Netflixオリジナルの『アンビリーバブル たった1つの真実』は、ある少女のレイプ告白をめぐる実話に着想を得たドラマ。侵入した男に犯されたという少女だが、普段から素行に問題があることが災いし、その涙ながらの被害告白は警察の信用を得ることができない。ピューリッツァー賞受賞の報道を映像化した、全8話のミニシリーズ。
性被害を訴える少女に、数々の不審点
18歳の少女・マリー(ケイトリン・デヴァー)は親の虐待から逃れ、政府の保護施設で暮らしている。虐待で性格が曲がり、素行の悪さが目立つことも。ある朝マリーは、未明に侵入してきた男にレイプされたと訴える。現場に駆けつけた男性刑事たちは、辛い記憶を何度も事細かに話すよう要請。マリーは思い出したくない出来事を繰り返し口にさせられた上に、下着、尿、粘膜まで採取され、表情を固くしてゆく。
友人たちからは同情を寄せられる彼女だが、その歪んだ性格をよく知る二人の元養母たちは、彼女の不自然な振る舞いに気づく。事件後も身勝手で強気な言動を取るマリーを見ていると、まるで事件など無かったかのよう。さらに、目隠しをされ縛られたというマリーの発言に、ある矛盾が発覚。初めは親身になっていた担当刑事のパーカー(エリック・ラング)さえ、レイプ事件はでっち上げではないかと疑い始める。ついに警察は作り話と断定して捜査を打ち切るが、数年後、手口がきわめて近い犯行が連続して起こる。はたしてマリーのレイプ事件は実際に起きていたのか...?
デリケートな事件に切り込む
本作『アンビリーバブル たった1つの真実』は、目をそらしたいテーマに切り込んだ意欲作だ。英Guardian紙は、現実世界での性犯罪の状況を憂慮する。イギリスではこの10年あまり、6万件の性犯罪被害の報告に対し、有罪判決が下ったのはわずか900件ほどに留まっているという。割合にして1.5%という低さだ。アメリカの状況はさらに悪く、被害報告数に対する有罪宣告数は0.5%程度と推定されている。本作は、こうした性犯罪事件の状況に一石を投じる作品。米調査サイトのProPublicaが報じ、後にピューリッツァー賞を受賞することになる事件をドラマ化した。
実際の報道と比較すると、マリーの信頼性に若干の違いがある、と米New York Times紙は解説する。元となった記事では、マリーの証言の真偽について、ドラマ版よりもはっきりわかりやすいトーンで書かれていたようだ。一方、ドラマでのマリーの印象は、「同情すべき被害者」と「信用ならない素行不良の少女」の二つの間で揺れ続ける。結末の見えない一つの物語として興味深く観られるよう、ドラマ版ならではの工夫が凝らされているようだ。
ストーリー性高く品位あるドラマ
慎重な配慮が行き渡っているのも、本作の美点の一つ。性犯罪を扱っているが興味本位の映像作りに走ってはいない、とGuardian紙は述べ、実のある内容を評価している。作品の性質上、レイプの場面がたびたび描写されるものの、単に刺激的なシーンを設ける目的でつけ足されているわけではない。マリーの苦境を理解するため用意されたシーンが多く、構成上の必然性が感じられるのが特色だ。レイプを受けたというマリーは、親しい人々に偽証を疑われるという辛い立場に。信頼されず話を聞いてもらえない被害者を描き、事件にまつわる正義とは何かを考えさせる作品だ。
もちろん一本のドラマとしての完成度も素晴らしく、New York Times紙はショッキングであると同時に満足感を得られるクライマックスになっていると述べている。マリーの身に降りかかった事件と、その数年後に別の州で起きた事件とを交互に振り返る構成になっており、視聴者はその類似点に徐々に気づいてゆく。画面内の登場人物たちがその共通項を見出すのはいつのことか、と固唾を呑んで見守ることになるだろう。
少女の証言が波紋を呼ぶ『アンビリーバブル たった1つの真実』は、Netflixで配信中。(海外ドラマNAVI)
Photo:『アンビリーバブル たった1つの真実』 (C)Beth Dubber/Netflix