英BBCがNetflixと共同製作したサスペンスドラマ『コラテラル 真実の行方』が、先月よりNetflixで配信中だ。豪華キャストが顔を揃える本作は単なる娯楽作品の域を越え、EU脱退や難民などイギリスが抱える社会問題を取り込むことで一層のリアリティを生み出すことに成功した。クセのある刑事を主人公に据えたドラマ『コラテラル』は、盛り沢山のストーリーをたった4話に凝縮した濃密なシリーズだ。
◆元スポーツ選手の刑事が国家の闇に挑む
キャリー・マリガン(『わたしを離さないで』)が演じるのは、元棒高跳び選手という異色の経歴を持つ刑事グラスピー。イギリスの刑事らしくコートに身を包むが、小柄な体格はどこか心許ない。生気のないその瞳は、まるで若くして世界のすべてに失望してしまったかのようだ。ひとたび捜査に臨めば執拗な姿勢を見せる彼女が立ち向かうのは、イギリス軍部が裏で糸を引く遠大な殺人事件だ。映画『17歳の肖像』では読書を愛する少女を演じたキャリーだが、独特の雰囲気をまとった本作の刑事役もまたしっくりとくる。
劇中ではある夜、瀟洒なアパートへとピザの宅配に向かったドライバーが、何者かに殺害される。唯一の目撃者は、イギリスに不法滞在中のハン・ヤン。彼女は警察に本名を明かさず、犯人が女性と思しきことすらも語ろうとしないなど、意図不明の行動で観客を煙に巻く。単純な殺人事件に思われた本件だが、次第にイギリス軍の関与が明らかになり、事件を追う刑事グラスピーは巨大な勢力への対抗を強いられることになる。
◆豪華俳優陣が共演する、怒涛のサスペンス
本作の脚本はイギリスを代表する劇作家であるデヴィッド・ヘア(『愛を読むひと』)。映画監督・脚本家としても活躍するヘアだが、オリジナルTVシリーズを手がけるのは本作が初となる。息をもつかせぬ展開は見事で、New York誌(3月27日)は「そのプロットは、Netflixで見つけることのできる他のどのドラマよりもはるかに速いペースで展開する」と論評している。とはいえ、典型的なイギリスの刑事ドラマ像に沿って進行するため、おいてけぼりにされる心配は無用だ。
ドラマは全4話で、ドライバー殺害事件とその後の4日間を追う内容となっている。英Guardian紙では、見応えのある硬派なサスペンスである本作は、2009年の名作ミステリ映画『消されたヘッドライン』を想起させるとしている。また、登場人物間の関連が浮かんでは消えてゆく様はイギリスの戯曲『夜の来訪者』を彷彿とさせる。
豪華な俳優陣にも要注目。主人公グラスピー刑事役のキャリーはアカデミー主演女優賞にノミネートされた経歴を持つほか、野党の閣僚候補役にはエミー賞を受賞したジョン・シム(『MAD DOG』)を据えるなど、そうそうたる顔ぶれの名演がドラマの世界に深みを加えている。
◆難民問題など、イギリスが抱える社会問題にメス
『コラテラル』は娯楽作品でありながら、社会問題にも鋭く切り込んでいる点が特徴的だ。劇中のある重要なシーンでは、イギリスのEU脱退(ブレグジット)を念頭に、英国の矮小化を嘆く議員が描かれる。New York誌によると、ほかにもイギリスが直面する難民問題や軍部で横行するセクハラなど、複数の社会問題がストーリーに練りこまれている。
さらに、女性の社会進出については、主演女優自らが身をもってアピールしている。Refinery誌によると、妊娠中という設定のグラスピー刑事だが、演じるキャリー自身も身重であり、撮影後の昨年9月に無事第2子を出産した。本作は、妊娠中でも仕事に打ち込む女性がいることを伝えられる絶好の機会だった、とは本人も語っている。
4話構成の本作は、現時点ではセカンド・シーズンの製作も予定されていない。比較的短時間で楽しめる本格派サスペンスを探している向きにはもってこいだ。『コラテラル 真実の行方』はNetflixで配信中。(海外ドラマNAVI)
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Photo:『コラテラル 真実の行方』