大人気モキュメンタリー『People Just Do Nothing』が最終章 3人はラジオ局を再開できるのか?

英国ロンドン西部で展開する架空の海賊ラジオ局「クラプトFM」。運営するMC・グリンダ(アラン・ムスタファ)、DJ・ビーツ(ヒューゴ・チェグウィン)、そしてDJ・スティーヴ(スティーヴ・スタンプ)は銀河一のステーションを自称するが、番組のクオリティは最悪。そんな彼らの野望と現実を描くコメディ作品が英BBCの『People Just Do Nothing(原題)』だ。

「モキュメンタリー」と呼ばれるジャンルの本作は、一見真面目なドキュメンタリー風の映像に騙されがちだが、あちこちに笑いが仕掛けられた油断できない一本。6年前から人気を博しており、2017年に英国アカデミー賞を受賞。最終章となるシーズン5の放送が、11月中旬から英BBC Twoで始まった。

♦海賊DJ、ついに逮捕! そして屈辱の判決へ......

野心的なDJたちの海賊ラジオ局に、前シーズンではついに捜査当局の手が。DJ・スティーヴは逮捕され、放送機材も警察に押収されてしまう。シーズン5は、そこから1年後の彼らに密着。成功を諦めない3人は局の再建に奮闘している。実は逮捕後の裁判では、ラジオの聴取可能な範囲が狭すぎたため、電波法違反がさほど問題視されなかった。「子どもが寝室で暴れているようなものである」との判事の言葉に、スティーヴたちのプライドはズタズタ。公園での地域奉仕活動という地味な罰が彼らに与えられる。

3人はラジオ局の再興を胸に誓い、元局長のチャバディ(アシム・チョードリー)に資金調達を依頼。チャバディは不用品を車に詰め、フリーマーケットで売ることを思い付く。しかし80ポンド(約1万2000円)の値を付けたMC・グリンダのブロマイドは売れずじまい。先行きの思いやられる彼らだが、果たしてラジオ局を再開できるのだろうか?

♦熱意が空回り

目標ばかり崇高なラジオ局「クラプトFM」だが、実態は酷いもの...。最悪ではないと否定する人なんているのですか、とドキュメンタリー番組のレポーターが問い詰めると、MCたちは「誰一人として何も言っていない」と子どものように抵抗。パーソナリティとしての才能を信じる彼らだが、必死に虚勢を張る姿が滑稽に見える。本人たちはあくまで強気で「夢があれば仕事はいらない」「キリストが評価されるのに数千年かかった。グリンダも同じだ」という趣旨の発言をするが、思わず笑ってしまう。

熱い野望と現実との隔たりが肝となったコメディだ、と分析するのは英Independent紙。「来年の今頃は俺たち億万長者だぞ」とのセリフは、空回り気味の3人を象徴している。このほか、男同士の友情、性的欲求不満、そしてちょっとした騙し合いなど、興味深いテーマが多数登場。元々BBC Threeで放送されていた本作は、同チャンネルがここ数年で生んだ最上のコメディの一つだ、と同メディアは賞賛している。

♦モキュメンタリーの本分発揮

一見真面目なドキュメンタリーの中にユーモアを織り交ぜる「モキュメンタリー」として、本シリーズはその真価を発揮している。DJたちと番組レポーターの噛み合わない会話は見どころの一つ。Independent紙が紹介するあるシーンでは、「海賊局に必要なものは、音楽への情熱とプレーヤー、マイク、トランスミッター、そして銀河一の名MCだ」とDJ・ビーツが語る。レポーターが「どのくらい揃いましたか?」と質問すると、ビーツは「今のところ、銀河一のMCだけ」。お堅い密着取材のスタイルが、笑いを一層引き立ててくれる。

架空のドキュメンタリーだったはずの本シリーズには、あまりの人気から、現実との奇妙なつながりも発生。英Evening Standardによると作中でMC・グリンダは、英国アカデミー賞の受賞をインタビュアーにひけらかしている。これはドラマ自体の受賞歴を作中に持ち込むという、二重構造のジョーク。また、架空のラジオ局だったはずの「クラプトFM」は、ドラマの枠を飛び越え、現実世界でツアーを開催するまでに成長。こちらはチケットが完売するほどの人気イベントになっている。

熱いDJたちの『People Just Do Nothing』シーズン5は、英BBC Twoで放送中。「モキュメンタリー」作品に興味のある方はこちらもチェック!(海外ドラマNAVI)

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