ブラッド・ピット(『ブレット・トレイン』)、マーゴット・ロビー(『アムステルダム』)の2大スターを主演に迎え、『ラ・ラ・ランド』のオスカー監督デイミアン・チャゼルがメガホンをとった最新作『バビロン』がついにベールを脱いだ(2月10日より公開中)。舞台は1920年代のハリウッド黄金時代。想像を絶する酒池肉林の狂乱期を3時間にわたって“ジェットコースター”のように活写した今年一番(まだ始まったばかりだが)の衝撃作に、もはや眩暈(めまい)が止まらなかった。【映画レビュー】
『バビロン』あらすじ
20世紀初頭から徐々に映画人たちが集まりだし、ゴールデンエイジ(黄金時代)と呼ばれた1920年代ハリウッド。ビジネススタイルや芸術形式がまだ確立されていない黎明期、サイレント映画からトーキーへと大きく変化する時代のうねりの中で、それまで我がもの顔でハリウッドに君臨していた映画人たちが窮地に立たされる。
『バビロン』レビュー
驚愕の映像体験
賛否うずまく前評判は聞いていたが、チャゼル監督の振り幅を勝手に限定していた筆者にとって本作は、想像を遥かに超える驚愕の映像体験だった。例えが極端かもしれないが、ローマ帝国皇帝の狂乱ぶりを描いた『カリギュラ』(1980)の悪夢にうなされ、目覚めたら『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)の多幸感に包まれていた…言語化してみればそんな感覚だろうか。「本当にチャゼル作品なのか?」と疑うほど容赦のない描写、特に前半は悪意に満ちあふれた攻撃性さえ感じた。
ハリウッド映画に対する愛
しかし、ラストに訪れる“夢のひととき”は、ハリウッドの歴史がいかにタブー視されていたか、あるいは、いかに掘り下げて真実を見つめようとする者がいなかったかを問いかけ、チャゼル監督のハリウッド映画に対する真摯な愛の表れとなって筆者の胸にブーメランとなって帰ってくる。欲にまみれた乱交パーティー、蔓延するドラッグ、激しくぶつかり合う野心と野心…デカダンスの極みが崩壊し、一度奈落の底に落ちたからこそ、ハリウッド映画が“夢を売る産業”として生まれ変わったんだ、という事実を、彼は勇気を持って描き切ったのだ。
監督に拍手!
本作の製作に携わったプロデューサーのマシュー・プルーフとともに、チャゼル監督は博士論文に匹敵するほど創世記のハリウッドを調べ上げたそうだが、砂漠の田舎町が急速に成長していくその陰で、時代に呑み込まれ、自己崩壊していった人々の残骸が心に深く刻まれたという。確かに狂乱描写は、「何もそこまで…」と思う部分も多々あるが、これからも作品を作り続けていく映画人として、決して目を反らしてはいけない歴史の一幕に果敢に挑んだチャゼル監督には、改めて拍手を送りたい。
(文/坂田正樹)
Photo:『バビロン』©2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.