米TV界で各賞受賞の傑作ドラマ「ブレイキング・バッド」の人気キャラクター、ソウル・グッドマンを主人公にした「ブレイキング・バッド」の前日譚ドラマ

思わず読みたくなる!情報満載 海外ドラマNAVI編集部 アメリカ支局なう!! 辛口ゴシップ情報から、先取りの番組情報、限定お宝グッズ情報など、LA&NYを中心に、アメリカ在住の特派員が生な情報を直送でお届けします。ここでしか読めない最新情報満載!お楽しみに。

【お先見!】アメリカの司法刑事制度に切り込んだスリル満点のサスペンス『The Night Of』

これまでのケーブル局やプレミアムチャンネルに加え、NetflixやAmazonなどのストリーミングで見られる良質なドラマが充実している昨今。製作され続けるものを全部観ようとしたら、一生がすぐに終わっちゃいそうな勢いですね。そんなドラマ黄金時代、2016年の夏に米国で放送され、評価が非常に高く、メディアやSNSでも大いに話題となったHBOのミニシリーズ『The Night Of(原題)』を紹介します。

【関連コラム】完璧。圧倒的な水準でテレビドラマ界を席巻!!! HBOと言えば...『True Detective/トゥルー・ディテクティブ』の深みに迫る(前編)

奥手な男子学生ナーズはある晩、知り合ったばかりのキレイな若い女性アンドレアと彼女の家で一夜を過ごすが、朝、目覚めるとアンドレアは惨殺されていた。昨夜、何が起こったのか記憶にないが、自分が彼女を殺めたとは思えない。しかし、ナーズは事件後に取った行動によって不利な立場に追い込まれ、事件の第一容疑者として警察に拘束されてしまう。そんなところに偶然居合わせた弁護士ジョン・ストーンが、ナーズに何かを感じて弁護を申し出る。果たして彼はナーズの無実を証明することができるのか、あるいは犯人はナーズなのか...。

このドラマは、英国BBC製作の『Criminal Justice』(2008~2009年)というドラマ・シリーズのシーズン1を下敷きに、ニューヨークに舞台を移して作られた8話からなるクライム・サスペンスです。

ジョン・タトゥーロ

その魅力は、なんといってもキャラクター設定の妙と秀抜なキャスティング。ナーズの弁護士となるジョン・ストーンのキャラがいいんです。一度は幸せな家庭人だったこともあると思われるが、今はトラブルを抱え、どこか人生投げやりになってしまった訳あり男。 コーエン兄弟の映画などで数々の強烈な印象を残してきた個性派俳優のジョン・タトゥーロが、この一筋縄ではいかないキャラを哀愁とブラックなユーモアを交えて演じています。警察署を徘徊しては小さな刑事事件の弁護ばかり引き受けて日銭を稼ぐさえない弁護士が、この大きな事件に関わることでどうなっていくのかが見どころ。ちなみに、2012年にHBOが本作のパイロット版をオーダーした時、この役に決まっていたのはタトゥーロではなく、ジェームズ・ガンドルフィーニ(『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』)でした。2013年のガンドルフィーニの突然の死により、ストーン役は最終的にタトゥーロになった経緯があるのですが、タトゥーロがこれまで演じてきた個性的な役に負けず劣らず奥深い演技で、改めてその才能の豊かさを強く示しています。

そしてもう一人の主役、殺人の容疑をかけられる大学生のナーズは、パキスタン系アメリカ人。彼はアメリカで生まれ育ちましたが、両親は祖国パキスタンから、よりよい生活を求めてきた移民。ニューヨーク市内のクィーンズ区(マンハッタンからイーストリバーを隔てて北東に位置する、移民が多く住む区)に家族で慎ましく暮らし、息子たちに大学教育を受けさせるため、父親はタクシードライバー、母親は掃除婦として日々懸命に働く善良なイスラム教徒です。9.11以降、アメリカで一時期広がったイスラム教徒差別が、またここにきて ISIS出現やドナルド・トランプの差別発言などをきっかけにメディアでよく取り沙汰される今、こういうバックグラウンドの青年を主役に据えたドラマが公開されるのは、イスラム教徒への偏見を払拭する助けとなる有意義なことだと思います。

リズ・アーメッド

ナーズを演じるのは、パキスタン系イギリス人のリズ・アーメッドという俳優兼ラッパーです。生まれ育った国こそ違うものの、パキスタン系イスラム教徒の移民2世であり、まだ米国では名前を知られていなかった彼がこの役を演じることで、ドラマにリアリティが加わりました。ナイーブな青年が、事件の夜を境にどのように変わっていくのかも注目ポイントです。アーメドはこの役で米国でもブレイクし、12月公開の『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』に出演するなど、今後アメリカでますます活躍するでしょう。

また、ナーズの父親役をイラン人俳優であるペイマン・モアディ(『別離』2011年)が演じています。さらに、マイケル・ケネス・ウィリアムズ(『THE WIRE/ザ・ワイヤー』『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』)が鍵を握る役で出ているのも、あえてつけ加えたいところです。

マイケル・ケネス・ウィリアムズ

そんなキャラクターと俳優陣に加え、『The Night Of』の魅力は、脚本と演出の素晴らしさに尽きます。クリエイターは、リチャード・プライス(『恋に落ちたら...』『クロッカーズ』の脚本)とスティーブン・ザイリアン(『シンドラーのリスト』『マネーボール』の脚本)という映画畑で活躍してきた二人。プライスが脚本を執筆し(第5~8話はザイリアンも共同執筆)、ザイリアンがほとんどのエピソードを監督していますが、話が進むにつれてどんどん面白くなります。先の展開が読めず、毎週一話見終えると、もうすでに翌週放送のエピソードが待ち遠しくてたまらない8週間でした。このドラマには、ただ単に「誰が本当に殺ったのか?」という結論よりも重要なテーマがいくつも提示されていて、ボーッと見すごすことはできません。

スティーブン・ザイリアン

例えば、ナーズは裁判を待つ間、ライカーズ・アイランド刑務所というニューヨーク市に実在する刑務所に収監されます。ここは近年、看守による囚人の虐待や囚人同士の暴力が多発し、施設内で何人も死者を出している悪名高い刑務所の複合施設ですが、ドラマでもそのイメージに沿って描かれており、施設が抱える問題、ひいては米国の刑事司法制度の問題を浮き彫りにします。真面目な両親に大切に育てられた世間知らずのイスラム教徒の青年が、いじめや暴力の横行する劣悪な刑務所でいかに生き延びていくのか? また、裁判のあり方に問題はないのか?

『The Night Of』は、個人的に2016年の新作ドラマの中で今のところベストです。おそらく来年のゴールデン・グローブ賞やエミー賞でも、このドラマがリミテッドシリーズの部門で、作品賞、脚本賞、男優賞といった複数の賞の候補になると思います。シーズン2があるのか気になるところですが、現時点では未定。もし作られるとしても、シーズン1で一応話は完結しているので、別のキャラが出てくる話となるはずで、新たなキャスティングが予想されますが、彼ら二人のクリエイターが作るドラマだったら、観なくてはなりません。このセンセーショナルなシーズン1を観た人なら、きっと誰もがそう思うでしょう。

Photo:
ジョン・タトゥーロ (C)Izumi Hasegawa / HollywoodNewsWire.net
リズ・アーメッド(『The Night Of』)(C) Capital Pictures/amanaimages
マイケル・ケネス・ウィリアムズ (C)Kazuki Hirata / HollywoodNewsWire.net
スティーブン・ザイリアン (C)Manae Nishiyama / HollywoodNewsWire.net

シェアする このエントリーをはてなブックマークに追加

現地特派員

キャサリン

キャサリン

編集部イチの海外ドラマ通。アメリカ支局で西へ東へ大忙し!

記事を見る

サーシャLK

サーシャLK

カリフォルニア州在住。CIAが活躍するスパイ・サスペンス、警察・FBI・DEA(米国麻薬取締局)が活躍する犯罪捜査系、裏社会に生きる無法者を描いたハードボイルド系ドラマ、辛辣な風刺コメディが特にお気に入り!

記事を見る

明美・トスト/Akemi Tosto

明美・トスト/Akemi Tosto

ロス在住歴20ン年。子供の頃から映像ひとすじのイヌ大好き人間

記事を見る

オー・ソレミヨ

オー・ソレミヨ

笑えて泣ける美味いドラマが大好物です。NY在住。

記事を見る

パエリア・サングリア

パエリア・サングリア

ノードラマ、ノーライフ。北九州産ニューヨーカー。

記事を見る

TAKO社長

TAKO社長

夜が更けて 家族が寝入り ドラマ観る 止め時逸し 明日も寝不足
(LAにて)

記事を見る

Lucky

Lucky

海外ドラマを愛してやまないアメリカ在住のブロガー、LAで修業中。

記事を見る

園芸二

園芸二

陽光降り注ぐサンディエゴで引きこもってるオタクドラマファン。

記事を見る

びねくにこ

びねくにこ

ドラマで人間観察が趣味だが、感情移入しすぎてよく泣く。SF在住。

記事を見る

PAGE UP