強烈な視覚映像や、刺激で興奮させ感情を揺さぶるのではなく、紡がれる言葉や叙情的な雰囲気がゆっくりと心に沁み込んでいく――。『愛だと言って』はそんな作品だ。
キム・ヨングァンとイ・ソンギョンW主演の『愛だと言って』
本作で、W主演のキム・ヨングァンとイ・ソンギョンは、モデル出身の華やかな美男美女カップルだ。キム・ヨングァンは、これまでのカッコよさと可愛らしさを併せ持つキャラクターから一変、Netflix『サムバディ』の殺人犯役で、新たな顔を見せたのが記憶に新しい。本作では、恋人に裏切られた過去を持つハン・ドンジンを演じる。
一方のイ・ソンギョンは、公式インスタグラムのフォロワー数が1400万人超(※2023年3月31日現在)という圧倒的な人気を誇る。本作では、同じく心に深い傷を持つシム・ウジュを演じる。
ドンジンも、ウジュも同じく“愛する人の浮気“という強烈な裏切りにより、心を閉ざして生きている。主演二人について、イ・グァンヨン監督は「ビジュアル的に完璧な組み合わせです。力を抜いて派手ではないように演技してほしいと言ったものの、二人があまりにも華やかで、どう見えるか心配だったが、現場に現れたキム・ヨングァンとイ・ソンギョンは“ごく普通の人”でした」とインタビューで述べている。
『愛だと言って』前半総括(第1話~第8話)
2月22日(水)よりDisney+スターで配信中の本作は、「出会ってはいけないふたりが出会ってしまい、惹かれ合う」ロマンスだ。ここでは、前半の内容を総括する。
ある日、ウジュが学生時代の友人で、薬剤師のユン・ジュン(ソンジュン)と飲んでいると、なんだかイヤな予感が。「不吉なことが起きる気がする」と話すウジュに、13年間連絡を絶っていた父の訃報が届く。ウジュの父シム・チョルミン(アン・ネサン)は、浮気をして家を出ていったのだ。ウジュは、父チョルミンを奪った女であるマ・ヒジャ(ナム・ギエ)を恨みながら生きてきた。
ウジュは葬儀場へ派手な身なりで出かけて行き、ヒジャとひと悶着を起こす。そして、ヒジャから、チョルミン亡き後、ウジュたち姉弟が住む家が、ヒジャの手に渡ったと知らされ愕然とする。家から追い出されたウジュと、姉シム・ヘソン(キム・イェウォン)、弟のシム・ジグ(チャン・ソンボム)。行き場のなくなった三姉弟は、ジュンのもとに身を寄せることに。
一方、ドンジンは、チェソン展覧の社長として、傾いた会社の資金繰りに追われていた。そんな中、ドンジンは、葬儀場に向かうが、そこには母ヒジャの姿が。ウジュが葬儀場の外で慟哭する声を耳にしたような気がするドンジン。金策に困るドンジンに、ヒジャはウジュたちから奪った家を売ったお金を振り込むのだった。
叔母から、自分たちの家を売ったお金がドンジンに渡ったことを聞かされたウジュは衝撃を受ける。ドンジンの名刺を手に入れたウジュは、復讐するためにドンジンの会社で働くことに。チェソン展覧で契約社員として働くウジュは、ドンジンに対しても他の社員に対しても素っ気ない態度をとる。なんとかドンジンを破滅させたいウジュは、ドンジンを尾行するがバレてしまう。
そんなある日、社内の機密情報が漏洩し、その犯人としてスパイ扱いされてしまうウジュ。ドンジンは、尾行のこともありウジュに不信感をもっており、解雇することに。しかし、ウジュは「何年も一緒に働いた部下に裏切られるより、バイトに裏切られる方がマシだもの、情けないですね」と言い放つ。その言葉を聞いたドンジンは、会社の駐車場の監視カメラを調べることにする。
ドンジンへの復讐に駆られるウジュが、スパイ扱いされた悔しさから酔ってドンジンに突っかかるシーンでの、二人の表情演技がいい。怪しむドンジンが、ウジュの言葉を聞くうちに、心を動かされていく。感情の移り変わりを繊細に表現するキム・ヨングァンと、イ・ソンギョンから目が離せなくなる。
第1話、第2話では、死んだ魚のような、怒り以外には何も映っていないような瞳をするウジュをイ・ソンギョンが持ち前の華やかさを封印して演じており、『マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~』のIU=イ・ジウンを思い出させる。映像も、どこかくすんだような曇り空のような色調で、ドンジンとウジュの心象風景を彷彿させるような演出だ。
続く、第3話、第4話では、ライバル会社であるシヌ展覧が、ドンジンをつぶそうとウジュに近づいてくる。ドンジンは、社内スパイの真犯人が誰かを突き止め、ウジュを復職させる。そして、ウジュにスパイを監視し、動向を報告するように伝える。しかし、ウジュはドンジンを追い込むために、スパイにすべてを報告し、会社を本気でつぶすようにけしかける。
一方、ドンジンの元恋人であるカン・ミニョン(アン・ヒヨン)は、ドンジンへの未練が捨てられず、彼の向かいの部屋に越してくる。ミニョンは、ドンジンのためにライバル会社シヌ展覧の社長に近づき、投資話を持ちかける。シヌ展覧は、ウジュの情報のおかげで、ドンジンをどんどん追い込んでいき、会社は倒産の危機に陥る。
第1話~第8話で、ウジュの復讐の思惑通りに、事が運んでいく中で、ウジュの姉ヘソンと、弟ジグは、ドンジンの正体を知らずに、接点を持ち好感を持つ。近づいていくヘソンとジグは、暗い目をしたウジュと違い、過去に囚われていないように見える。しかし、ヘソンは男性を見る目がなく、付き合う相手はダメンズばかり。ジグは、公務員予備校生ながら、音楽への情熱が諦められずにいる。そして、そんな三姉弟のそれぞれの良き相談相手となっているのがウジュの友人であるジュン。彼らのやり取りに癒されている人も多いのではないだろうか。
話が進むにつれて、ジュンの置かれている立場も明らかになってくる。独身主義者というジュンだが、両親からはお見合いをせかされ、ヘソンに代打で彼女のフリをしてもらうなど、彼自身も訳ありのようだ。ジュンのウジュへの態度を見ていると、ウジュのことが好きなように見えるが、ここから後半にかけて、ジュンが2番手男子として、ドンジンに嫉妬したり、二人が競うこともあるのだろうか。
物語は、ゆっくりと展開していき、ウジュとドンジンの心情を丁寧に描いている。ウジュが、ドンジンへの怒りに駆られる序盤から、ドンジンの抱える孤独や、過去の裏切り、母ヒジャとは違う優しい性質にふれるうちに、ゆっくりと彼女の中で変化が起きている。ドンジンも、最初は不信感を持っていたウジュに対し、人となりを知るにつれ、放つ言葉や、行動に癒され始める。そして、互いに好感を持っていることを認めるところまでやって来た。
スピーディーな展開ではなく、つまずいて抱きつくシーンや、アクシデントキスもない。だけれども、ドンジンとウジュの硬く強張った表情や、声のトーンに繊細な変化が起こり、恋の化学反応が起こりはじめたのを観るのはたまらない。互いを想う気持ちにそれぞれが気づいたシーンでは、ときめいた人も多いだろう。
二人の気持ちが盛り上がるにつれ、最大の障壁である、関係がいつバレるのかヒヤヒヤする。悲しみを乗り越え、ドンジンとウジュの満面の笑顔の花が、満開に咲くのを楽しみにしている。
参考:イ・グァンヨン監督談(https://n.news.naver.com/entertain/now/article/408/0000173885)
(文/にこ)
『愛だと言って』配信情報
韓国ドラマ『愛だと言って』はDisney+(ディズニープラス)にて独占配信中。毎週水曜日に新エピソードを配信。
Photo:『愛だと言って』© 2023 Disney and its related entities