イーサン・ホークが不気味な仮面男を怪演!最新作『ブラック・フォン』が描く究極の脱出劇とは?

映画『透明人間』『ゲット・アウト』など上質なホラー、スリラー作品を次々と世に送り出しているブラムハウス・プロダクションズが製作した新たな怪作『ブラック・フォン』(公開中)。イーサン・ホーク演じる仮面サイコパス野郎にさらわれた少年が、いかなる手段で脱出を図るのか? 見どころはこの1点に集約されるが、ここに埋め込まれた斬新なアイデアが本作を平凡なスリラーに終わらせない。生命線は“黒電話”。こいつが果たしてどんな役割を果たすのか…。【映画レビュー】

本作は、スティーヴン・キングの息子ジョー・ヒルの短編小説「黒電話」を、『ドクター・ストレンジ』『エミリー・ローズ』のスコット・デリクソン監督が実写化したサイコスリラー。

イーサン・ホークが不気味な仮面男を怪演!最新作『ブラック・フォン』が描く究極の脱出劇とは?

コロラド州デンバー北部の小さな町で、子供の連続失踪事件が起きていた。そんな中、気弱な少年フィニー(メイソン・テムズ)は、ある日の学校の帰り道、マジシャンを名乗る謎の仮面男(イーサン)に「手品を見せてあげる」と声をかけられ、そのまま誘拐されてしまう。気づけば、そこは薄暗い地下室。扉には鍵がかけられ、窓には鉄格子、そしてなぜか断線した黒電話が壁に掛けられている。一方、行方不明になった兄フィニーを心配する妹グウェン(マデリーン・マックグロウ)は、失踪に関する不思議な夢を見ていた…。

不思議と言えば、一番謎なのが、イーサン演じる仮面男のキャラクター。彼はフィニーを誘拐して地下に監禁するが、餓死しないように食事を運んだり、それでいて時折怖いことを言ったりと、結局、何がしたいのかわからない。少年に興味があるのか、殺人に興味があるのか、はたまた身代金が目的なのか…。深掘りしないということは、「勝手に想像しろ」ということなのか?とゴチャゴチャ理屈っぽく考えを巡らしていたら、「焦点はそこじゃねぇ、フィニーはどうやったら脱出できるのか、そこに集中しろ!」というジョー・ヒルの声が…。「なるほど、そうか!」と思った瞬間、断線していた黒電話が鳴り響く。

イーサン・ホークが不気味な仮面男を怪演!最新作『ブラック・フォン』が描く究極の脱出劇とは?

気弱で非力なフィニーが何をどうあがいても、ここから脱出できるわけがない、そう考えると、けたたましく鳴り響く黒電話の存在が俄然、輝き始める。「出ろ!出てみろよ、フィニー!」、ここからは観客も脱出作戦の一員だ。恐る恐る受話器をとるフィニー、するとそこから見知らぬ人間の声が聞こえ、なんと脱出方法を次々と伝授してくれるのだ。

藁をもすがるフィニーは、怖がりながらも彼らの指示に従ってトライ&エラーを繰り返し、そして徐々に脱出の糸口をつかみ始める。だが、そう事がうまく運んでは面白くない。フィニーが活路を見い出す勢いに逆流するかのように、今度はイーサン演じるサイコパス野郎がどんどん殺意を出し始め、狂乱の極致へとなだれ込んでいく。

このコントラスが実に面白く、恐怖描写満載の攻防戦に観客は釘付けになることだろう。ちなみに妹グウェンも、持ち前の“予知夢”で犯行場所を絞り込んでいくという役割を担い、外堀からの攻めも盤石なことも追記しておきたい。

イーサン・ホークが不気味な仮面男を怪演!最新作『ブラック・フォン』が描く究極の脱出劇とは?

ところで、「あの黒電話の正体は?」…それについては、ここではあえて触れないことにする。その代わり、お楽しみ(あるいはガッカリ?)情報を一つ。不気味な仮面男を演じるイーサンだが、本人の顔がフルフェイスで登場するのはほんの一瞬! ただ、その表情がこれまで観たこともない苦悶の表情…間違いなく彼のキャリアの中で新境地といえるだろう。

映画『ブラック・フォン』は全国公開中。

(文/坂田正樹)

Photo:『ブラック・フォン』© 2021 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.