レッドカーペットは、映画とスターたちの分刻みの戦場だ!<第85回アカデミー賞授賞式レポート・後編>

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20130304_c01.jpg本年度のレッドカーペットも、当然ながら非常に豪華なムードが溢れました。
往年の名作の衣装のデザイン画が等身大に飾られた通路は華やかで、天気も快晴!! 絶好の祭典日和でした。

スターたちが到着する前に、まず各国からの報道陣やカーペットの観客に受賞予想を聞くというインタビューを行い、午後(日本時間朝7時すぎ)には、なんと、今回初めてめざましテレビ(CX系列)にもライヴで中野美奈子さんと一緒に登場させて頂き、現地の興奮や受賞予想をお伝えしました。

スターたちが到着し、レッドカーペットに姿を見せるのは、午後2時から5時までの3時間なのですが、あいにく今年は始めの1時間のスターたちの出だしが遅く、後半が登場ラッシュとなってしまいました。
昨年、一昨年は、ほぼまんべんなく各部門毎、順番に報道陣の前に出て来てくれたのですが、今年は人気スターや大御所たちが一気に最後の1時間前後に流れ込み 、まさに「戦場!!」でした。

ネット上ではよく、
「スターに日本のカメラの前を素通りされているのでは!?」
という見方や、
「スターを眺め過ぎ(もっと積極的に声をかけるべき)」
というご指摘がちらほらありますが、

実際に僕らが置かれている状況は、かなり違います。

ほとんどの場合、
目の前を通る前に、パブリシスト(スターたちの広報担当者)たちと僕らは瞬時に下交渉をし、断られた場合、どうしてもそのスターに顔を向けて欲しい時にだけ、ダメもとで大声で呼びかけているのです。

それから主要なプレゼンターたちの場合は、別の導線もあり、報道陣のインタビューには応えないことが多々あります。
プレゼンターや、その年の花形ノミネート者は、まず授賞式を放送するABC局のTVインタビューを優先して動きます。
スターたちは、広報担当者の指示に従って足を進め、時には申し訳ない思いを持ちつつ、先を急いでいるのです。
まさに分刻み、秒刻みのスケジュールが彼らにはあり、その上で、僕ら報道陣と向き合っています。

「質問は1つだけよ!」

「1分だけだ」

と、真顔で言ってくる、"鉄壁"の広報担当者との交渉を巧く進めるのが、腕の見せ所なのです。

レッドカーペットの花道は、数百人(幸運な当選者たち)のギャラリーの大歓声で、驚くほどの騒ぎです。
僕らのすぐ右にはエンターテインメント・チャンネル『E!』、左には『TV GUIDE』 という米国主要TV局のリポーターとスタッフたちがいて、すし詰め状態で並んでいました。
そこで次々と大声を上げてスターたちを呼び止めては、自らが"騒音"と化してしまうので、極力暗黙のルール通り、下交渉をした上で、下記に挙げるようなスターたちとのインタビューを成功させているのです。
『ABC』と『E!』には答えたのに、『TV GUIDE』には止まらなかった、なんていう展開さえあるんですよ。

そういう状況の中で、国外メディアの僕らが

20130302_c01.jpg『アルゴ』のジョージ・クルーニー(プロデューサー)、
アラン・ラーキン(助演男優賞ノミネート)、
『世界にひとつのプレイブック』のジェニファー・ローレンス(主演女優賞受賞)、
『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のアン・リー監督(監督賞受賞)、
『ジャンゴ 繋がれざる者』のクリストフ・ヴァルツ(助演男優賞受賞)、
『リンカーン』のトミー・リー・ジョーンズ(助演男優賞ノミネート)、
サリー・フィールド(助演女優賞ノミネート)、
そして日本でも人気絶大の『レ・ミゼラブル』から、
トム・フーパー監督、
ヒュー・ジャックマン(主演男優賞ノミネート)、
ミュージカルトリビュートにも出演したエディ・レッドメイン(マリウス役)、
サマンサ・バークス(エポニーヌ役)、
『ザ・マスター』のエイミー・アダムス(助演女優賞ノミネート)...
さらに授賞式プレゼンターからも、ジョセフ・ゴードン=レヴィットやマーク・ラファロ(『アベンジャーズ』ハルク役)といったスターたち他、今年も計20人近くにインタビューできたのは、かなり幸運な確率なのです。

他の海外各国メディアが並ぶレッドカーペットの後方では、まったく立ち止まってもらえないという状態が生まれているはずです。
※ ちなみに、授賞式のプレゼンターたちは、全員が必ずしもレッドカーペットに姿を見せるわけではありません。ノミネート者でさえ、公の場を嫌う人は出てこない場合もあります。

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20130302_c02.jpg残念ながら質問出来なかったスターで印象的だったのは、(昨年インタビューした)ジェシカ・チャステイン。彼女の輝きは今年は一段と増していました。
美しさが際立ったのは、シャーリーズ・セロン。『スノーホワイト』で見せた黒の羽に包まれた邪悪な魅力のドレスとは打って変わって、肩まで露出した真っ白のドレスと大胆なショートヘアには眼を奪われました。
身長がスラリと高く、注目の的でした。

本年度のメディアの人気が高く、足早に進む中、かろうじて呼びかけに手を挙げ応えてくれたのは『アルゴ』のベン・アフレック。
「Hi, Japan!」 と言うだけでしたが、"今年のいわば主役"である彼はそれほど時間に追われていたはずです。受賞時のスピーチでも、笑顔をほとんど見せず、もの凄い早口で急ぐように語っていたので、彼の性格なのでしょう。

一方、大御所のロバート・デ・ニーロは(『世界にひとつのプレイブック』で助演男優賞ノミネート)、広報担当者がインタビューを断ったのですが、僕らの呼びかけには笑顔でしっかり手を振ってくれたのです。ベテランの風格ですよね。学びたい点です。

そして、最も感動したのが、エマニュエル・リヴァ(『愛、アムール』で主演女優賞ノミネート)です。
彼女の取り巻きの女性は厳しい表情で、僕らの望みを遮ろうとしましたが、静かに懇願する僕らをエマニュエルは見て、立ち止まったのです。
そして、僕と中野さんに手を差し伸べ、"ゴメンなさいね..."という表情でじっと見つめ合ってくれたんです。
残念ながらこの時のやりとりは映像には残っていませんが、僕らの心には印象深く刻まれています。
こんなに優しい人だから、あんな繊細な演技が出来るんだな...と、確信する思いでした。
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さらに授賞式の放送を観ていて感じたことは、
『レ・ミゼラブル』の出演メンバーたちが、カーペット上で気さくに応えてくれた、そのすぐ2時間後くらいには、ステージ上で圧巻の歌声を披露したという現実。彼らの凄みです。演じる覚悟、本番への準備の自信、気迫のこもった歌声に、僕は胸を打たれたのかもしれません。

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ひとつ、我々中継チームにとって誇らしい出来事もありました。
カーペットに午後2時に本格的にスターらが登場するギリギリ直前に、アカデミー賞レッドカーペット公式の広報写真の担当者から直接要請があり、中野さんが報道陣のカメラの前のオフィシャル・スポットに被写体として立ったのです。スターたちが登場と同時にまずカメラの前に立つ、あの場所です。注目された中野さんの花を大きくモチーフにしたドレス姿は、CNNをはじめ、英国や世界中のウェブサイトに紹介されています。
あれだけの華やかな場、そして分刻みの場ですから、こんなことが常に起きるわけではありません。
映画の祝典と報道関係への、こうした形のひとつの日本の貢献も、日本国内のメディアや伝わって欲しいなぁ、と願っています。
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今年も、あの最高峰の場に果敢に挑みましたが、ここで肌で得た学びは、俳優として、忘れることはありません。
視聴者の皆さまにも、少しでも、一瞬でも、スターたちの人柄や撮影秘話が伝わったなら、嬉しい限りです。

たとえレッドカーペット上が慌ただしい展開になっても、もっと余裕を持ち、もっと精度の高い質問を臨機応変にぶつけ、なるほどと思わせる答えを引き出すことが、僕のさらなる課題です。

この場をお借りして、
本年度も『アカデミー賞受賞式&レッドカーペット中継』をライヴそして再放送で観て下さった皆さま、そして、観れなかったけれども応援し続けて下さった皆さまに、心の底から御礼を申し上げます。

本当に、本当に、ありがとうございました。
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ジョージ・クルーニー
(c)Ima Kuroda/www.HollywoodNewsWire.net
ジェシカ・チャスティン
(c)Izumi Hasegawa/www.HollywoodNewsWire.net
エマニュエル・リヴァ(映画『愛、アムール』より)
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※アカデミー賞授賞式会場の写真は尾崎さんによる撮影です。