む貴族クローリー家と、彼らに仕える大勢の使用人たちの愛憎劇なのだが、貴族と使用人それぞれのドラマが同じ比重で描かれているのが『ダウントン・アビー』の特徴。いずれの世界にも好人物とそうでない人物がいて、恋や嫉妬や陰謀が渦巻いている。そしてそれを観ている我々は、そのどちらの渦にもグルグルと巻き込まれてしまうのだ。
筋立てだけ見れば、いわゆるひとつのメロドラマだと言えなくもないこのドラマ、その脚本・演出・美術があまりに洗練されているために、とてもそうは見えない。極論すれば、『ダウントン・アビー』とは、愛憎劇の中毒性と映画並みの完成度を兼ね備えた、究極のメロドラマと言えるかもしれない。その上、美しい大邸宅にハイソな家具調度、色鮮やかなドレスにイケメンと、目にやさしいものばかりが画面に映し出されるとなれば、視聴率が上がらない方が不思議ではないか。
映画『日の名残り』や『ゴスフォード・パーク』を観たことがある人なら、このドラマの魅力を想像しやすいだろう。実際、『ダウントン・アビー』のクリエイターであるジュリアン・フェロウズは、映画『ゴスフォード・パーク』の脚本も手掛けており、同映画でアカデミー賞の脚本賞を受賞している。
また、『ダウントン・アビー』には、 同ドラマでエミー賞の助演女優賞を獲得した名優マギー・スミス(映画『ハリー・ポッター』シリーズ)や、イケメン俳優ダン・スティーブンスなど、有名無名の英国俳優たちが多数出演しているが、見始めるとガゼン気になってくるのがトーマス(ロブ・ジェームス-コリアー)とオブライエン(シボーン・フィネラン)の意地悪・使用人コンビ。
ヴァンパイアとしか思えないほど真っ白な顔でイヤミしか言わない腹黒トーマスと、常に無表情で毒舌を吐くオバタリアン・オブライエンは、休憩中に(なぜかいつも暗いところで)二人でタバコを吸いながら悪だくみを練る。シーズン2に入ってもその関係は健在だが、それぞれに微妙な変化があるのが興味深い。
シーズン1では第一次世界大戦が始まり、世界情勢の急激な変化に伴い、ダウントンでの人間模様もドラマチックに動き出す。ある者は戦闘中の怪我が原因で死に、またある者は流行り病に斃れる。新しいキャラも何人か登場し、中にはあの『犬神家の一族』のスケキヨそっくりの人物まで登場する。 そのルックスから遺産相続への絡みまで設定が酷似しているので、クリエイターがどこかで『犬神家の一族』を観てインスピレーションを得たのではないか? と疑いたくなるほど。
そんな具合にシーズン2ではいろんなことが起こるので、「ちょっとリアリティに欠けるのでは?」と 批評家たちの平均的評価が若干下がっているようだが、視聴者への吸引力はまだ衰えていないようだ。少なくとも此処NYでは、口コミで逆にファン層が広がっている。
シーズン3ではあの名優シャーリー・マクレーンの出演が決定しているなど、なにかと話題に事欠かないこのシリーズ、あなたもハマッてみませんか?
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『ダウントン・アビー』は、字幕版がスター・チャンネル1にて毎週月曜21時から、吹替版がスター・チャンネル3にて毎週水曜11時から放送中。
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