平凡な日々を過ごしていた主人公が、普段関わらないような人と突然出会い、人生が思わぬ方向に進んでいく……。『スピリット・フィンガーズ』はタイトルの通り、そんな出会いから自分らしさを見つけていく主人公ウヨン(パク・ジフ)の物語だ。個性豊かな絵描き集団と関わることで、自信のなかった少女が少しずつ変化していく姿を描く。青春の煌めきと不器用な恋愛模様を織り交ぜた、心温まる本作。今回は、そんな作品の魅力を紹介する。
『スピリット・フィンガーズ』はどんなあらすじ?
物語の主人公は、自分は冴えないと思いながら高校生活を送るウヨン。成績優秀な兄と弟がいて、いつも無難な格好で済ませたり猫背がクセになっていたり、とにかく自分に自信がなかった。そんなある日、街中で不思議な格好で絵のモデルをしている女性を目にする。画家は一人ではなく何人もいて、その中の男性に目を奪われてしまうウヨン。ボーっとしていたところに、なんと彼が近づいてくる……。少女漫画のような状況に胸が高鳴るが、その男性から言われたのは「モデルになって欲しい」という思いがけない言葉。そこから彼女は絵描き集団の“スピリット・フィンガーズ”の一員となり、新たな世界の扉を開くことになる。

©2025 Number Three Pictures, MI Corp
原作漫画から忠実に再現された“スピリット・フィンガーズ”たち
本作の原作は、LINEマンガでも配信されている韓国の大人気漫画。このドラマはそのイメージが完璧すぎるほどに再現されているのが特徴だ。主人公ウヨンを演じるのは、新鋭パク・ジフ。最近は『四季の春~恋をめぐる僕らの季節~』では目を引くヒロインを演じていたが、本作では正反対とも言える役柄に。すっぴんに近いメイクとシンプルな服装に加え、仕草も想像していた通りに再現されている。
実際に漫画を読んでいる中で、実写化する上で何より難しそうだなと感じたのは、個性あふれる“スピリット・フィンガーズ”のメンバーたちだ。ウヨンが街中で見つけた、不思議な格好をしていた女性は“ミントフィンガー”グリン(パク・ユナ)。この集まりを始めたリーダー的存在であり、名前の通りミント色の髪の毛とモデルのようにスラッとしたスタイルの持ち主だ。ウヨンに声をかけた“ブルーフィンガー”ソノ(チェ・ボミン)は落ち着いた雰囲気のある好青年。

©2025 Number Three Pictures, MI Corp
そのほか、強い存在感のある“ピンクフィンガー”(クァン・ソヒョン)、独自の世界観を持つ“ブラックフィンガー”(キム・スルギ)、秘めた感情を抱える“カーキフィンガー”(イ・ジニョク)、大人な優しさで包まれている“ブラウンフィンガー”(イム・チョルス)がいる。髪型から衣装まで違和感なく実写化されていて、後で思い返してみると漫画で読んだのか、それともドラマで観たシーンだったのかわからなくなるほど、脳内で同じものとして変換されているから不思議だ。多様な年代・性格の人々が一堂に会して絵を描くという目的に、一緒に挑む彼らの生き生きした姿には羨ましさを感じずにはいられない。
また、なんといってもこの作品のコミカルさを高めてくれているのは、のちに“レッドフィンガー”として加入することになるグリンの弟・ギジョン(チョ・ジュニョン)だ。ウヨンとは偶然の出会いを経て再会するなど何かと縁があるようで、次第に距離を縮めていく。アルバイトでモデルをするほど容姿端麗であるが、お腹が弱くよくトイレにこもっていたり、言語力が乏しかったりとクスッと笑える部分もあって、王道少女漫画の“王子様”とはかけ離れたようなそのキャラクターがクセになる。ギャグシーンと言えばいいだろうか……変顔をするシーンは漫画ならではの表現ではあるが、ドラマでも完璧に再現されていて、元々SMエンタテインメントの練習生として注目を集めたチョ・ジュニョンの可能性を広げた役柄になったとも言える。

©2025 Number Three Pictures, MI Corp
各キャラの「不器用さ」が物語の魅力に!
本作は純粋に人と人の温かな縁や、一筋縄ではいかない恋愛模様を描いているが、その中でも注目したいのはそれぞれが抱える「不器用さ」。
先述の通りウヨンは、自分が思っていることを言えずに相手に遠慮してしまう性格だ。言葉を飲み込んでしまうことで、後で「ああすればよかった」と後悔することも多い。しかしそんな性格も“スピリット・フィンガーズ”のおかげで変化していく。筆者はウヨンのちょっぴり内弁慶な一面に共感できるところがあったからこそ、彼女の成長やドキドキの恋愛模様、親に立ち向かう姿を応援せずにはいられなかった。
一方でギジョンは、自分の思いをしっかり伝えられないところがある。ウヨンと仲良くしたい気持ちがなぜか彼女を怒らせ、ウヨンへの好意に気づいた次の瞬間には「俺を好きになれ」「結婚してくれ」と飛躍しすぎた命令口調で言ってしまい、からかっていると思われる始末。気持ちはまっすぐでわかりやすいのに、それ故に空回りしてしまう。しかしながら、ストレートに伝えた言葉がウヨンを強くした一面もある。ウヨンとは正反対な性格だが、だからこそパズルのピースがはまるように、お互いを補い合うようになっていくのだ。すれ違いをきっかけに、自分と向き合い、今の気持ちをぶつけ合う。二人の取り繕わない関係性がそれぞれを成長させる。

©2025 Number Three Pictures, MI Corp
さらに、同じ大学に通うグリンとソノの関係性も「不器用さ」が弊害になっている。ソノはまっすぐにグリンを見ているのに、グリンはソノとの友情を壊したくないという気持ちがある。それでも自然とソノのことで頭がいっぱいになってしまう。それが恋なのだと気づくまで、かなり遠回りをするグリンの姿にはやきもきするが、その一筋縄ではいかない様子はリアルな恋愛にも通ずるところもあって、共感する人も多いのではないだろうか。
ウヨンを取り巻く恋のライバルや何でも言い合える親友たちとの友情、ウヨンと家族の複雑な関係性も色濃く描き出される本作。一見、キラキラした夢のような物語でありながら、子供から大人になる過程にある感情の揺れ動きが随所に描かれるため、懐かしさや親しみやすさも感じることができるはずだ。ドラマ化にあたって脚色された点や物語が前後する点は多少あるが、高い再限度を味わうためにも原作漫画と一緒に視聴することをお勧めしたい。
(文/伊藤万弥乃)
『スピリット・フィンガーズ』配信情報
『スピリット・フィンガーズ』はLeminoで独占配信中。本日16:00に第11話と最終話となる第12話が追加される。
\新規は初月無料/







