ジャンル・ミックスは今やドラマ制作の基本。多くの作品があの手、この手でストーリーにひねりを効かせ、当然、視聴者側も目が肥えていく。だが意外にありそうでなかったのが、ヒューマンドラマのジャンル・ミックスだ。
コメディだろうが、シリアスだろうが、SFだろうがホラーだろうが、ミステリーだろうがサスペンスだろうが、どんなドラマであっても登場人物が動き出せば、そこに人間ドラマが生まれるのは当然のこと。そういう意味で言えば、どのようなジャンル・ミックスにもヒューマンドラマが含まれる。
だからこそ、ヒューマンドラマがメインの作品となると、いかにキャラクターの心の機微を丁寧に拾い、紡いでいくかが最重要課題であり、それがすべて。「ドラメディ」というドラマとコメディの融合的なものはあっても、基本はハートフルで感動的、ストーリーとしてはいたってシンプルなものであり、それゆえに愛されているジャンルだ。
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そんな、いい意味で予定調和が良しとされてきたヒューマンドラマだが、そこに風穴を開けたのが『THIS IS US 36歳、これから』だ。昨年秋に米NBC局でスタートした本作は、放送前に公開された予告編動画が驚異的な再生回数を叩き出し、実際に番組が始まれば第2回の放送を待たずにフルシーズンの制作が決定。放送が進むにつれてその評価は高まるばかりで、シーズン2への更新はもちろん、同時にシーズン3まで一気に制作が決定したという、異例尽くしの作品だ。
その内容はといえば、妻レベッカとの間に三つ子の誕生を控えるジャック、仕事で成功した上、妻と子供に恵まれ幸せに暮らすランダル、コメディドラマの主演でブレイクした俳優ケビン、肥満に悩むケイトという36歳の男女を主人公に、それぞれの人生を描いていくアンサンブル・ドラマだ。ヒューマンドラマとしてはいたってベーシックであり、実際、キャラクターの描き込みも丁寧で良質なドラマであることは、第1回を見ている途中ですぐに分かる。そのベーシックなドラマの何が、ここまで異例尽くしのヒットになったのか。その理由は第1回のラストで明らかになる。
クリエイターのダン・フォーゲルマン(『ラブ・アゲイン』『人生はノー・リターン ~僕とオカン、涙の3000マイル~』)曰く、本作は「ドラメディ版『LOST』」。その言葉通り、第1回のラストには大きな驚きが隠されている。それはもう、「こう来たか!」と非常にうならされるものだ。答えが分かってしまえば確かにあちこちにヒントが散りばめられているのだが、それが実にナチュラルにストーリーに溶け込んでいるので、たとえそのヒントに「ん?」と引っかかりを覚えたとしても、そこから正解にたどり着く人はほとんどいないだろう。こうした驚きや謎が、このドラマには毎回のように用意されているのである。
それでいて、その謎や驚きが決して悪目立ちしないのが本作の素晴らしさ。それぞれに悩みを抱え、懸命に人生を生きる36歳の男女の姿を丁寧にすくい上げ、時にその滑稽さにクスリと笑い、時にその悩みに共感し、時にグッと胸に迫る感動に涙する。あくまでもヒューマンドラマに基軸を置き、現実に根ざした謎や驚きを提供することで、このドラマは見事にありそうでなかったヒューマンドラマのジャンル・ミックスを成功させているのだ。
そして、このドラマの良質さを体現する俳優たちが見せるアンサンブルがまた秀逸だ。マンディ・ムーア、マイロ・ヴェンティミリア、ジャスティン・ハートリー、クリッシー・メッツ、そしてエミー賞2年連続受賞を果たしたスターリング・K・ブラウンというメインキャストだけでなく、スーザン・ケレチ・ワトソンやクリス・サリヴァン、ジェラルド・マクレイニーといった脇を固める俳優まで、誰もがその等身大のキャラクターを自然体で表現している。
決して派手さはないが魅了される俳優たちのアンサンブル、そして固定概念をサラリと覆したそのスマートなストーリーテリングは高く評価され、放送1年目からゴールデン・グローブ賞、エミー賞にノミネートされると、後者で2冠を達成した。HBOをはじめとしたケーブル作品か、NETFLIXといった配信作品が圧倒的な強さを見せる現在の賞レースで、その視聴スタイル、放送コードなどでどうしてもハンデを負いがちなネットワーク作品が、ここまで評価されるのは快挙と言える。
重すぎず、軽すぎず、誰もが共感を覚えるような普遍的なドラマでありながら、驚きに満ち、見るほどに惹き込まれていく『THIS IS US 36歳、これから』。ドラマ戦国時代とも言える今だからこそ、この普遍性と革新性を鮮やかに両立させた本作の価値は大きい。
Photo:『THIS IS US 36歳、これから』
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