SFドラマ、予算節約の"ボトルショー"にも不朽の名作はある!

SFドラマって、お金がかかる印象がありますよね。たしかに、日常生活ではありえないストーリーを視覚化するために、宇宙戦闘のVFXや、エイリアン/モンスターの特殊メイク、宇宙船や惑星のセットなどが必要になることが多いようです。

でも、お話の作り方によっては、コストを比較的安くすませることも可能。大半のSFドラマでは、撮影セットの数や視覚効果を抑えたエピソードをワンシーズンの中に何本か用意して、コストが高くなる派手なエピソードになるべく多くのお金を回そうとするものです。このように、やりくりのために予算を抑えたエピソードのことを、業界では「ボトルショー」といいます。

この言葉からもイメージできるように、セットの数が限られたお話は、ともすれば単調で閉鎖的な印象がともないがち。だからといって凡作とは限りません。非常にクオリティの高い作品も中には存在するのです。ここでは90年代以降のドラマから厳選した、とびきりの優良ボトルを紹介しましょう。

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★新スタートレック:「疑惑」(The Drumhead)
「宇宙船エンタープライズの船内で、敵対エイリアンによる諜報活動が発覚。さらに機関室で爆発事件が起きたため、宇宙艦隊からノラ・サティー提督が派遣された。すでに退役していた彼女だが、腕利きの調査官として知られ、その存在はもはや英雄的。はじめはサティーに協力を惜しまなかったピカード艦長だったが、爆発はただの事故とわかっても犯人捜しは終わらず、際限のない魔女狩りに発展。ついに艦長までもが疑いをかけられてしまう......」

中世ヨーロッパの魔女狩りや、50年代のアメリカで盛んだった赤狩りを思わせる硬派な内容。24世紀の人間でも、見えない恐怖に対しては同じ過ちを繰り返してしまうことを描いており、見ていて背筋がゾーッと寒くなります。クライマックスとなる公聴会のシーンでは、ピカードを演じる俳優パトリック・スチュワートと、サティー役の女優ジーン・シモンズの演技が火花を散らせ、見応えたっぷり。同じ法廷もので、アンドロイドの人権を問う「人間の条件」(The Measure of a Man)もオススメです。

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★バビロン5:「囚われのシェリダン」(Intersections in Real Time)
「暗黒の独裁体制を敷き、植民惑星を服従させようとする地球政府に、巨大宇宙コロニー"バビロン5"は反旗を翻した。祖国と戦う苦渋の決断を下したコロニー司令官シェリダンだったが、部下の裏切りにあい、地球政府の手に引き渡されてしまう。火星の施設に監禁され、拷問を受けて意識が朦朧としているところに、ウィリアムという尋問官が現れる。その執拗な心理作戦に、必死に抵抗を続けるシェリダンだが......」

エピソードのほぼ全編にわたり、尋問官とシェリダンが暗い殺風景な部屋で延々とやりとりをするだけという、ボトルショーの中でもとりわけ大胆な作り。尋問にかかわる人も含めて、登場人物はわずか数人。非人道的な拷問を事務的にてきぱきとこなすウィリアムは、私生活では理想的な家庭人であることが示唆されます。最後まで救いのないシビアな内容で、ここまでひどいことが人間はできるものなのかと、暗鬱な気分にひたれること請け合い。

ちなみに、『新スタートレック』の「戦闘種族カーデシア星人Part 2」(Chain of Command, Part 2)も同様に非人道的な尋問・拷問を描く内容で、出演者の演技も大変に見応えのある傑作ですが、さすがに尋問シーンだけで全編を構成するところにまでには至っていません。ここは思い切りのよさを評価し、「囚われのシェリダン」に軍配を上げておきましょう。

★新アウター・リミッツ:「慈悲と愛」(Quality of Mercy)

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「長きにわたるエイリアンとの宇宙戦争の果てに、捕虜になってしまった地球人のスコークス少佐。収容施設に強制連行され、放り込まれた監房には、ブリーという若い女性の士官候補生がいた。過酷な現実に絶望するブリーを励ましながら、スコークスは必死に脱出を試みる」

エイリアンの監房セットだけでほぼ全編が撮られたエピソード。上で紹介した「囚われのシェリダン」と同じく捕虜の話ですが、こちらは同じ監房に囚われた、軍の士官と候補生のやりとりでお話が構成されています。強烈なエンディングがいまだにトラウマになっているファンが多数いる模様。『新アウター・リミッツ』の中でもとくに評判のいいエピソードで、続編も作られました。

★ドクター・フー:「Midnight」(第4シリーズ:日本未公開)
「美しい結晶に覆われた惑星ミッドナイトを訪れたドクターは、サファイアの滝を見物しようと、意気揚々と観光シャトルバスに乗り込む。ところが道中、原因不明の事故でバスは立ち往生。ドクターは7人の乗客とともに数時間、救助を待たなくてはいけなくなってしまった。そんなとき、バスの外から車体を強く叩く音が......。強い放射線が降り注ぐこの星には、生命はいっさい存在しないはずなのに!」

シャトルバスに閉じ込められた人々の、数時間にわたる恐怖体験を描くエピソード。エイリアンはまったく姿を見せませんが、大変ユニークな能力を発揮して乗客を心理的に追い詰めます。特殊メイクやCGIを用いず、俳優の鍛え抜かれた演技力をフル活用する内容(さすが英国ドラマ!)。崖っぷちに追い込まれた人間の、いや~な側面も存分に堪能できます。

......こうしてみると、優れたボトルショーには、人間のダークサイドを描く救いのない話が多いみたいですね(苦笑)。でも、舞台劇と同じように、俳優の演技や脚本の出来が際立つこともたしか。イマジネーションを喚起する良質なドラマで、作り手の志の高さを感じさせるのです。

■『ザ・ベスト・オブ 新スター・トレック』
【リリース】2009年06月26日レンタル開始(レンタル中)
【発売・販売元】パラマウント ジャパン

Photo:『ザ・ベスト・オブ 新スター・トレック』TM & © 2009 CBS Studios Inc. STAR TREK and related marks are trademarks of CBS Studios Inc. CBS and related marks are trademarks of CBS Broadcasting Inc. All Rights Reserved. TM, ® & © by Paramount Pictures. All Rights Reserved.