『宇宙探査艦オーヴィル』、『スター・トレック:ディスカバリー』との違いはココ!

映画『テッド』のセス・マクファーレンが手掛けるコメディタッチのSFドラマ『宇宙探査艦オーヴィル』(以下『オーヴィル』)が、3月25日(日)に日本初上陸する。海ドラファンでSF好きの人は、かねてから気になっていた作品ではないだろうか。

『オーヴィル』はアメリカでは、昨年の9月10日(日)に米FOXで放送がスタートした。その2週間後には、スタトレの最新ドラマシリーズである『スター・トレック:ディスカバリー』(以下『DSC』)が米CBS All Accessで配信スタート。2作品はアメリカでほぼ同時期にスタートしたため、何かと比較されることが多い。

一方、日本では、アメリカと同タイミングで『DSC』がNetflixにて配信されたが、『オーヴィル』はFOXスポーツ&エンターテイメントにて、今月初めてお目見えする。スタトレ公式の最新作である『DSC』と、"スタトレのパロディ"と目される『オーヴィル』はどこが違うのか、本コラムで探ってみよう。

●ココが違う その1:カラフルな制服、明るい艦内

まず見かけからして、だいぶ違う。『DSC』の登場人物が着る宇宙艦隊の制服は、紺色がベースだが、『オーヴィル』の制服は実にカラフルだ。ひと目見ただけで、『新スター・トレック』へのオマージュだとわかる。

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USSディスカバリーの船内は、明暗のコントラストを際立たせた照明効果により、映画的な見せ方を意識しているようだ。対して、USSオーヴィルの艦内は概して明るく、エンタープライズDやヴォイジャーによく似た雰囲気。

オーヴィルのクルーの中には、データやウォーフを意識したようなキャラクターがいる(ただし、第一印象は似ていても中身はかなり違う)し、未来のテクノロジーも『新スター・トレック』のそれにかなりよく似ている。シーズン全体を通して敵対種族として登場する"クリル"は、クリンゴンを連想させる。

物語の観点から見ても、『DSC』は最初から連続ものとして練られた物語が展開するのに対し、『オーヴィル』はスタトレの過去シリーズの大半と同じく一話完結式となっている。オープニングの演出からして『新スター・トレック』と似たノリで、まるで1990年代に戻ったかのように錯覚してしまうほどだ。

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●ココが違う その2:セスの強烈な個性

『オーヴィル』には番組の顔とも言える中心人物が存在する。それは、TVアニメ『ファミリー・ガイ』や映画『テッド』シリーズで知られるセス・マクファーレンだ。『DSC』にも製作総指揮者やショーランナーがいるが、『オーヴィル』のセスは製作総指揮と主演のほか、シーズン1全12話のうち8話の脚本を担当するという、八面六臂の活躍をしている。

あふれる才気とともに、過激なジョークや下ネタでも知られるセスは、『オーヴィル』でもそうしたネタを随所に織り込んでいる。しかし、本作で何よりもセスを突き動かしているのは、スタトレへの愛だろう。過去作品で度々スタトレをネタにし、『スター・トレック:エンタープライズ』で機関部員として出演したセスは、14歳の頃にはスタトレの自主映画を撮影している。ガチでファンなのである。

そんなセスは、『新スター・トレック』『スター・トレック/ヴォイジャー』『スター・トレック/エンタープライズ』の製作陣の一人だったブラノン・ブラーガとともに、科学番組『コスモス:時空と宇宙』の製作総指揮も務めており、宇宙や未来へのピュアな憧れも強いようだ。

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アメリカで『オーヴィル』は当初、映画『ギャラクシー・クエスト』のようなコメディとして宣伝されたが、実はセス本人は「思慮に富んだサイエンス・フィクション」として脚本を書いていた。番組のプロモーションに向けたインタビューでセスは、「1990年代のSFドラマは高揚感があって楽しかった。『ハンガー・ゲーム』のようなディストピアものにはうんざりしている」と発言している。

その言葉を裏付けるように、前向きなメッセージを込めたエピソードも本作には用意されており、単なる"パロディ"には終わらないものをセスが作ろうとしていることが伺える。

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●ココが違う その3:元スタトレの関係者を積極的に起用

『DSC』は、J・J・エイブラムスのリブート映画で製作・脚本を担当したアレックス・カーツマンほかが製作総指揮に名を連ね、そのもとで、1990年代の過去シリーズに関わったことのない新しい人材が多く起用されている(企画時は過去シリーズの製作陣の一人だったブライアン・フラーが中心人物となっていたが、のちに降板)。

それに対して『オーヴィル』では、過去シリーズの関係者が積極的に起用されているようだ。例えば、製作総指揮・監督には前述のブラノン・ブラーガ。監督としては、『新スター・トレック』でライカーを演じたジョナサン・フレイクス(ただし彼は『DSC』にも参加している)、『スター・トレック/ヴォイジャー』でトム・パリスを演じたロバート・ダンカン・マクニール、そして、過去シリーズでも監督を務めたジェームズ・L・コンウェイが参加している。また、やはり過去シリーズで科学コンサルタントを務めたアンドレ・ボーマニスが、ブラーガと脚本の共同執筆をした回もある。

今後予定されているシーズン2では、過去シリーズで脚本・製作を担い、『新スター・トレック』では「謎のタマリアン星人」などの名作エピソードを生み出し、『DSC』の脚本にも関わったジョー・メノスキーが新たに参加するという。

これらのスタッフ起用を見てもわかるように、『オーヴィル』はスタトレとは別の作品でありながら、過去シリーズの関係者に受け入れられているようだ。

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●実は『オーヴィル』の前評判は悪かった

さて、アメリカでは『オーヴィル』に対する反応はどうだったかというと、実は批評家が放送前に下した評価は芳しくなかった。はっきり言うと、酷評だった。

例えば、Deadlineは「SF好きは『DSC』の配信を待った方がいい」。TV Lineは「セス・マクファーレンのくすんだ模造SFは墜落炎上した」。Uproxxは「スタトレのパロディというより、出来の悪いスタトレだ」といった具合だった。

ところが、実際に放送が始まると視聴者は大喜び。映画レビューサイトRotten Tomatoesのスコアを見ると、トマトメーター(批評家)21%に対し、オーディエンス・スコア(一般ユーザー)は93%と両極端の結果が出ている(参考までに、『DSC』のスコアは82%/56%)。こんなに喜ばれたのは、みんながスタトレに抱くイメージに近い番組だからかもしれない。

『DSC』は、現代のTVドラマの潮流を取り入れた野心的な作品だが、ソーシャルメディアでは「話が暗すぎる」といった感想も目立つ。一方、『オーヴィル』は1990年代のスタトレ・シリーズを知るファンには安定感のある作風で、『DSC』に不満な人の受け皿になっているようだ。さらに、有料の動画配信の『DSC』と違い、『オーヴィル』はアメリカでは地上波放送番組であるというのも大きい。

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●『オーヴィル』と『DSC』は共存できる

両作品のファンの意見は対立することも多い。過去のフォーマットに甘んじず、スタトレ未踏の領域に挑む『DSC』と、スタトレへのノスタルジーと愛にあふれ、気楽に見られる『オーヴィル』。対照的な性格を帯びた2作品だが、それぞれの企画意図を理解すれば、むしろ両方の違いを楽しみながら鑑賞できるはずだ。

それは『オーヴィル』制作現場も同じ思いのようで、『スター・トレック/ディープ・スペース・ナイン』で貨物船の船長キャシディ・イエイツを演じ、『オーヴィル』ではドクター・フィンを演じているペニー・ジョンソン・ジェラルド、そして、前述のジョナサン・フレイクス、製作総指揮の一人デヴィッド・A・グッドマンは、「(今のドラマ界で)2作品は共存できる」と話している。

宇宙船の航海を描くSFドラマが複数作られているのは、SF好きにとって喜ばしい状況だ。楽しまなければもったいない。

(文/中島理彦)

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Photo:『宇宙探査艦オーヴィル』©2017 Fox and its related entities. All rights reserved./『スター・トレック:ディスカバリー』(C) Netflix. All Rights Reserved.