「このドラマはある意味、原作を"解放"したのかも...」シャーロック・ホームズの大ファン、大槻ケンヂがドラマ『SHERLOCK シャーロック』の魅力を語る!

20120811_s1.jpg第64回エミー賞で作品賞をはじめ、13部門にノミネートされた英BBC制作の新作ドラマ『SHERLOCK シャーロック』の字幕版が、9月8日(土)に日本で初めてAXNミステリーで放送されることとなる。主演のベネディクト・カンバーバッチやマーティン・フリーマンのよりリアルな演技を楽しめることになったが、今回、視聴者にもっと本作を楽しんでもらうための特別番組が作られることになった。番組ナビゲーターは、シャーロック・ホームズの大ファンであるミュージシャン、作家の大槻ケンヂさん。早速お話を伺ってきました。

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――『シャーロック・ホームズ』 の世界にはまったのいつ頃ですか?

初めて読書に夢中になった小2の頃ですね。そのときに読んだのが「緋色の研究」だったんです。当時は「赤の怪事件」ってタイトルになってましたけど。その後、江戸川乱歩の少年探偵シリーズに転がっちゃって...再び戻ってきたんです。

――何がきっかけで戻ってきたんですか?

今から10数年前に、「正典」と呼ばれるホームズシリーズの作品について、矛盾や曖昧な点を研究している「シャーロキアン」と呼ばれる人たちの本に興味を持ったことがきっかけなんです。あとね、シリーズの中に「最後の事件」という作品があるんですが...スイスのライヘンバッハの滝でホームズと宿敵モリアーティが格闘の末、二人も落下死するんです。その後「空き家の冒険」という作品でホームズがひょっこり帰ってきて、その時に「僕はバリツ(という格闘技)を習っているからね」というようなセリフがあるんです。格闘技好きの僕としては「バリツ? バリツってなんだ?」ってまた興味を持っちゃって...。

――作品名やセリフがスラスラ出てくるって、大槻さんも十分シャーロキアンなのでは?

いやいや、僕はシャーロキアンじゃないですよ。そんなおこがましい。ただのファンです(笑)。ホームズシリーズには4つの長編と56の短編があって、それらは「正典」って呼ばれているんです。でもぼくは「正典」をきちんと読み込んでいないんです。正統派の作品より、どちらかというと「這う男」「犯人は二人」「最後の事件」といった「なんだこれ?」って作品が好きだし(笑)。

――大槻さんの話を聞いていると「シャーロキアン」と呼ばれる人たちがどれだけすごい人たちなのか、興味が湧いてきますね。

ホームズシリーズって理知的な物語のはずなのに、矛盾・あいまいな点・つっこみどころが満載なんですよ。これに対してシャーロキアンは「これはおかしい。単なる間違いじゃない。何か理由があるはず!」と自分たちで論じようとするんです。昔でいうならサロン、今ならインターネット上の掲示板でスレッドを立てて、そこで延々語っているイメージかな。「ワトソン夫人が旦那の名前を間違えた件」ってスレッドが100年前に立ってるようなものです(笑)。

たとえば「唇のねじれた男」という作品で、ワトソン夫人がワトソンの名前を「ジョン」でなく「ジェームズ」って呼ぶ箇所があるんです。「普通、妻が夫の名前を間違えるか?」そこから話が始まるんです。「単なる誤植だ」「いや、何かわけがあってジェームズと読んだ」「いやいや、実はワトソンは二人いた」とかってね。

ちょっと前ですが、スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』や『新世紀エヴァンゲリオン』が流行ったときも、作品は高度で知的な感じなのにどうしてもわからない点、矛盾点があって、そこを真剣に語り合う人たちがたくさんいたと思います。それと同じような感じですね。
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――では、ファンとして見た、今回のドラマの感想は?

素晴らしいと思います。押さえどころを全て押さえていて驚きました。

昔、舞台でホームズを演じたウィリアム・ジレットって俳優が、鳥打帽と曲がったパイプをホームズのファッションとして使ったんです。それ以降ホームズといえばみんなあのスタイルで、今となってはその姿で出てきた途端、コントみたいになってるじゃないですか? それが今回のドラマでは古来から踏襲されてきたスタイルを捨てている。でも原作に忠実で、それでいてコントになっていないホームズとワトソンが登場したことに感動しました。ある意味原作を「解放」したんじゃないかなって。作り手のスティーヴン・モファットやマーク・ゲイティスらが本気のシャーロキアンだからこそ、実現できたのかもしれないですね。

また、"相棒モノ"としてのドラマの面白さもありますね。ホームズとワトソンがいい仲なんじゃないかって話もあって。そう思いたい女性視聴者にとっては...バッチリですよ(笑)

――ところでドラマの中のホームズって、なんだか性格悪くないですか?

あれはおさえているほうですよ(笑)。原作だともっと性格悪い。ドラマの中でワトソンに「他に用事があってもこい」って上から目線のメールを送ってきますが、あのセリフは「這う男」という作品の中にも出てくるんですよ。

今回、ドラマの中でホームズが自分のことを「高機能社会不適合者」って言うセリフがあるんですが、ホームズの読者はずっと前から彼のことをそうだと思っていたんじゃないですかね。今はそういう言葉で表せる時代になったんだなあって点は、感慨深いです。ホームズがそれを自覚していることも含めて。

―今回放送する特別番組で取材に行くそうですが。イギリスに行くんですか?

20120811_s3.jpgホームズに家がロンドンにあるとは前から聞いてたんですが、実は僕、飛行機が苦手で。そのうち近場のデパートとかで「ホームズ展」をやってくれれば...なんて思っていたんですが、「神戸にシャーロック・ホームズの家がある」と教えてもらって。「そこならいきます」と!(笑)

その家はどのくらい忠実に作っているんだろうって今からワクワクしているんです。スリッパとかソーダの製造機や"VR"と拳銃で撃った跡はあるんだろうかって。

――最後にドラマを見る視聴者に、大槻さんからメッセージを。

『シャーロック』を見て、「ちょっと原作を読んでみようかな」って思う人、きっといると思います。それで原作を読んでみたら「あれ? この人はドラマに出てきた! このセリフ、あった! このシーンはここだったんだ!」っていっぱい発見があると思いますよ。そうなれば、またドラマを見直したくなる...ドラマと原作を行ったり来たり...すごい楽しいと思いますよ。(海外ドラマNAVI)

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20120811_s4.jpg『SHERLOCK シャーロック』一挙放送記念 特別番組
シャーロック・ホームズは生きている
HD日本語版:9月8日(土)13:30~

『SHERLOCK シャーロック』
HD字幕版:9月8日(土)14:00~ 3話連続放送