あの頃、ボクらはイケメンだった ~テレビで活躍する80年代映画スターたち

かつてTVドラマ『24-TWENTY FOUR-』の主演について、映画俳優である父・ドナルド・サザーランドに相談した時、反対されたというキーファー・サザーランド。

俳優にとって大切なのは神秘性――一般人とは一線を画した非日常的な存在であるからこそ、客は映画館に足を運んでくれる。それがスター性であり、もし、お茶の間という日常に入りこんでしまったら、その神秘性は失われ、二度と映画には戻ってこられない...というのが、映画俳優の考え方だった。
だが、それも2000年、つまり15年前のお話。
今では、TVドラマも映画並みのクオリティを求められ、場合によっては有料の時代だ。しかもテレビだけでなく、動画配信などのニューメディアも登場している。
そこで重要になってくるのが、プレミア感!
有名監督や一流脚本家が手がけるドラマや、映画並みのVFXなど、さまざまな"売り"があるが、なかでもやっぱり強いのが、看板スターの存在だ。

特に注目したいのが、80年代青春映画スターたちの活躍ぶり。
『ザ・フォロイング』ケヴィン・ベーコンを始め、今年の新作にもジェームズ・スペイダー、クリスチャン・スレイターなど80年代にブレイクした俳優たちの主演作が登場している。『24』でTV進出へ新たな道を切り開いたキーファー・サザーランドも80年代青春映画スターの一人だ。どのような流れの中で映画スターたちはTVへと移動を開始していったのか。簡単にその背景に触れながら、懐かしき80年代映画スターの"今"をご紹介しよう。

■新世紀元年、映画からTVへ、才能の移動が開始!

80年代~90年代は、青春映画スターの全盛期。
華やかな"スターらしいスター"を多く輩出した最後の世代と言えるかもしれない。
しかし、『ディープ・インパクト』(1998年)、そして『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999年)など、視覚効果を駆使した作品の大ヒットで、ハリウッドはスターよりも視覚効果を重視するようになる。
映画界が21世紀の技術に浮足立ち、スター離れをする一方で、TV界でリアリティ番組が台頭し始めていた。このままでは「素人バラエティに食われてしまう!」という危機感を募らせていたドラマ界。そこでTVが求めたのが、すでに認知度が高く、実力も兼ね備えた俳優だった。そんな背景の中で誕生したTV界のカリスマが『24』のキーファー・サザーランドであり、『アリーmyラブ』で俳優復帰を果たしたロバート・ダウニー・Jrだった。二人は、青春映画で主演を張っていたスターだ。両者ともどん底の私生活から復帰するという話題性もあった。
ちなみに、この時期は既存のスターに頼るだけでなく、ジェームズ・キャメロン製作の『ダーク・エンジェル』が登場し、ジェシカ・アルバというニュー・ヒロインを誕生させるなど、新しいスターを生む努力もしていた。『フェリシティの青春』『エイリアス/2重スパイの女』でJ・J・エイブラムスが頭角を現してきたのもこの時期だ。
さらにHBOでは、『セックス・アンド・ザ・シティ』にて、青春映画など映画界で活躍していたサラ・ジェシカ・パーカーやキム・キャトラルを起用したほか、ミニシリーズというスケジュールの制約が緩いドラマでオスカー俳優たちを口説き落としていく。大きかったのは、アル・パチーノとメリル・ストリープという最強名優が、ドラマ『エンジェルス・イン・アメリカ』に出演したこと。その後、HBOのミニシリーズには、オスカー級の俳優たちが出演するようになり、さらにプレミア感が増していく。それと同時に、TV出演への偏見が徐々に薄れ、映画とTVの敷居が低くなっていった。

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■TVは新しい可能性を生む挑戦の場へ

80年代に活躍した俳優たちも、今はいい年齢に。キャリアも重ね、ガッツリ人間味あふれる役を演じたいお年頃になってきた。
しかし、現在の映画界はスティーヴン・スピルバーグが苦言を呈したように超大作にばかり頼りきっているのが現状。オスカーに輝く映画『リンカーン』のような作品でさえ、劇場公開ではなくTV用になるところだったという。超大作というとやはりアクション系が多くなる。ガッツリ人間ドラマを描く作品は、ますます製作が難しくなり、俳優たちが挑戦できる役柄も限られている。
一方、ドラマでは『MAD MEN』、『ブレイキング・バッド』、そして『HOMELAND』などむしろ本格ドラマが好調。映画では主演は張れなくなったが、知名度と実力を兼ね備えた80年代スターたちが魅力に感じるのも自然なことだろう。

では、今、TV界で活躍する80年代スターを"あの頃"の青春映画とともに紹介しよう。

◇ミステリアスを極めた男――ジェームズ・スペイダー

ジェームズ・スペイダーと言えば、大きな瞳――その眼力、ハンパない。
クールな容姿から、どこかつかみどころのないミステリアスな雰囲気なのが、彼の魅力でもある。いいヤツなのか、悪いヤツなのか、読めない少し影のある知的な容姿は、純愛の邪魔者にはぴったり。
優しげなアンドリュー・マッカーシーが、白馬の王子だとしたら、ジェームズは間違いなくダーク・ナイト。というわけで、『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』 (86年)、『マネキン』 (87年)、『レス・ザン・ゼロ』 (87年)などのアンドリュー主演の青春映画では、徹底的に"イヤな野郎"を演じてきた。

アンドリューが、"優しくていいヤツ"という二枚目路線から脱するのに苦戦した一方で、ジェームズは、ミステリアス路線を進化。『セックスと嘘とビデオテープ』(89年)では、その演技力が認められ、カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞する。
"目は口よりモノを言う"とは、まさにジェームズの演技のことだろう。その後、16歳年上の女性との恋愛を描いた『ぼくの美しい人だから』(90年)など、イケメン役を演じていくが、やっぱりジェームズの魅力は、単純な通り一辺倒の役柄ではなく、もっと複雑で"何を考えているのかわからないイケメン"......そして、巡り合ったのが、テレビシリーズ『ザ・プラクティス/ボストン弁護士ファイル』とスピンオフの主演ドラマ『ボストン・リーガル』だ。
知的、高慢、イヤなヤツ、でもたまにいいところもあり、実は正義感が強い、という人間的にクセのある弁護士を演じ、称賛を浴びる。『24』の影に隠れてしまったが、映画界から主演ドラマを大成功に導いた数少ない主演俳優だ。
今年は、『The Blacklist』で国際的な指名手配犯を演じる。 イケメン・ムードを封印して、スキンヘッドでイメージチェンジ。ギラギラと大きな目が不気味に光る...。何を考えているかわからない、彼の頭の中の構想こそが、本ドラマの最大の謎となる。まさに、ミステリアス演技の究極をいく役なのだ。

ちなみに、アンドリュー・マッカーシーも、たまにゲスト出演をしている。
『救命医ハンク セレブ診療ファイル』や『ゴシップガール』など、少し年はとったが、やはり昔の面影は消えてはいない。『マネキン』で共演したキム・キャトラルと、どこかで再共演してほしいと密かに願っているのだが......。

【"あの頃"をチェックするおススメ映画】
・『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』=ファッションがすごい
・『レス・ザン・ゼロ』=ロバート・ダウニー・Jrがまるで本人役
・『マネキン』=キム・キャトラルもやっぱりキレイだった!
・『セックスと嘘とビデオテープ』=青春映画ではなく大人の作品ですが...

◇ただの顔だけスターじゃなかった! どん底から奇跡の復帰を遂げたど根性――ロブ・ロウ

かつてロブ・ロウは"キング・オブ・美しい男"だった。それはもう、最盛期のブラッド・ピットに負けないくらい、そのイケメンぶりを称えられていた。
TVドラマからキャリアをスタートさせ、ついに映画『アウトサイダー』(83年)でスターの仲間入り。『セント・エルモス・ファイアー』(85年)、『きのうの夜は...』(86年)など、好青年、セクシー男など人気スターの階段を一気に登っていたが、そこに思わぬ罠が...。未成年の少女とのイケない関係がバレただけでなく、その証拠となるビデオが流出してしまう。まさにキャリアは急行直下。ただのすけべなハレンチ俳優となり、映画界から実質、追放された。しかし、彼が意外にすごかったのは、その後もスターだった栄光にすがることなく、監督に挑戦したり、どんな作品だろうと、小さい役だろうと、悪役だろうと出演し、俳優であることにこだわり続けた。その努力が買われて、彼は次第にTV映画などに出演するようになる。
そして彼が第一線に復帰したのが、1999年『ザ・ホワイトハウス』だった。同シリーズにレギュラー出演するようなるほか、『ブラザーズ&シスターズ』『カリフォルニケーション』などにもレギュラー出演。もうゲスト出演のチョイ役ではなかった。
スキャンダルが発覚するまでは、イケイケどんどんのスターだったため、"顔と体"だけの俳優という見方が強かった。あのままスター街道まっしぐらだと、同じような役柄ばかり演じ続け、俳優生命も意外に早かったかもしれない。しかし、スキャンダル後は、死に物狂いでさまざまな役柄に挑戦してきたので、かえって演技の幅が広がり、今ではすっかり性格俳優に成長。最近は、スティーヴン・ソダーバーグが監督を務めるHBOのTV映画『Behind the Candelabra』 に整形外科医役で出演し、驚愕の徹底した役作りでも話題になった。さらに最新作では、ジョン・F・ケネディ大統領の暗殺を描いたテレビ映画『Killing Kennedy』でJFKを演じるという。とうとう大統領を演じるまできた。
ただのエロエロ俳優から、実力派と呼ばれるようになるまでのど根性に拍手!
どうか、また調子に乗って、おかしなマネしませんように...。

【"あの頃"をチェックするおススメ映画】
・『アウトサイダー』=トム・クルーズが一番サエない、かなりのイケメン率
・『セント・エルモス・ファイアー』=デミ・ムーアもかわいかった

◇悩んでこそ、いい男になる――エリック・ストルツ

どこか寂しげな端正な顔立ちのエリック・ストルツ。
青春映画『恋しくて』(87年)では、地味でサエないけど、独特の雰囲気を持ち、決して流されない強さを秘めた青年を演じ(個性的で誰にも染まらないヒロインを演じたモリー・リングウォルドの男の子版)、人気を博した。
元々、エリックは本格ドラマ派。その演技力を確かめるには、84年にシェールと共演した難病ヒューマンドラマ『マスク』がおススメだ。次世代の期待の星だった彼は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主演に抜擢。しかし、撮影が進んでから雰囲気にあわないと降板させられてしまう。確かに、マイケル・J・フォックスとは真逆の存在感。やはり軽いタッチの作品はあまり得意ではなく、エリックは『ザ・フライ/2世誕生』(88年)のようなダークな作品や、青春映画でもヒューマン色が強い作品を好んで選んでいく。例えば青春映画では、戦争映画『メンフィス・ベル』(90年)や事故で下半身不随となった男たちの友情を描いた『ウォーターダンス』(91年)などがある。その後も『キリング・ゾーイ』(94年)といった個性派作品や、『パルプ・フィクション』(94年)に出演し、演技力の高さを証明していく。
TVドラマ に本格的に進出したのは、意外に早く1994年の『あなたにムチュー』から。その後1998年『シカゴホープ』にもレギュラー出演するなど、映画とTVの垣根をやすやすと飛び越えていた。そして2000年頃から、TVドラマの監督業に乗り出し、現在では人気シリーズ『Glee』(11話)、『グレイズ・アナトミー』(2話)『プライベート・プラクティス』(4話)など多数の作品で監督をしており、むしろ出演より熱心なようだ。
最近は渋みが増し、若い頃とは違った大人の色気を醸し出しているエリック。監督をするのもいいが、ぜひとももう一度、表舞台に戻ってきてほしい。

【"あの頃"をチェックするおススメ映画】
・『恋しくて』=最高の片思い映画。キスの練習は映画史に残る名シーンの1つ!
・『マスク』=泣ける!とにかく傑作! ジム・キャリーの映画じゃないから勘違いしないでね!

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Photo:キーファー・サザーランド
ロバート・ダウニー・Jr.
(c)Hanako Sato/www.HollywoodNewsWire.net
ジェームズ・スペイダー
(c)Warner Bros. Pictures/www.HollywoodNewsWire.net
ロブ・ロウ
(c)Ima Kuroda/www.HollywoodNewsWire.net
エリック・ストルツ
(c)Megumi Torii/www.HollywoodNewsWire.net