ハリウッド映画や海外ドラマで英国俳優たちが大活躍をしているが、なかでも今一番ノリにのっているのではないかと思われるのがヒュー・グラントだ。世界中の女性たちの心を掴み一大ブームとなった『ブリジット・ジョーンズの日記』の第1作目から来年で20年を迎える。最近では、実話をもとにした政治スキャンダルを描いたドラマ『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』で高い評価を得ており、映画『パディントン2』では悪役に挑戦、そして今年5月公開を予定している初めての米TVシリーズなど、新たな境地を開拓し続ける今年60歳を迎えるヒュー。今回はそんな彼の近況を、最新の出演作予告編も交えてお伝えしよう。
ヒュー・グラントといえば、『フォー・ウェディング』『ノッティングヒルの恋人』などのヒット映画に出演し、ハンサムな独身貴族やダメ男を演じさせたら彼の右に出る者はなしというほどの人気を集め、"ロマンチック・コメディの帝王"と呼ばれてきた。一方で、本人はロマンチック・コメディに出演することで自己嫌悪を感じていたという。米Hollywood Reporterのインタビューで、「僕は年を取って、かっこ悪くなって、太り過ぎたから、もうロマコメをやることはできなくなった。だから他のジャンルをやるようになって、自己嫌悪も少しばかりなくなった」と語っている。
しかしながら、今年2月2日(日)に行われた英国アカデミー賞(BAFTA)の授賞式では、久しぶりにロマコメのヒュー節が復活。この日ヒューはプレゼンターとして出席。直前に主演女優賞を受賞しスピーチを終えたレネー・ゼルウィガーを、出番に備えて舞台袖で待機していたヒューが笑顔で迎えてハグ。続いて、作品賞を発表すべく壇上に姿を現したヒューは開口一番、「よくやった、ジョーンズ! とても変わったドレスだったね」とスピーチ。
言うまでもなく、ヒューとレネーは『ブリジット・ジョーンズの日記』で共演した間柄。ヒューがブリジットの上司ダニエル・クリーヴァーに変身し、映画からの台詞を織り交ぜたことで、観客は大爆笑&大喝采。さらに、同作で共演したコリン・ファース(作品賞にノミネートされた映画『1917 命をかけた伝令』に出演)を揶揄し、「作品賞には素晴らしい映画がノミネートされています。僕も投票しました。普段はしないんですが、コリン・ファースの受賞を阻止したいときだけは投票します」と発言。授賞式の壇上で、ウィットに富んだお茶目なジョークをかましても嫌味にならないところが、ヒューの魅力なのである。
また昨年末には英BBC Twoで、ヒューの足跡をたどったドキュメンタリー番組『A Life on Screen: Hugh Grant』を放送。
幼少から学生時代、俳優としての活動をアーカイブ映像と本人のコメントでたどるという内容だ。パブリックスクール~オックスフォード大学仕込みのポッシュな英語アクセントで有名なヒューだが、「裕福な家庭に育ったと思われるけど、決して豊かではなかった。富裕層が通うラティマー・アッパー・スクールに進学できたのは奨学金を受けられたから」と話す。
アンディ・マクダウェル(『 フォー・ウェディング』)、ニコラス・ホルト(『アバウト・ア・ボーイ』)、サンドラ・ブロック(『トゥー・ウィークス・ノーティス』)など、共演俳優たちのコメントも面白かった。コリン・ファースとリチャード・カーティス監督は、『ラブ・アクチュアリー』のダンスシーンをヒューが極端に嫌っており、何かにつけてリハーサルを拒否、収録最終日にほぼぶっつけ本番で挑んだというエピソードを披露している。
そんなヒューが、昨年12月12日(木)に行われた英下院総選挙では、意外な横顔を見せた。この選挙は、欧州連合(EU)離脱が争点の大切な総選挙だったが、野党を支持したヒューは、ロンドンや地方都市で労働党候補者の応援に駆けつけたり、各家庭に個別訪問をしたり、SNSで戦略的投票を呼び掛けるなどした。ヒュー・グラントが突然、自宅の玄関に姿を見せたら、びっくりすることだろう。日本の感覚ではあまり考えられないが、イギリスでは俳優やミュージシャンなどが特定政党を支持したり政治活動をしたりすることは普通にあることで、ヒューが熱心に選挙運動をする姿が話題になった。
Hugh Grant is knocking on doors to persuade Brits against Brexit, and fans are comparing it to "Love Actually" https://t.co/yCOadCGZit
-- Entertainment Insider (@EntInsider) December 2, 2019
今年の9月に60歳を迎えるヒュー。年齢を重ねたことにより本人も吹っ切れたようで、これまでのワンパターン的なキャラクターから脱皮し、さまざまな役柄をのびのびと演じている様子は見ていても気持ちが良い。
最新作であるガイ・リッチー監督の犯罪アクションコメディ映画『The Gentlemen(原題)』では、主人公を恐喝するお調子者のタブロイド記者の役をサングラスにヒゲ面という渋いルックスで挑んでいる。
マシュー・マコノヒー(『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』)、チャーリー・ハナム(『サンズ・オブ・アナーキー』)、コリン・ファレル(『ヒットマンズ・レクイエム』)、ミシェル・ドッカリー(『ダウントン・アビー』)といった演技派俳優に混じって、飄々とした魅力でメインキャラを食ってしまうほどの輝きぶりだった。悪役でもどこか憎めなくて、ついつい応援したくなってしまうのは、そのチャーミングな人柄がにじみでているからなのだろうか。
最後に、ヒューが米ドラマシリーズに初めて出演する新作ドラマ『The Undoing(原題)』の予告編が公開となったのでご紹介しよう。
米HBOで今年5月に放送開始予定の本作はジーン・ハンフ・コレリッツの「You Should Have Known」を原作とし、『ビッグ・リトル・ライズ』のデイビッド・E・ケリーが脚本と製作総指揮を務め、デンマーク人女性監督スサンネ・ビア(『ナイト・マネジャー』)がメガホンを執る新作TVドラマシリーズ。
セラピストのグレース(ニコール・キッドマン)とその献身的な夫で小児腫瘍医のジョナサン(ヒュー)、ニューヨークのエリート私立学校に通う幼い息子(ノア・ジュープ)を中心に描かれるサイコ・スリラー作品。完璧とも思えるグレースの人生が、夫ジョナサンの失踪と知られざる彼の過去によって一夜にしてくるってしまう...。出演は他に、ドナルド・サザーランド(『ハンガー・ゲーム』シリーズ)、エドガー・ラミレス(『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』)、イーダン・アレクサンダー(『ハーパー★ボーイズ』)、イスマエル・クルス・コルドバ(『レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー』)など。全6話構成のミニシリーズだ。
今までにヒューが大きな賞を獲得したのは、『フォー・ウェディング』での英国アカデミー賞最優秀主演男優賞とゴールデン・グローブ賞最優秀主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)のみだが、イギリスではすでにナショナルトレジャー(国宝)的な存在である。これからもヒューの活躍に注目したい。
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