その稀な機会は、2010年の初夏に訪れた。
「ある海外ドラマライターの方のスケジュールが、現場取材の日程と合わない。代わりに尾崎くんが撮影を見に行ってくれないか?」「それは是非、見させて頂きます!」
巷の話題をさらっていたドラマの撮影現場、しかも、自分がこれまで関わったことが無いジャンルの番組だ。
俳優達がどのようにヒット作品に取り組んでいるのか、間近でじっくり見れる機会など、そうはない。
それが『Glee』だった。
今でこそ、海外ドラマファンであればどこの国でも、あるいは米国に住んでいる人なら、知らない人はいない人気作品だが
決して"ミュージカル好き"とは言えなかった僕は、当時ほとんど予備知識は無く、まっさらで、思い入れも偏見も何も持たないまま、このお誘いをお受けした。
そしてそのメディア招待日の撮影が、第1シーズンのフィナーレ(最終話)、
「僕たちのジャーニー/Journey To Regionals」
あの州大会の決戦のパフォーマンスだったのだ。
***
当時はまだ放送前なので、
使われた曲目なども当然公表することは出来ず、
まだ日本では人気が爆発する前でもあったので、詳細をコラムなどに記すには時期が尚早だった。
でも最新のシーズン5を、
"フィン・ハドソン"という番組屈指の人気キャラクターの存在無しで
迎えることになった今...
あらためて、このドラマに愛情を注ぐ多くのファンの方々に、
僕が目にしたコーリーやキャスト達の人柄や印象、
そして人気シリーズが"最初のフィナーレ"での表現に賭けた舞台裏の熱を、
(※断片的な思い出なので、非常に恐縮ですが...)
あの日書き残したメモをひも解き、
少しでもお伝えしようと思う。
音楽とダンスを駆使するドラマ現場の衝撃
『Glee』第1シーズン、最後の"決戦大会"の場として使われたのは、
ロサンゼルス市内、ビバリーヒルズのサバン・シアターという劇場。
このシアターは1930年代に建てられ、かつては20世紀FOXが
所有していたという伝統のある劇場。
会場に午後到着すると、
入り口にはクラフトサービス(撮影の合間にスタッフ、出演者、
エキストラたちが口にする軽食やドリンクのコーナー)があり、
ロビーには撮影機材が処狭しと置かれていた。
すでに劇場ホールの奥から大音量の音楽が流れている。
客席には、びっしりと観客が座っていた。
歴史の長い建物なので、古い外観を見た時は、
「ここで、人気絶頂のドラマを撮るのか...!?」
と思わず目を疑ったが、一歩場内に入ってみると、
銀色を基調とした素晴らしく惚れ惚れとする装飾がステージを引き立て、
「なるほど〈フィナーレ〉に相応しい!」
と、納得させられた。
流れていた曲は、クイーンの"ボヘミアン・ラプソディ♪"。
撮影は朝から始まっていて、ステージ上では、
あのライバルグループ〔ヴォーカル・アドレナリン〕の面々が
課題曲を演じていた。
目の前で繰り広げられる、鮮やかなターン、リフト、ジャンプの連続、
オハイオ州どころかブロードウェイばりの難易度かと思うような振り付けに、
「えっ...高校の合唱クラブのレベルじゃないじゃん!(汗)」
と、驚かされる。
おそらく、ハリウッドでもかなり踊れる若いダンサーたちが
オーディションで選抜されたのだろうが、
この日の撮影に向けて、相当なリハーサル(稽古)を積んだはず。
ステディカム(カメラマンの肩と腰に固定され、動き回ってもブレない映像を臨場感たっぷりに撮影できる)を使い、複雑なカメラワークで、テイクを何度も何度も、容赦なく繰り返す。
それにひたすら耐え、クオリティーを落とさないダンサーたちの実力に敬服した。
テレビドラマの歌唱シーンを、これほどの
細かな動き/繰り返すショット(絵面)の多彩さ/
凝った照明/ステージ上のパフォーマーの人数、
で撮影するんだな...
と、エンターテインメントを創り上げる能力に圧倒された。
番組の広報担当者に案内され、僕が座ったのは2階席。
エキストラの"観客"が埋めているのだと思っていた客席は、
1階も2階も、Facebookやツイッターで事前に募った番組ファンたちだった。
1階のアリーナ前方で見ているファンは、さぞ興奮していることだろう。
どうりで、会場に熱気が溢れていたはずだ。
その熱は"本物"だったのだから。
一方2階は、それらファンに混じり、
取材の招待を受けたライターたちも、一角に座って見学した、
いわばVIP席だった。
徹底したファンサービス
撮影の舞台裏を生で見れるだけでも、ファンの皆さんには感激の体験だったろうと思うが、ファンサービスは"ご招待"だけでは終わらない。
なんと、相手チーム〔ヴォーカル・アドレナリン〕の撮影中に、
主要キャストが次々と交代で2階席のファン&取材陣の前に登場したのだ。
彼らは、マイクでファンに挨拶し、質問に次々と答えた。
長時間にわたる撮影でも、ゲスト達を飽きさせない、粋な計らいである。
メルセデス役のアンバー・ライリーは、ファンから「好きなミュージカルは?」と問われ、即座に「シュレック」と答えて笑いを取る。
でも、それはもちろんジョークで
「本当はドリームガールズよ!」
と嬉しそうに語った。
ドラマの中でも圧巻の歌唱で聴かせる彼女は、本当に歌う芸術を愛しているのだろう。
クイン役のダイアナ・アグロンは、
ドラマ中のチア・リーダーの印象よりももっと控えめ。
透明感があり、好感が持てる。とても真面目なタイプのようだ。
客席を意外にも最も盛り上げたのは、
鬼コーチ:スー・シルベスターとして、一躍全米のよき"憎まれ役"として株を上げたジェーン・リンチ。
彼女はステージの歌唱パフォーマンスには出演しないが、
ドラマ部分の撮影があるので待機していたらしい。
あの、ジャージ姿でのサプライズ登場は、嬉しいプレゼントだ。
「私ね、いじわるなのって、大好きなのよっ!」
と、悪役スーを存分に楽しんでいることを明かした。
この日、一番のエンターテイナーは彼女だったかもしれない。
そして、
ジェーンに負けずの大歓声を浴びたのが、
フィン・ハドソン役のコーリー・モンティースだった。
一見、シャイな印象の青年の人気は絶大だった。
どこかの街の高校や大学のキャンパスに居そうな、
いい意味で「普通のオーラ」を持つ彼は、やや地味に映るほどで二枚目スターと呼ばれるような洗練された感じはまだ無かった。
しかし、それこそが、
彼がこのフィン役を射止めた資質だったのだろう。
彼は、プロとしての歌唱経験も無かったという。
製作側に送りつけたオーディションテープは、タッパウエアを並べてドラム代わりにして、
鉛筆で即興的に叩いて演奏する姿を映したものだった。
その映像が、プロデューサーの目に留まる。そこから歌のテープを提出するよう求められ、ロサンゼルスでの大規模オーディションに進んだという。
そんなコーリーが、
この撮影の日には、大勢のファンの前で落ち着き、しかも気さくに振る舞っている。
すでに"将来のスター"として、"番組を担う一人"として。
しかし飾らず、、ごく自然に話す姿に僕は感心した。
「フィンに(アメフト以外で)プレイさせたいスポーツは?」
とのファンの質問には、ひとことキッパリと、
「(アイス)ホッケー」
と答えた。カナダ出身の彼ならではだ。
こういう"ファンサービス"の間も、メイキング班のカメラが回っていた。
今となっては非常に思い出深い、大切な映像であるに違いない。
主演レイチェル役のリー・ミシェルは、
僕が会場の外で休憩している間にたまたま遭遇した。
劇場入り口近くクラフトサービスで喉を潤していると、
そこに車が一台到着し、笑顔の女性が後ろのドアから降り立った。
当時、いくらドラマのストーリーに詳しくなかった僕でも、
主演女優の顔は知っていた。
彼女は、ブロードウェイ出演(『レ・ミゼラブル』や『屋根の上の
バイオリン弾き』など)の出演経歴の持ち主だ。
その、舞台出身のリーが大型車の前に立ち、軽快に撮影スタッフと会話を交わしている。
正直、とっても小柄なのにびっくりした。
一瞬、子どもと見紛うくらいに小さい感じを受けた。
しかし、体格をコンプレックスともせず、明るいムード溢れる彼女は、
立派にドラマの主軸として大役を務めている。
一瞬にして周囲の目を惹き付ける彼女は、きっと多くのファンの励みにもなっているのだろうと確信した。
ミュージカルという題材が求める技
ミュージカルと聞けば、2012年度の映画界を賑わした『レ・ミゼラブル』の撮影現場で、ヒュー・ジャックマンやアン・ハサウェイらが挑んだ、
本番演技を〈生の歌声〉で録音する手法によって生まれた感動が今では有名となったが、
通常、これまでの映画やテレビのミュージカル作品の歌声は、
事前の録音によるもので、撮影時にはその音源を流しながら、
合わせて演技をする形をとってきた。
〈リップシンク〉と呼ばれるその手法は、
「じゃあ、口パクだから、楽なの?」
「撮影時に歌ったほうが、臨場感があっていいのに?」
と誤解されるかもしれないが、
『Glee』などで俳優たちが行う〈リップシンク〉は、
アイドル歌手が、コンサートや生放送の歌番組で(つまり1度きりのパフォーマンスなのに)実は歌っていない、というような"口パク"とは意味合いが全く違う。
『Glee』をはじめ、『SMASH』『マンマ・ミーア』『ドリームガールズ』などの作品群のキャストたちは、まず楽曲を覚え、練習し、最高の歌唱を引き出したものを最良の音響のスタジオで録音する。
そしてその際、どのような場面で、いかなる歌い方をしているかを細かに想像しながら、そして演出を受けながら、歌っているのだ。
そして、撮影本番の日には、
その音源(自分の声の強弱や息づかい)を身体に染み込ませた上で、ピタリとタイミングを合わせて演じなければならない。
さらに、彼らはダンスをし、生き生きとした表情を見せながら、
何度も何度もテイクを重ねる。
このような何時間にもわたる撮影のテイク毎に、俳優たちが本当に生で歌っていたら、全員の喉が潰れてしまうだろう。
だからこそ、"事前録音&リップシンク"の手法が不可欠なのである。
技術を求められるのは、俳優たちが、演じるキャラクターとして、
まるでそこで初めて起きている本番の舞台のように、瑞々しく踊り、
歌う姿を演じきることだ。
その、見た目のビジュアルと音源とを一致させるのは至難の業だ。
当然、ズレが生じれば録り直しになる。
それを『Glee』の出演者たちは、カメラの前でだけでなく、
観衆の前で、しかも単にエキストラの前でなく、"期待に胸を膨らますファンたち"の目前でやってのけた。
だからこの日の撮影は、"リップシンク"であっても、一瞬一瞬が真剣勝負であり、
非常に見応えがあった。
いざ、課題曲の演技を披露!
〔ヴォーカル・アドレナリン〕チームの撮影が一通り済むと、
劇中のコンテストの結果発表のシーンのショットをいくつか撮り、
次はいよいよ、リーやコーリーたち〔ニュー・ディレクションズ〕のパフォーマンスの撮影に入ることが会場に伝わった。
ファンたちの、そわそわする心持ちが場内に伝播する。
そして、これも偶然だが、
シーン撮影準備の合間にトイレにでも行こうと劇場の踊り場に出たとき、
階下のロビーで、コーリーやリー、クリス(カート役)やジェナ(ティナ役)やケヴィン(アーティー役)ら主要キャストたちが本番直前にウォームアップする姿を、たまたま垣間みることができた。
女子たちはゴールド系のドレスにヘアバンド、腰に可愛いリボンがあしらわれている。男子たちは黒のシャツとスラックスに、やはりゴールドのネクタイという、素敵な衣装に身を包んでいた。
たとえ"リップシンク"でも、ダンスや演技をファンに初めて披露する、フィナーレ最高の山場だ。
重圧は大きかったはずである。
皆が、深呼吸したり、ストレッチしたり、声を掛け合って励まし合っていたり...
その緊張感や面持ちは、まるで本当の競技会に出場する学生たちのようだ。
客席とは異なる、若き俳優たちのボルテージ。
つい先ほど、ファンたちの前でジョークを飛ばしていた時とは全く異なる気合いがみなぎっている。
その真剣な表情にとても好感が持てた。
そして本番...。
まず、登場したのは、Faithfully♪を二人のソロで歌うコーリー、
そしてリー。
彼らは客席の後方から、歌いながら現れ、ステージに向かう。
様々なアングルや異なるフレーム(ショットの枠)で撮影するので、
シンプルに歩いて歌うだけでも何度かテイクを繰り返して行く。
2階席からでは表情が見えなかったのが残念だが、
出来上がったエピソードの映像を見ると、堂々たる二人の登場の姿や
歌っている時のニュアンスの豊かさはさすがだ。
コーリーのシンプルさ、抑えた微妙な表情がいい。
前述したが、
コーリーはそれまで「歌」で経歴を築いて来た俳優ではなかった。
それまでミュージカルという娯楽にもほぼ無縁で、前年の09年に
リーのお誘いで『ロック・オブ・エイジズ』を見たという。
リーが勧めて一緒に見たこの舞台が、コーリーにとって、
生まれて初めてのミュージカルだった。
それが、この年には彼自身が観客の前で歌っている。
コーリーがステージに上がると、
その一挙手一投足に1階のファンたちは
大騒ぎになったが、彼は2階席のことを忘れてはいなかった。
彼はステージからバルコニー階を見上げ、
「みんな、まだ居るんだね。凄いな!」
と声をかけ、優しく気遣った。
小柄なリーの隣に立つコーリーが、
一際大きく見える...。
そして、二人のソロを無事撮りきると、
そこからは他のメンバーが登場!
非常に長い撮影だったが、おなじみのメンバー全員が揃って、
ジャーニーの名曲メドレー(Any Way You WantIt♪/
Lovin" Touchin" Squeezin"♪/Don"t Stop Believin"♪)を歌い踊ると、
会場は一気にヒートアップ♪
彼らは弾けた!!!
一人ひとりが、喜びを炸裂させるようなエネルギーで演じた。
彼らの最高潮の表情が、全ての振り付けも楽しく魅せる。
このメドレーのグルーヴ感は、誰をも爽快にさせる力がある。
〔ヴォーカル・アドレナリン〕はテクニックで会場を唖然とさせ、
それに対して、〔ニュー・ディレクションズ〕は感情で完全に観客と一体化したのだ。
まるでコンサート会場のように、2階のVIP席までも立ち上がり、
全員が撮影に参加した。
観客で満席の状態を含んだショットが大方撮り終えると、
1階席で朝から夜遅くまで参加していたファンたちは一部家路についた。
そしてその1階アリーナの空席を、
2階席の招待者たちが自由に埋めてもいいということになり、
さらに撮影に積極参加する流れになった。
そう、あのメドレーの途中から、
実は僕も1階席で踊っていたのだ...(笑)。
しかし、その中に入ってみてつくづく感じたが、
アメリカの一般の人々は(本物のファンだけど...)は、こういう撮影でノリノリになるのが上手い!
何度、撮影を仕切り直しても、皆が本当に踊っていて、
心から楽しんでいるようだった。
その盛り上がりの臨場感はきっと、映像でもしっかりと視聴者に伝わったはずだ。
そしてステージ上では、俳優たちがまだ何度も、
懸命にその熱を引き起こすパフォーマンスを続けていた...。
***
僕の、あの日の回想リポートはここで終わり。
翌日の予定があったので、残念ながら最終ショットを待たずに退席しなければならなかった。
きっと、あれだけ目一杯、俳優とファンとスタッフが共にフィナーレを創っていたのだから、ついに夜11時30分に、
「Wrap!!(撮影終了!)」
の声がかかった時の歓喜はとてつもなく大きく、
感慨は深かったに違いない。
コーリー亡き今、
何を学び、何を創っていくべきか...
(共演者を失うということ)
2013年7月13日。
『Glee』の中心として、4シーズンに亘って世界に旋風を起こしてきた
"フィン・ハドソン"こと、コーリー・モンテースはこの世を去った。
わずか31才という若さで。
薬物の過剰摂取により、故郷のカナダのホテルで、
ひとりで亡くなっていた。
まるで、近くの高校や大学のクラブに居そうな、
素朴の良さを醸し出せる彼。
しかし、そのリアルライフには僕らの知り得なかった
過去の境遇と苦労、そして現在の闘いが進行していたのだ。
両親が早くに離婚、高校には行かなかった。
10代から、タクシードライバーなどのいくつかの職に就き、
ついに巡り会った"演じる世界"は、何にも代え難い職に思えたはずだ。
彼はドラマの中で、得意のドラムも打ち鳴らす。
時折見せる目の奥はどこか淋しげだが、歌い踊る表情は輝いている。
彼は"フィン"という別人を演じていたのではなく、
コーリー自身の辿るべき、"真の姿"と向き合っていたのだと思いたい。
コーリーの「闘い」をことさら美化するつもりはない。
だが、実生活でも恋人となり同棲や結婚まで考慮していたリーや製作チームに強く支えられ、彼は今年の上旬に薬物依存を脱するためのリハビリ施設に入り、4月に退院していた。
彼はハリウッドのピラミッドを一気に駆け上がった、
数少ない成功者のひとりである。
貴重なロールモデルになるべき若者だった。
ファンにとって彼は憧れであり、製作チームにとっては良き共演者、
よき友人、仕事仲間、祖国にとっては誇れるよき息子であったことだろう。
不遇な人たちにとっては特に、希望の象徴になれる可能性を持っていた。
だからこそ、残された人たちの驚きと苦悩と淋しさは大きい。
彼の才能の輝きは、ずっとファンと、共に働いた人たちの胸に残るだろう。
だが同時に、僕らは彼の死から"絶対に依存してはいけないもの、
手を出してはダメなもの"の重要性を学ばなければいけない。
コーリー本人はもはやその責任を取ることはできないが、ドラマの製作者たちはその責任と使命を全うするため、
ファンたちにとって、番組にとって、そしてコーリーにとって、必死に最善の道を模索しているはずだ。
懸命に...。
私事で恐縮だが、
今から遡ること11年前、僕は海外のある映画の撮影現場で共演の大先輩の女優の死に直面したことがある。
まだ、撮影は三分の二ほどが残っていた時期、撮影の最中に何かが起きた。
彼女の腹部で、大動脈瘤が破裂してしまったのだ。彼女はその夜に、敢えなくこの世を去った。
人生の最後の4週間、初めて出会った僕をまるで息子のように可愛がってくれた彼女の死に、僕は打ちのめされた。
深夜の病院のロビーでしゃがみ込み、声を上げて泣いてしまった僕が視線を上げると、窓の外で監督やプロデューサーたちが真剣に話し合いを続けていた。
彼らは必死に検討していたのだ。
「いかに彼女の演じたシーンを活かしながら、製作を存続させるか」を...。
そして僕らは何日かの休みの期間を経て、撮影を再開。
何日が過ぎても、ふと一人になると、嗚咽がこみ上げた。
しかしプロデューサーたちは、死を嘆き、悲しみに暮れることさえ、
許されなかったと思う。
ついに映画は完成を迎えた。
『Glee』の製作陣は、コーリーの訃報の数日後、シーズン5放送の延期をすぐに発表した。
僕は勝手に、"数ヶ月の長期延期もあるのでは?"と懸念していたが、
驚いたことに、シーズン5プレミアの放送日は9月19日から26日へ1週間先延ばししただけに留めた。
この衝撃の悲しみののち、わずか1週で、チームは現場復帰する。
製作陣のこの決断と、すぐにも撮影を続けるキャストたちの覚悟は並々ならぬものだ。
これだけの人気作品、メジャードラマともなれば、製作/現場制作(撮影)/放送/配給に関わる人材の数、
そして作品を待っているファンの数は計り知れない。
その人たちのために、物語は進んでいかなければならない。
あのグリークラブの結成の日から、そしてシーズン・フィナーレの劇場のドアの裏で
愛を告げた日から、4シーズンの間に培った絆。
その愛情を突如失ったリーの悲しみはいかばかりか。
コーリーが刻んだ栄光と、遺した教訓は、
きっとそのドラマの内外で、深い意味を込めた逸話として語られるはずだ。
あの忘れ難いフィナーレは、偶然か、もちろん演出か、〔ニュー・ディレクションズ〕が歌う課題曲の
歌い出しはすべてフィンがリードしている。
州大会への出場を最後に支えたのは、フィンという大きな柱だ。
あの日、撮影された映像を今見ると、キャストのあまりにも鮮やかな表現に涙が出そうになる。
「僕たちのジャーニー」は、『Glee』という類い稀なシリーズの船出を導いた、「コーリーたちの未来への旅」だった。
今は、皆が痛みと辛さを忘れず、しかしそれを乗り越え、過去4シーズンの歴史の上に、
さらなる光を灯して欲しい。
そう願ってやまない。
『Glee』は、コーリー・モンテースという俳優にとって、様々な世界へ羽ばたく、大きな扉となった。
彼の演技・歌・存在がファンの心にずっとあり続けるのは間違いない。
彼は、この番組と仲間たち、与えられたチャンス、そしてファンに感謝していた。
あとは製作チームによる、ファンたちのためのさらなる創作意欲と、ドラマの中で常に社会問題も取り上げて来た、
彼らの誠意のつづきをじっと、僕らは見守っていよう。
祈り...
Don"t Stop Believin"
Photo:『Glee』コーリー・モンテース
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