今見るべき一押しドラマ!
俳優たちと作品の命運を握る、重要なポジション。キャスティング・ディレクターという「仕事」〈前編〉

海外ドラマや映画がお好きな読者の皆さんなら、作品のオープニング・クレジットやエンディング・クレジットで、
"キャスティング"という言葉を見たことがあるだろう。

作品の善し悪しは、キャスティングと台本でほぼ決まる!

などという言い方もよくされる。

おそらく、"キャスティング"という言葉の意味合いは、「配役」という訳で理解され、《キャスティング・ディレクター》という仕事が本来は何を意味するのか?その内容を深く知る機会はあまり無いだろう。

そこで今回は、
このキャスティング・ディレクター(※以下、CDと呼ぶ)について俳優の目線でわかる限りをご紹介したい。

今、米国では『Casting By』という秀作ドキュメンタリーが上映中だ。
もともとはHBOでプレミア放送されたこのフィルムが、現在、都市部で単館上映されている。

この映画は、2011年に他界した、米国の映像業界のCDのパイオニア的存在であるマリオン・ドーティーの功績を丹念に綴った作品。
彼女は60年代前半にキャスティングのエグゼクティヴとして手がけたテレビドラマ『Naked City』『Route 66』で多くの有望な若手俳優にチャンスを与え、60年代後半の映画『真夜中のカーボーイ』『アルカトラズからの脱出』80年代~90年代まで『リーサル・ウエポン』シリーズや『フルメタル・ジャケット』そして『バットマン』シリーズ(ティム・バートン監督版)
など映画史に残る作品のキャスティングを担当してきた貴重な人材だ。

20131214_c01.jpg彼女がキャスティングした俳優たちは、
ジェームズ・ディーンクリント・イーストウッドロバート・デュバルアル・パチーノダスティン・ホフマン、クリストファー・ウォーケン、ジョン・ヴォイト、ベット・ミドラー、ダイアン・レイン、ダニー・グローバーなど、名前を挙げたらキリがない。

ABCのテレビドラマ『Naked City』に起用されたジョン・ヴォイト(アンジェリーナ・ジョリーの父親としても知られる)が、当時まだ駆け出しで経験も浅く、本番の緊張で舞い上がってしまった話などは、僕ら俳優なら誰でも経験することなので他人事とは思えない。

そのことをCDであったマリオンに詫びようと、手紙をしたためたエピソードは心温まる裏話だが、その彼がのちにマリオン自身の出世作でもある映画『真夜中のカーボーイ』で主演の座を勝ち取り、この作品がアカデミー賞の主演男優と助演女優を含む7部門にノミネートされ、作品賞/監督賞など3賞を受賞したという事実が語られるシーンは心に残る。

マリオンは、最後まで無名のヴォイトの抜擢にこだわり、その一念が作品にリアルさを与え、昇華したのだ。
マリオンと出会わなければ、ジョン・ヴォイトの現在までの俳優としての名声は生まれなかったと言っても過言ではない。

ところが、1969年公開(70年受賞)のこの時、時代はまだCDの職の存在を強く認識してはいなかった。
アカデミー賞作品賞に輝いた、ジョン・ヴォイトを見出したこの作品に、
キャスティング担当マリオン・ドーティーの名は、作品にクレジットさえされていないのだ。

"キャスティング・ディレクター"という地位が確立されるまでには時間がかかった。

「Director/ディレクター」という名称、そのポジションは、
"監督" だけのものである
、という業界人や各組合の主張やこだわりは今も根強いそうだ。
なので過去の作品には、「Casting By ◯◯◯◯」とクレジットされた作品も多いのだという現実が、このドキュメンタリー映画のタイトルの由来なのである。

確かに、作品に出演する俳優たちを起用する決定権は、
最終的には監督やプロデューサーたちにある。

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さて、
ではキャスティング・ディレクターという役職は、いったい、
何をディレクト(direct)、つまり「導く」のだろうか?

先日、ハリウッドの映画館で初上映されたこの映画は、業界の多くのトップCDたちに強く支持されている。
公開の最初の週末には、それらCDたちが各上映会の後に、ステージに登場し、トークセッションとQ&Aの時間を設けた。映画も素晴らしかったのだが、このトークが珠玉の時間であった。

僕が観に行った回には、二人のトップCDが登場した。
一人はエイプリル・ウェブスター、そしてもう一人はバーバラ・マッカーシー。

バーバラは、プライムタイム・エミー賞を数部門で受賞したテレビのミニシリーズ『ケネディ家の人々』を手がけ、過去にはパラマウント映画のキャスティング部門で働いた経歴を持つ。
そしてエイプリルとは、『エイリアス』『LOST』『FRINGE/フリンジ』『パーソン・オブ・インタレスト』『ALMOST HUMAN』『MI:Ⅲ』『スタートレック』シリーズJ・J・エイブラムスのキャスティングの右腕と言っていい、知る人ぞ知る名CDである。

彼女たちが披露してくれた印象深いエピソードをご紹介しよう。

J・J版『スタートレック』(2009年公開)のオーディションの時のことである。
クリス・パインが勝ち取ったカーク船長役には、ハリウッドの有望な若手俳優が多くが演技テストに挑んだという。その中に、まだ世間的には無名と言っていい、クリス・ヘムズワース(以下、クリス・H)がいた。

クリス・Hは始め、「ジェームズ・T・カークの役には、僕の(大きな)体格ではイメージが合わない。CDであるエイプリルに自分が会っても、かえってマイナスのイメージを与えてしまうんではないか?」

と、やや消極的だったという。

ところがキャスティング助手らは、

「大丈夫、そんなことは心配せず、エイプリルには是非会った方がいい!」

と励ましたそうだ。クリス・Hはその声に押され、エイプリルに会った。

そしてどうなったか?

残念ながら予想通り、ジェームズ・カーク役は獲得できなかった。
役とのイメージは合わなかったのだろう。

しかし、彼はエイプリルと製作陣の目に留まった。

201314_c02.jpgクリス・Hはなんと、カークの父、ジョージ・カーク役に抜擢され、新生『スタートレック』の冒頭の10分で任務に命を捧げた人物を好演した。
この巨大な製作費の作品で、映画デビューを飾ったのだ。

そして、映画が公開してみると、「(カークの父を演じた)彼は誰?」と注目を集めたのだという。

そして彼がその後、パラマウント配給&マーベル製作の『マイティー・ソー』の主演で世界的なスターとして脚光を浴びたのは、ご存知の通り。

ちなみにこの時、カークの母を映画の冒頭で演じたのは、
のちにドラマ『ワンス・アポン・ア・タイム』で堂々と主役を張ることになるジェニファー・モリスンであることも興味深い。

すべては、
キャスティング担当との、ほんの数分~15分程度の出会いからスタートするのだ。

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この夢のようなエピソードを俳優の視点から見ると、
学ぶべき大切な点が2つある。

一つは、
オーディション前に「役に向いているかどうか?」という部分を自分でジャッジし、
(俳優として)自分で自分の限界ラインを決めつけてはいけないということ。
どんな役のテストでも、実は"その役"ひとつだけでなく、未来への可能性があるので、その出会いに全力を注ぐことが大事だということ。

もう一つは、
この映画の冒頭で演じたクリス・Hの実際のスクリーン・タイム(映像に映っているショットやシーンの実際の長さ)は、おそらく5分前後である。
わずか数分と思うような役でも、台本がたった数ページと思うような役でも、
演じ方と物語によっては、観客の心に何かを刻める、という点だ。
だから、役に「小さい役」など決して無く、どんなパートに起用されてもやはり渾身の力で臨まなければならないということがわかる。
役を演じる責任感と、惹き付ける魅力を持つ人間は、
わずかなシーンでもしっかりと役割を全うしている。

エイプリルとバーバラは、

「俳優たちの持つ"スター性"を最終的に輝かせるのは、監督たち。でも、最初にその俳優たちを見つけ出すのは私たちなの」と力強く語った。

監督らは、何かの映画やドラマの上映や放送を見て、
たまたま良い演技の俳優や、素晴らしい存在感を溢れさせる人材を見つけ、「この俳優、いいね!使いたい!」と思い、オーディションに呼び寄せることがあるだろう。
しかし、それらの無名俳優たちでさえ、何百、何千という俳優志望者たちの中から発掘して、「役」のオーディションの機会を与え、その才能を最初に見出したのは、やはりキャスティング担当者たちなのだ。

もちろん、CDの人たちそれぞれの見た目や演技のトーンや質の好みというものはあるだろうが、彼ら/彼女らは、何らかの魅力を放つ俳優をずっと覚えている。

そして「(この役には)この人だ!」という人材を彼ら/彼女ら自身も、祈るような思いや、ドキドキした心持ちで監督やプロデューサーたちにプレゼンする(引き合わせる)。

緊張する俳優たちが、オーディションで見せた魅力以上のものを引き出せるように、リラックスさせ、演技に関して助言やアイデアも与え、挑ませるのだ。

それは、衣装デザイナーが描いたデザインや試作の衣装を監督にプレゼンするのにも似ている。
あるいは美術デザイナーがセットを建築し、最終的に監督やプロデューサーらのチェックと了承を受けるためにプレゼンするのにも似ている。音楽部門もしかり、編集部門もしかり。

で、ありながら...
キャスティング・ディレクターには、今もアカデミー賞の受賞部門が無い。
その事実が映画『Casting By』の中でも語られている。

ディレクター(director:導く者)という「名」のもとに、
配役決定に至るまでのプロセスを明確に線引きするのはやはり難しいのだろう。

しかし今年の夏、ようやくアカデミーの組織の重要ポストにキャスティング業の人材が就き、ブランチ(支部)が設けられたという明るいニュースが発表された。
"部門賞"設立までにはまだ時間がかかるかもしれないが、CDたちの、その仕事の奥深さにもっと脚光が当たる日は近い。

過去には、前述したマリオン・ドーティーにアカデミー賞功労賞を与えよう! という活動もあったようだ。その請願には、多くの著名な監督や俳優が名を連ねた。

いつか、キャスティング担当者のオスカー受賞を見届けてみたいものである。

しかし、それが即実現せずとも、CDたちの仕事は実に尊い。
彼ら/彼女らは、職人のような心眼に誇りを持っている。

プロデューサーたちは、
作品全体の進行を先導するディレクト。

監督たちは、
最高の感情や効果的な演出を導き出すディレクト。

そして、キャスティング・ディレクターたちが
何を導くのかといえば、

俳優たちの未来と、作品との「類い稀な縁」を
ディレクトしているのかもしれない。

後編に続く

Photo:アル・パチーノ
(c)Jun Matsuda/www.HollywoodNewsWire.net

Photo:『スター・トレック』出演時のクリス・ヘムズワース
(c)Ima Kuroda/www.HollywoodNewsWire.net