復讐計画とラブロマンスが同時進行する異色作『プロミシング・ヤング・ウーマン』ジェンダーバイアスの核心に迫る!

『キリング・イヴ/Killing Eve』(BBC America)で製作総指揮を務め、『ザ・クラウン』(Netflix)では女優としてチャールズ皇太子の妻カミラ・シャンドを演じたエメラルド・フェネル。才能溢れる彼女がキャリー・マリガン(『17歳の肖像』『ドライヴ』)を主演に迎え、念願の長編映画監督デビューを果たした『プロミシング・ヤング・ウーマン』が、いよいよ7月16日(金)より劇場公開される。【映画レビュー】

幼い頃から優秀だった医大生キャシー(キャリー)は、ある"事件"が原因で大学を中退。時は流れ、アラサーとなった彼女は、昼はカフェ店員として働き、夜はバーやクラブで泥酔したフリをして、ナンパ男たちに制裁を下すという二重生活を送っていた。そんなある日、キャシーは大学時代の同級生で現在は小児科医として働くライアンと偶然再会。思いがけない恋の予感に戸惑いながらも、この再会で気づいた"真実"にショックを受けたキャシーは、大学時代に起きた悲劇的事件に落とし前をつける覚悟を決める。

怒りを胸に秘めた復讐計画と甘いラブロマンスを同時進行で描きながら、ジワジワと事件の核心に迫る本作。アカデミー賞作品賞を含む主要5部門にノミネートされ脚本賞を受賞した他、英国アカデミー賞(英国作品賞/最優秀脚本賞)、全米脚本家組合賞(オリジナル脚本賞)受賞など、2021年の賞レースを大いに賑わせた。特にエメラルド監督による脚本は大注目を浴び、その独創的で大胆不敵な物語に共鳴したマーゴット・ロビー(『スキャンダル』『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』)が製作に名乗りを上げ、主演を務めたキャリーも「この役は誰にも渡さない」という強い意思で出演を快諾したという。

まさにウーマンパワーが結集した作品と言えるが、この映画が一歩抜きん出ているところは、一人の女が"身勝手な男たち"を一方的に断罪していくだけでなく、社会にはびこるジェンダーバイアスを浮き彫りにしながら、無意識のうちに前途洋々の若者(=プロミシング・ヤング・ウーマン)の未来を踏みにじった"都合のいい女たち"にも一石を投じているところだ。

※ここからは、本編のネタばれを多少含みます

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何か事件が起きた時、主犯はもとより、その事件の裏側で加担した者、止めもせず周りで歓喜する者、見て見ぬふりをする者、そして事件自体を揉み消そうとする者...様々な人間が関与していたにもかかわらず、誰も声を上げなかったとしたら、彼らは皆、共犯者だ。本作の基点となる"事件"とは、キャシーの親友ニーナの男子学生たちによる集団レイプだ。ニーナは被害を訴えたが、まさに周囲は"共犯者"だらけ、絶望の果てに自殺する。

この出来事にショックを受けたキャシーは、大学を中退し、謎の復讐計画ノートを作り、一人ずつ制裁を下していく。だが、彼女の怒りは、女を性の吐口にしか思っていない"クズ男"だけにとどまらない。同調圧力に屈する女、人命より社会的イメージを優先する女など...同性の罪も見逃さないのだ。「男の身勝手を許さない!」という社会にはびこる一方通行的なジェンダーバイアス(確かにそれは多いことは認めるが)を浮き彫りにしながら、この作品は、"人間という生き物"一人一人の問題として訴えかけている。

ちなみに、キャシーが容赦なき復讐鬼のようなイメージを持たれているかも知れないが、彼女は自身の肉体も傷つけず、銃や暴力など、法に触れる過激な方法を一切取らずに、巧みな計画でターゲットを追い込んでゆく。その手法は映画を観てのお楽しみ。予想を裏切る壮絶な結末、そして、「キャリー史上最高の演技」と批評家から絶賛を浴びた彼女の新境地にもぜひ注目していただきたい。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』は、7月16日(金)TOHOシネマズ 日比谷&シネクイントほか全国公開。

(文/坂田正樹)

Photo:

『プロミシング・ヤング・ウーマン』©2020 Focus Features, LLC.