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『クロッシング・ライン』ICC特別捜査チームのような"国際警察"は実在するの?

●捜査できないユーロポールが《ICCチーム》を生んだ?

「ヨーロッパ版FBI」をイメージして作られたユーロポールだが、FBIのように事件を捜査したり、容疑者を逮捕したりする権限はない。インターポールにも警察権はなく、職員にも「インターポール捜査官」「ユーロポールの警察官」という立場の人間はいない。

越境犯罪の解決に各国の警察・検察の協力は必要不可欠。
でも、警察・司法権はその国の主権に関わる重要事項なので、自国の警察は他国で警察権を行使できない。かといってインターポールやユーロポールが代わりに外国で捜査してくれるわけでもない。機構は支援・調整役で、あくまで捜査するのはその国の捜査機関だけ。

クロッシング・ライン』でICCの特別捜査チームが結成された背景には、この微妙な問題がある。

1993年、マーストリヒト条約の発効で誕生したEU
国境緩和で人や物の移動が自由になったが、「人」の中には犯罪者もいるし、「物」には麻薬や盗品、ときには人身売買の対象となった人間が含まれることも。越境のハードルが下がって移民問題も深刻化。犯罪者の逃亡は容易になり、犯罪の内容も巧妙化・凶悪化、犯罪に巻き込まれる危険性も高まった。

ユーロポールはこうした状況に対応すべく設立されたはずが、情報はあっても実質的な権限がなく、一刻も早い解決が求められる越境犯罪の捜査もできない。ユーロポールにいた(という設定の)ルイもきっと歯がゆい思いをしていたはず。
そこで必要とされたのが、国境を越えて捜査できる権限を持つ特別な警察組織=ICC特別捜査班だった。
ルイの「ユーロポール時代のジレンマ」がチームの設立を後押ししたともいえそうだ。

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●越境犯罪に立ち向かうEUの取り組み

EUには、ユーロポールのほかにも独自の制度が。

《欧州共通逮捕状(EAW)》は、犯罪者の逃げ場をなくし、EU域内における容疑者の身柄引渡しをシンプルにするために導入された制度。逮捕の根拠を相手国に十分に示さなくても引渡し要求ができる。

刑法や警察・司法の仕組みは国ごとに違う。
ある行為がA国では犯罪でも、B国では罪にならないことも。
A国で罪にあたる行為をした人物がB国に逃げても「B国内では違法行為でない」とか、A国で死刑になる可能性がある場合などは「人道的観点から」応じないケースも。自国民を容疑者として他国に引き渡すか否かはその国次第。
しかし、A国の法に基づいて発布された欧州共通逮捕状は、他の加盟国でも有効。容疑者の逃亡先(B国)の警察がA国の代わりに犯人を逮捕することができる。

・・・とはいえ、全ての引渡しが認められるわけではなく、逮捕が違法だとして釈放されることもある。全加盟国で考えが一致しているとは言えず、《欧州共通逮捕状》=ワイルドカードにはなっていないよう。
前述のアサンジ氏も、スウェーデンが発布した欧州共通逮捕状とICPOの国際手配により、イギリスで逮捕された。スウェーデン当局は引渡しを求め、イギリス側も移送を決定したが、保釈中にエクアドル大使館で政治亡命を申請したため、いまだ身柄の引渡しは実現していない。


2002年に発足した《ユーロジャスト(欧州司法機構/欧州検察機構)》は、加盟国の司法(検察)当局が越境犯罪を訴追するための捜査や手続きを行う際、当事国の司法機関を支援したり相互協力を推進したりする組織。
各加盟国が任命した検察官・裁判官・警察職員(や、彼らと同等の権限を持つ代表者)で構成され、犯人の身柄引渡しや組織犯罪の捜査・起訴にあたり、当局間の調整などを行う。いわば「ユーロポールの検察版」。
本部はオランダのハーグで、実は国際刑事裁判所と同じビルの中にある。ついでに言うと、ユーロポールへは車で20分ほどの距離。

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●ICCチームとの類似点

ユーロポールとユーロジャストの関係は、ICC特別捜査チームと国際刑事裁判所のそれに似ている。
だが、前者が直接の捜査・逮捕・訴追をせず、あくまで各国当局の支援にとどまるのに対し、後者の設定は実際に捜査・逮捕し訴追できるという違いが。
刑事事件の捜査や逮捕・訴追に直接関わるという点で、どちらかというとFBIと連邦検察の関係に近い。

本作の中で描かれるICCチームと各国警察の「なんとなくギクシャクした雰囲気」も、FBIと地元警察の関係を思わせる。
製作総指揮のエドワード・アレン・バーネロは、業界に入る前、地元シカゴで警察官として10年間勤務していた。犯罪捜査モノでよくある「乗り込んできたFBIと地元警察の間の不協和音」。もしかするとエドワード自身も警官時代に経験したことがあったかも!?


イタリアからチームに参加しているエヴァは第1話で、ICC特別捜査班を「いずれ必要なくなるかも」と言った。
実際、ユーロポールの権限を拡大すべきとの意見も出ていて、本格的に「ヨーロッパ版FBI」となる日が来る可能性も。

ただ、「自国内における警察権の行使」という重要な国家主権の問題でもあり、主権侵害になる懸念が。
それに、制度を変えるには加盟国全ての批准が必要。ユーロポールは、93年の草案作成から全加盟国の批准を経て実働までに5年もかかった。
現実世界で《ICC特別捜査チーム》のような、本当の意味での「国際警察」が生まれるまでにはまだ時間がかかりそうだ。


DVDリリース情報
『クロッシング・ライン』シーズン1 発売中
5枚組 全10話 12,000円+税
『クロッシング・ライン』シーズン2 発売中
6枚組 全12話 14,400円+税

Photo:『クロッシング・ライン』
(C)2013 Tandem Productions GmbH, TF1 Production SAS All rights reserved.
(C)2014 Tandem Productions GmbH, TF1 Production SAS All rights reserved.

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ライタープロフィール

平口雅世
平口雅世

テレビ・ラジオといったメディアをはじめ、インターネットサイトや紙媒体でも活動する“海ドラマニア”放送作家。自らが得意とする海外テレビシリーズ・映画のほか、旅行・スポーツ・美容・健康・報道系・・・と、幅広いジャンルの番組&コンテンツを担当・執筆。

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