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なぜ、マーベル・スタジオの実写作品の《ユニバース化》は成功し続けているのか!?〈後編〉

(※注意:このコラムの文中のキャラクターの名称や、監督名・俳優名・女優名などは、原語または米語の発音に近いカタカナ表記で書かせて頂いています)

1本であってもヒットさせ、ハイリターンを得ることが至難の業である映画業界において、2008年からの10年間に17本の映画をリリースし、批評家・ファンの双方から高い支持を獲得しているマーベル・スタジオ(MARVEL STUDIOS)。映画一本一本を積み重ね、それらを緻密に絡め合わせた「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」という壮大な映像世界を構成する、他に例を見ないほど巨大なスケールの試みが成功し続けている理由に迫る集中連載。最後となる3回目は、制作現場における知られざる一貫性、業界の変革がもたらすMCUの変化について。

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【関連記事】コラム前編中編はこちら!

6:ユニバースにある、知られざる一貫性

通常の映画作りでは、プロデューサーと監督が変われば、共に働くスタッフの面々も変わってくる。

しかし、マーベル・スタジオのトップであるケヴィン・ファイギがすべての作品を統括するMCUでは、複数作品を手掛けている顕著な部門担当者がいる

それは、作品の核とも言えるキャラクターたちを輝かせるコスチューム・デザイン

MCU4作目の『マイティ・ソー』から、『アベンジャーズ』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』『ドクター・ストレンジ』を担当したのは、アレクサンドラ・バーンだ。
映画『エリザベス』『エリザベス:ゴールデン・エイジ』などでアカデミー賞ノミネート複数回、受賞も1度果たしている。女王の品格を圧倒的なディテールの美で表現した彼女が、アスガルドの王位を継承するソーや、至高の魔術師ストレンジたちの格調高さを打ち出す際に抜擢されたのは非常に頷ける。
この抜擢が、ユニバース全体の映画界でのステータスを数段上げ、もはや単なるコミック映画の枠を超えさせたのは間違いない。

そして、そこからユニバースの全体のクライマックスに向け、危機的なリアリティを醸し出す衣装をデザインするのはジュディアナ・マコフスキー(『ハリー・ポッターと賢者の石』『X-MEN:ファイナル ディシジョン』『ハンガー・ゲーム』)。
MCUで担当しているのは、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』そして『アベンジャーズ』4作目。すべてのアンソニー&ジョー・ルッソ監督作で起用された(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』のみジェームズ・ガン監督作)マコフスキーもまた、アカデミー賞の複数回ノミネート者なのだ。

MCUのコスチューム・デザインは非常に奥深く、例えば、一人のキャラクターの衣装の転換と進化に注目し続けただけでも、世界観全体の面白さが増す。

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マーベル最初のアベンジャーであるキャプテン・アメリカ。1作目(MCU第5作)である『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』の衣装は、アナ・B・シェパード(『イングロリアス・バスターズ』や『マレフィセント』で、戦争モノでもファンタジーでも際立った手腕を見せた)が担当。彼女は、古き良き原作のコミックのままの、戦時国債の宣伝ポスターに描かれたキャップの切ない姿から、終盤の戦闘シーンでは機能の向上したスーツまでを具現化した。ルックスもこの1作目の中でかなりの格好良さまでに進化している

しかしここから、『アベンジャーズ』を担当したアレクサンドラ・バーンは、そのキャップの格好良さを一旦リセットする
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もう一度、昔の良さ、レトロ的な良さをあえて現代に登場させるデザインにアレンジしたのだ。この大胆なアレンジを脚本に組み込んでいたプロデューサー(ケヴィン・ファイギら)や監督(ジョス・ウィードン)の構想と計算には唸らされる。
一旦、あえて原点に戻したことで、キャプテン・アメリカの衣装はユニバースののちの展開で続いていく彼の冒険に合わせ、再び進化を遂げることができたからだ。

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そしてジュディアナ・マコフスキーは『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』で、キャップの戦闘スーツやモーターサイクル用ジャケット、S.H.I.E.L.D.のエージェントたちのユニフォームなどに、「現代のワシントンD.C.にS.H.I.E.L.D.本部がある設定」を観客に信じさせるために、非常に渋めの現実的な色と素材を活かしたデザインを施している。政治&スパイ・スリラーの重厚さを生み出すために、ファイギやルッソ兄弟監督との話し合いを重ね、過去のMCU映画などの流れも学んだ上で進化させた。
しかし、まずこの仕事の初日に向き合ったのは、製作サイドから渡された原作コミックの束だったという。物語は進展していっても、原作コミックにある画の基本イメージは随所に息づいているのだ。

そしてさらにマーベル・シネマティック・ユニバースには、あまりメディアでは触れられることのない、知られざる《勝利の方程式》と呼んでもいい事実がある

それは、このユニバースのキャスティング担当が、たった一人に委ねられていることサラ・ハリー・フィン(『クラッシュ』『ゴジラ』『キック・アス』)がこれまでのMCU17作品のうち、『インクレディブル・ハルク』を除く16本を手掛けてきたのだ。

普通は、監督それぞれのお気に入りで何度も一緒に働いているようなキャスティング担当者が居るものだ。
しかしMCUの既存の16作品だけでなく、(現時点で)2019年全米公開予定の『キャプテン・マーベル』に至るまで、監督には様々な人材が起用されているにもかかわらず、キャスティングでは一人の担当者の洞察力が10年間以上ずっと活かされている。
これは常識破りの異例の制作プロセスであり、おそらく他のシリーズモノの映画にはない、初のスケールの試みだろう。

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実はMCUとして展開しているテレビドラマのユニバースの中でも、『エージェント・オブ・シールド』と『エージェント・カーター』のキャスティングは、サラ・ハリー・フィンと彼女のチームが手掛けている。『エージェント・オブ・シールド』ではニック・フューリー、マリア・ヒル(コビー・スマルダーズ)、レディ・シフ(ジェイミー・アレクサンダー)らが登場したクロスオーバー・エピソードが何本かあり、『エージェント・カーター』では『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』に続けてペギー・カーター(ヘイリー・アトウェル)、若きハワード・スターク(ドミニク・クーパー)が姿を見せた。さらに、前述したマーベル・ワンショットの短編映画5作品もサラの手によるものだ。
※マーベル・スタジオ=映画部門と、マーベル・テレビジョン=テレビ部門(テレビ・ユニバースはプロデューサー陣が異なる)が頻繁に"つながる"ことは、製作上の理由やスケジュール上の理由から障壁も多いはずだが、時にはクロスオーバーを見たいのがファン心。今後も作品群がつながるカギを握るのは、縁の下でユニバースを支えるサラ・フィン・カンパニーのチームかもしれない。

主演級の抜擢はもちろんプロデューサーや監督の意向が第一だが、助演やそれ以外のあらゆる役柄については、キャスティング・ディレクターが数百から数千人にものぼる俳優たちをオーディションで絞り込み、選び抜かれた何人かの才能たちをプロデューサーや監督たちに推薦し、時には自らのチョイスを提案する立場にある。
一人のキャスティング担当の目線で見抜いた資質が、作品全体のトーンや色に影響を及ぼし得るため、非常に重要なポジションの職務なのだ。

20180118_marvel_05.jpg【関連記事】俳優たちと作品の命運を握る、重要なポジション。キャスティング・ディレクターという「仕事」〈前編〉

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズなどのヒットで今や押しも押されぬハリウッドのスターの座に上り詰めたクリス・プラットだが、MCUに参加する前はマイナー俳優だった彼をサラが強く推薦し続けて監督を納得させたというのは有名な話である。

サラ自身が、オーディションの過程でも非常に朗らかで、その天性の明るさはMCUの演技者たちのそれに通ずるものがあると感じられる。「マーベル・スタジオ製作の作品群(主に映画部門)」のほぼ全体に流れる軽やかで爽快なトーンを形成してきた"血筋"は、決して俳優や監督だけのものでなく、サラ・ハリー・フィンと一貫してタッグを組んできたケヴィン・ファイギらの揺るぎない信念とヴィジョンが生んだものでもあるのだ。


7:スーパーヒーローに求められるものとは?

2017年12月、世界中の映画人・ドラマ人、そしてファンを驚かせるニュースが駆け巡った。
ディズニーの魔法の王国が、20世紀FOXのエンターテイメント部門のコンテンツを買収するという、数兆円規模の大変換の発表だった。
アメコミや映画のファンたちは様々な憶測を抱き、反応は割れた。『X-メン』や『ファンタスティック・フォー』の映画化権がディズニー傘下のマーベル・スタジオに戻ってくる!という歓喜の声もあれば、『デッドプール』や『ローガン』で成功を収めたばかりのR指定作品の扱いはどうなるのか?様々なスタイルの映画やドラマが、ディズニー色に染められてしまうことはないのか?という懸念の声も多数聞かれる。
しかしその後のディズニー幹部からのコメントによれば、「R指定」の作風を排除することはないということから、ディズニー傘下におけるマーベル作品のバリエーションは、ここからさらに増していくだろう。

Netflixの人気オリジナルコンテンツであるマーベルのドラマシリーズ(マーベル・テレビジョンのジェフ・ローブが製作を指揮する『デアデビル』『ジェシカ・ジョーンズ』『ディフェンダーズ』『パニッシャー』他)が、このままNetflixで配信され続けるのか、あるいは将来的にディズニーが計画している配信サービスに移行する可能性があるのか、その判断は大変気になるところだが、完全大人向けのバイオレンスや性描写を含んだ鮮烈な作風で支持層を拡大させてきたことから、今後も「R指定」水準のドラマシリーズをさらに展開してくれることを期待したい。

マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギも、R指定のMCU映画を作ることに対してはオープンな姿勢をこのところ示している。

20世紀FOXがこれまで所有していたマーベル・キャラクターたちについても(ファイギは近年SONYピクチャーズと電撃的に提携し、『スパイダーマン:ホームカミング』という興行的・内容的な成功を手堅く収めた前例を作っただけに)、やがて絶妙なバランス感覚でMCUに参戦させていくことは想像に難くない。

そんなMCUは『アベンジャーズ』4作目(第3フェーズの終焉)以降、一変する!!と、ファイギはメディアに語ってきた。2028年までの道筋や、今後20作品のプランがすでにあるとも伝えられている。
『X-メン』や『ファンタスティック・フォー』のマーベル本陣への帰還についても、コミック原作者スタン・リー御大も昨年9月の時点で示唆していた。今回の巨大な買収劇は、突然に湧き出た話ではないはず...だとすれば、将来の"20作品"の計画は、すでにX-メンのミュータントたちが登場する前提で、着々と練られているのかもしれない。

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ファイギが、最近の雑誌インタビューで「ユニバース化を展開させる」ことについて、シンプルかつ大切なポイントを述べているので引用したい。

Make that movie work. The notion of sitting down going, "Let's build a cinematic universe,"might be a little off. "Let's sit down and make a great movie and if people are interested in that, there are ways and ideas to tie them together going forward."

まず、映画を機能させること。最初から「映画作品群のユニバースを築こう!」という前提で取りかかるのは無理がある。「腰を据えて1本の素晴らしい映画を創る。人々がそこに興味を抱いてくれたら、様々なやり方やアイデアを束ねて進める可能性が生まれる」

彼の言葉は、本コラムの冒頭に書いた"映画に与えられた命題"に重なる。

「誰も気にかけていなかったキャラクターのことを、観客たちが気にかけるようになる」

まずその命題に全力を注ぎ、その上で、マーベル・スタジオの製作陣は、その各キャラクターたちが絡み合い集結するユニバースを組み立ててきたのだ。最初から世界観全体の確固とした設計図があったわけではない。
1本の作品にこだわる、映画人らしい言葉である。


もう一つ、『アントマン』の宣伝キャンペーンの際に、このユニバースに配役する人物観について語った印象深い言葉がある。

A very high bar has been set with Robert Downey in Iron Man. That idea was, find the best actor for the part, regardless of whether they've been in a movie like this before.
Great actors, charismatic actors, who can connect to the audience on a deeply emotional and on an entertaining, charismatic level and also be able to pull off the action and look cool in a suit -- the inherent likability you can't train for.

『アイアンマン』でのロバート・ダウニー(の功績)によって、求められる基準が非常に高まった。こういう(ヒーロー)映画に出た経験があるかどうかは関係なく、その役に合うベストの俳優を見つけ出すということ。
素晴らしく、惹き付ける俳優で、深い感情/楽しませる力/カリスマ性を持ったレベルで観客とつながることができ、そして、アクションもこなし得る能力を持ち、スーツ(アーマー)を身につけた際にクールに映る...生来持っている好感度を持ち合わせている。

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「生来持っている好感度=好まれる資質」

このハードルは高い。

「likability」とは、演技教育で学べるものではない、技術以上のものだ

しかしこの選択眼による見極めが、世界の映画ファン、俳優ファン、コミックファンたちを継続して惹きつけている。
今後もこの基本ラインは貫かれていくだろう。

ここから、このユニバースはどこまで洗練さを増し、どんなキャラクターを新たに映画ファンに紹介し、どれほどの新たなスター俳優たちを誕生させるのか?
現ユニバースの終着点となるであろう『アベンジャーズ』4作目の次には、一体どのような新たな世界が広がっていくのか? そのステージで主軸になるのは誰か?
『アベンジャーズ』VS『X-メン』のようなコミックで起きているビッグイベントを、実写でもいつの日か見せてくれるのか...?

期待は膨らみ続ける。

でもきっと、注視すべきは、ケヴィン・ファイギと彼のスタッフ、そしてキャストたちが紡いで見せてくれる、

「次の1本の映画」

なのだろう。

その"1本"の成功が、ユニバースを織り成す1ピースとなるのだから。

Photo:
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』 (C) 2016 MARVEL
キャプテン・アメリカ (C) FAMOUS
『アベンジャーズ』 (C) FAMOUS
『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』 (C) 2014 Marvel
『エージェント・カーター』 (c) 2014 ABC Studios & Marvel
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』 (C) 2014 MARVEL
ロバート・ダウニー・Jr (C) JMVM/FAMOUS

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ライタープロフィール

尾崎英二郎
尾崎英二郎

リアリズムを追求する米国の演技手法を日本で学び、NHK『あぐり』でTVデビュー。

99年のNYオフ・ブロードウェイ公演『ザ・ウインズ・オブ・ゴッド』で現地メディア批評家に演技を称賛され、その後アメリカの映画/TV業界を目指す。03年、侍のアクションメンバーとして出演した『ラストサムライ』をきっかけに人脈を広げた。

06年に主要キャストとして日本から抜擢された『硫黄島からの手紙』でハリウッドへの扉をこじ開け、ついに念願の本格渡米を実現。

米TVシリーズ『TOUCH/タッチ』『フラッシュフォワード』『HEROES/ヒーローズ』など、自らの出演体験をもとに、ハリウッドのシステムの凄みを伝える。

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