11歳のトランスジェンダー、女の子として生きることを決意...英ミニドラマ『Butterfly』

性的少数者への肯定的な捉え方が広まりつつあるが、当のLGBTQの人々が生きづらい思いをする場面もまだまだ少なくはない。アイデンティティに関する悩みは、多感な少年期となればなおのことだろう。英ITVで10月に放送された『Butterfly(原題)』は、小学生のトランスジェンダーをテーマにした3話構成のミニ・シリーズ。少女としての生き方を切望する11歳のマックス(カルム・ブースフォード)と、その告白を耳にした両親を描く。

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■今日からはマキシン
学校から帰るやいなや、二階の自室へ駆け上がるマックス。押し付けられた制服から大好きな私服に着替えられる瞬間は、彼女にとって特別な意味を持つ。男の子として生れながら少女を自認するマックスにとって、華やかな洋服を着て過ごせる時間は何物にも代え難い。しかし、母ヴィッキー(アンナ・フリエル)の心は揺れる。幸せに過ごして欲しいが、少女としての生き方が容易でないのも事実。家の中で少女としての服装を許すのが、母としての精一杯のサポートだ。

そんなある日、学校で男子トイレに入ることがどうしてもできなかったマックスはお漏らしをしてしまう。父スティーヴン(エメット・J・スキャンラン)は彼を「普通」の子に戻してやりたいと、カウンセリングに連れてゆく。しかし、結果としてマックスは自分の道を進む決意を新たに。女の子の制服を身にまとい、マキシンと名を改めて通学することを宣言する。これが最善だと力強く両親を説得する姉のリリー(ミリー・ギブソン)、「可愛いね」と一見肯定したかのような母、そして怒りと悲しみに襲われる父。マキシンの大きな決断を、家族はどう受け止めてゆくのだろうか。

■父の迷い
劇中のキャラクターたちは、少女として生きようとするマキシンに対し、それぞれの信念を持って接する。新しい分野を丁寧に描いた素晴らしく繊細なドラマだ、と賞賛するのは英Guardian。家族のなかで最も保守的なスタンスの父スティーヴンは、マキシンの困難を象徴する人物の一人だ。しかし、決して身勝手な悪者というわけではない。股間のものが嫌いだというマキシンに、邪魔だし俺も好きじゃないよ、と優しく寄り添う一幕も。一方で、ある時はスカートを穿いて踊るマキシンに業を煮やし、平手打ちを喰らわせてしまう。不快で悲しく、しかし両者の心情が伝わってくる優れたシーンだ、と同メディアは述べている。

そんな彼が辛く当たるのは、息子としてのマックスを愛しており、失うのが怖いからこそ。マキシンも父を愛しているのだと紹介する英Independentは、好きでもないサッカーをプレーして喜ばせようとする健気な一面を紹介。やがては女の子志向を卒業するはずと両親は期待するも、その意思のないマキシンとの間に悲劇的な溝が広がる。

■子供のLGBTQ
成人が主役のLGBTQのドラマは増えてきているが、性自認に悩む子供を題材にした作品はまだ珍しい。Guardianは、本格的なドラマとしては本作が初めてだと紹介。ジャンルの未来を占う試金石のようなシーンがいくつも見られるとしている。学校では心ない生徒からからかいを受けるが、酷いいじめにまでは発展しない。また、姉のリリーはマキシンを周囲から守る頼もしい盾として機能。主人公の年齢を念頭に、過激なシーンを避けていることが特徴だと言えるだろう。

Independentは、残酷な表現を抑えながらもキャラクターに共感できるプロットは見事で、涙を禁じ得ない瞬間があった、と評する。マキシンが悪童に詰め寄られ、酷い目に遭いそうになったところを姉のリリーに助けられる。弟を助けに来たのかと問う相手に、リリーは「ノー」。彼らが去った後でマキシンに、「妹だからだよ」、と優しく告げる。信じられないほど感傷的で秀逸なドラマだと同メディアは評価している。(海外ドラマNAVI)

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アンナ・フリエル (C) Twocoms / Shutterstock.com
エメット・J・スキャンラン (C) Ga Fullner, Twocoms / Shutterstock.com